第六十章 未来は既に決まっている
オリシリアを埋葬し、数日間の旅を経てソニヤ、シズク、サマエルの三人はソニヤが育った村へ辿り着いた。
「ねぇソニヤ、ここがソニヤの育った村なの?」
村の入口から少し離れてはいたが、自然に囲まれた空気さえ美味しいと感じられる場所だった。
「………そうだね」
ぶっきらぼうに相槌を打ったソニヤは、これまでにないくらい暗かった。
これから先は何を言っても楽しい会話は期待出来ないだろう。ソニヤにとっては心をえぐる思いをしなければならない………のかもしれないのだから。
「ね、ねぇ。そんな怖い顔しなくたって大丈夫よ。ジーナスが最後まで過去の映像を見せなかったのは、きっと嘘を言ってたからよ!うん!絶対そうよ!」
無責任なのは承知でも、元気付けてやりたい。シズクは視線をチラチラとソニヤにくべながら言ってみた。
「サマエルもそう思うでしょ?」
「……………。」
特にと言おうか、敢えて発言する気はなく、無言でいる。
そんなサマエルの態度にシズクは憤慨したいのだが、
(ちょっと!空気読んでよ!一番歳上なんだから、気のきいたこと一言くらい言ってよ!)
小さな声で遺憾の意を表明するにとどめた。
が、そもそもサマエルに気を利かせろという方が無理がある。
「このトンチキッ!」
結局、怒りをぶちまけてしまうのだが、
「いいよ。大丈夫だから、ありがとうシズク」
いつ以来か覚えてないくらい久々にソニヤが笑ってくれた。
「ソニヤ」
「少しナーバスになりすぎてたみたいだ。ゴメン。でも本当に大丈夫だよ」
「でも………」
「ちゃんと事実を聞いてくる。だから、申し訳ないけどここに居てくれないか?」
村に入らず、入り口で待てと言う。シズクとしては、着いて行くつもりでいただけに、困惑の色を見せてしまう。
ソニヤの意志を尊重してやるのがいいのだろうが、心配は消えることはない。確かめようとしていることがことだけに。
「じゃ、行ってくる」
「ソニヤ………」
「大丈夫だって。サマエル、シズクを頼む。すぐ戻ってくるから」
心配かけまいと、笑顔を崩さず言った。
「夕暮れまでには戻って来い。野宿するにしてもこんな場所は御免だ」
「うん。わかってる」
そうして、ソニヤは村へ行った。
入り口からは少し距離がある。切り立った岩肌の間を、慣れたように歩いて。
「ねぇ、サマエル」
「………なんだ?」
「もし………もしもだけど、ソニヤがジーナスの子供で、ソニヤの両親が村の人達に………その、殺されたことが本当だったら………」
「ソニヤはどうするか………か?」
「………うん」
サマエルが一度死んでから生き返るまでのジーナスとのやり取りは説明してある。だから、ソニヤが自分の育った村へ戻って来た理由も、サマエルは分かっている。
「事実はひとつのみだ。誰にも変えることは出来ない。覚悟はあるのだろう。後は、ヤツの心の強さが決めることだ」
それはソニヤを信頼しての言葉なのか、聞こうかと思ったがやめた。どうせまともな返事はすまい。
それに、他人の心の強さまでは推し測れない。あれこれ考えても、事実はひとつであり、それを確認したソニヤがどうするか………
(ソニヤ、例え望まない事実だったとしても、どうか自分を見失わないで)
未来は既に決まっている。