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第五十八章 鎮魂歌

「ちょっと待て。この先はどうしたんだ?」


ソニヤは過去を見せられていたが、唐突に終わりを告げたことに不満を漏らした。

二人が………父と母が幸せになれそうなことは言うまでもないが、これでは悲しい証拠かどうか分からない。大切なのは村から受け入れられた二人にどんな悲しいことが起きたのか。

ジーナスに食いかかるソニヤは、どこか焦りと泥のような感情を感じる。傍らにいるシズクは、嫌な予感に拍車をかけていた。

ジーナスは、意図的に過去を見せることを拒んだ。そう言わんばかりに、


「この先は見せるわけにはいきません」


「なんでだよ!!」


「あなたを………やはり悲しませたくない」


「この期に及んで………」


「分かってください」


「分からないよ。お前が本当の母親だとしても、そうじゃないにしても、そんなことより続きを知りたい。ボクには知る権利がある」


きっとソニヤは退かないだろう。無責任にも口を滑らせた自分を、ジーナスは悔やんだ。


「なら、私の口からお話しましょう。それ以上は譲れません。あなたにとって二人が大切なように、私にとっても、あなたを託すに値した恩人なのですから」


「………いいよ。それで」


駄々をこねてもジーナスは譲らない。そんな気がした。


「では………。私はゴッドインメモリーズによる神々の戦で生き残りはしたのですが、あまりに壮絶な戦は人々に恐怖しか与えませんでした。その為、私は邪神と呼ばれたのです。けれども、多大な力を使い果たし、私自身はこの冒涜の都から離れることが出来なかったのです。もちろん、今も。かろうじて魂だけは非常に僅かな時間、離れることは可能になりましたが。そんな折、帝国はゴッドインメモリーズのことを知り、セルバにそそのかされるまま、私を倒しゴッドインメモリーズを手に入れようとしたのです………もっとも、ゴッドインメモリーズがどんな魔法でどんな形で存在するかは、セルバは知っていましたから、脅威に立ち向かう勇敢を演じ、軍を掌握するのが目的だったのでしょう」


「なあ、そんな話はいい。父さんと母さんに何があったのか聴きたいんだ。それ以外に興味はない」


「分かっています。ですが、必要な話です」


ソニヤが返事を返さないのは、承諾したのだと判断すると、ジーナスはまた話を続けた。


「帝国との戦いが始まり、彼らがここに来るまでそう時間はかかりませんでした。私は魔力を充電しては、少しずつ切り崩し応戦していました。………しかし、まだ赤ん坊のあなたがいました。帝国に敗北を帰すとは思いませんでしたが、万が一を考慮して、サムロとエレノアに頼んだのです。あなたのことを。誰でも良かったのですが、優しそうなあの二人に決めたのです」


思い出すような話は、間を置いてジーナスに悲痛な表情もたらした。


「私は時折、二人にも内緒であなたの成長を見に行ってました。………そんなある日のこと、帝国の地域管理が厳しさを増すと、村の住人はあなたを帝国に渡すようサムロとエレノアに迫りました。そして、拒んだ二人を………」


「まさか………」


ジーナスは小さく頷き、


「殺したのです」


ソニヤは青ざめ、後ずさった。


「う、嘘だ………父さんと母さんは事故で………」


「ソニヤ!」


フラフラと倒れそうなソニヤを、シズクが支えた。

身体が汗ばんでいる。不快な汗が。

村の住人が二人を殺した。そんな話をソニヤは信じていない。サムロとエレノア亡き後、ソニヤを育ててくれたのは他でもなく村の住人だ。それに、自分が理由で二人が殺されたのなら、自分も殺されなくては説明がつかない。


「疑うのならば、直接問いただしてみるといいでしょう」


ジーナスは曇らせた表情を変えず言った。


「言われなくてもそうする。ボクはお前が母親だなんて信じない!」


確かな証拠なんてなかった。見せられた過去の映像も、神という立場なら造作もないだろう。


「行こう、シズク。ボクは君を助けに来たんだ。君さえここから連れ出せればそれでいい」


シズクの手を掴み、立ち去ろうとするソニヤは、シズクにも分かるくらい動揺している。


「待ちなさい」


ジーナスは呼び止め、


「シズクを連れていく以上、またヴァルゼ・アークらに狙われるでしょう」


「ゴッドインメモリーズでまた追い払うさ」


「あの男を甘く見てはいけません。ゴッドインメモリーズとて、あなたの力ではないのです。必要な時にいつもさっきのような力が出るとは限らないのですよ?」


そう言うと、ジーナスは指先に強い光を収集し、ヴァルゼ・アークに倒されたサマエルの亡骸へと放つ。

光は、真っ直ぐにサマエルへ向かい、その体内へ侵入した。

ソニヤとシズクが不思議な顔で成り行きを見守っていると、


「………!」


ソニヤの目に映ったのは、サマエルがゆっくりと上体を起こす様子。


「ねぇ………サマエルって………」


「ああ。死んだはずだよ。オリシリアも」


しかし現にサマエルは動いて、感覚を確かめるように手のひらを握っては開きを繰り返し、やがて起き上がってこちらへやって来た。


「俺を生き返らせたのは貴様か」


相変わらずの無礼な態度を見せる。


「生き返ったと分かるのですか?気を失っていただけかもしれませんよ?」


「ククク。かもしれんな。寝てる間に展開が進んだようだが………」


ソニヤとシズクを見て鼻で笑い、


「まあいい。ついでだ、オリシリアも生き返らせてくれないか?」


「それは出来ません」


「なんだと?」


不服。


「その子らには話しましたが、過去の戦いの時に、多くの魔力を失ってしまったのです。人ひとり生き返らせるほどの魔力を溜めるには、しばらく時間を要します」


「ほう。なら、オレではなく何故彼女を生き返らせなかった?何か理由があるのか?」


鋭い眼光がジーナスを射抜く。


「二人の警護を頼みたいのです」


「警護?いつから要人になったんだ?コイツらは」


サマエルがギロリと二人を睨んだ。オリシリアだけが 生き返れないのが相当不満なようだ。


「お願いします。見たところ、かなり腕のある戦士かと。お望みなら、あなたがオリシリアと呼ぶ女性も生き返らせて差し上げますよ?魔力の回復に少々時間がかかりますが」


言われて、サマエルは何やら思慮しているようだったが、


「いや。オリシリアは生き返ったところで家族の居ない身だ。このまま弔ってやる」


「そんな………せっかく生き返らせるって言ってんだからさ」


「黙れ」


オリシリアを抱え上げ、ソニヤを一喝した。

サマエルの態度に納得はいかなかったが、自分にはまずするべきことがあると、ソニヤはシズクに目で訴え、


「じゃあ警護を頼むよ。シズクを狙う奴らがいるからね」


そう言ってジーナスの下から去って行った。


「念を押すようですが、くれぐれも二人を死なせないで下さい………」


ジーナスはジーナスで、サマエルにそう告げたが、


「……………。」


サマエルは何も言わず、ただぎゅっと、抱え上げたオリシリアの肩を強く抱きしめただけだった。

健気でありながら、その心中には強い意志を秘めた彼女との少なすぎる思い出に、無言の鎮魂歌。


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