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第六章 ファーストタッチ

起こしてくれるなら、もっと“普通”に起こしてくれないか。と、ソニヤは寝ぼけまなこをこじ開けて羽竜を見た。


「起きろ。いつまで寝てんだ」


なんと粗野な男かと思いながらも、起きないだけが理由ではないような恐い顔をしているところを見る限り、不機嫌な要素があるのだろう。


「ソニヤ!」


「う……ん………わかったから………」


いつもより夜更かしをした。この眠気はその代償。

しかしながら、少しだけ開いてる窓からは、涼しい風が朝の挨拶にやって来る。

暑さが起きてないということは、“早朝”ということ。

早起きは苦にしない方だが、夜更かしの後では“苦労”以外の何物でもない。


「まだ早くない?」


恨めしそうに羽竜を見た。

羽竜はと言うと、剣と鞘を具現化して腰に提げている。


「何してるの?」


「決まってんだろ、支度してるんだ。お前もさっさと用意しろ」


「ふわぁ………。もうちょっと寝ようよ。夕べ遅かったし………」


何気なくそんなことを口にすると、羽竜に睨まれ、近寄るなり胸倉を捕まれた。


「いっ………痛いよ……!」


「ソニヤ。遊びじゃないんだ。旅に出れば、何が起こるか予想つかない。気合い入れてねーと、死ぬぞ」


バッと胸倉から手を離し、ソニヤも仕方なくベッドから降りる。


「ごめん。そうだよね。遊びじゃないんだ」


背伸びをして、近間にあったリュックサックを手にすると、


「持ってくのは服と………あ、薬もいるよね」


「………ソニヤ」


「何?………お金どうしよう?ボク、ちょっとしか………」


「昔、クダイって奴がいた」


おもむろに羽竜が何かを話始め、ソニヤの手が止まる。


「お前みたいに頼りないヤツでさ。クダイは、自分の意志を無視する運命に翻弄されてた。どんなに努力しても、逆らえない運命や、望まない結果を強いられ仲間を失ったり………苦しんでた………」


「羽竜?」


「きっと、お前にも同じような試練とか待ってるんだと思う。だからといって、結果がどうなるかは誰にも分からない。どんな苦境も、抗うだけ抗うしかないんだ。女神がお前に白羽の矢を立てたんだ、お前にしか出来ないことが絶対あるんだよ」


何を言いたいのかは、何となく分かった。

遊びじゃないんだ。と、その意味は深い場所にある。

羽竜は時空間を旅して来て、様々な運命を見て来た。それがどんな結末を迎えようと、逃げることは叶わない。

挑み、また挑み、それでも挑み続けなければならない。

ソニヤも、その気持ちを受け止める。

どうやって帝国の野望を阻止するか。それさえ、挑まなければならない自分の運命なのだと、言い聞かせた。


「ねぇ、羽竜。そのクダイって人、ちゃんと運命に勝てたの?」


なんだか、クダイに親近感が湧いた。


「さあな。最後まで見届けられなかった。途中で、俺はヴァルゼ・アークを追う為にその世界を出たからな」


羽竜は空を見つめた。

案じているのだ。遥か遠くの世界の友人を。


「でも、きっと勝ったはずだよ!そんな気がする」


「………そうだな。アイツなら、上手く乗り越えだろ」


羽竜が見ているものを、ソニヤも見てみたいと思った。

これから先のあらゆることを考えても意味がない。

今日が旅の始まりなのだから。


「ところでソニヤ、お前剣とか使えんのか?」


「え?いや………そういう類の物は触ったこともないんだけど………」


羽竜が溜め息を吐いた。

ある程度覚悟はしてはいたが。


「しゃあねえな。なんか考えるか」


「剣とかなんて要らないよ!人を傷つけるなんて、絶対無理だし!」


「ばぁか。人を傷つけるだけが剣の役目じゃねーよ。自分を守ることだって出来るんだ。でもま、覚悟はしておけ。何でも話し合いでカタが着くって思わないことだ。そういう旅をするんだよ、俺達は」


パターンは読めている。いつもは一定の距離を保ちながらヴァルゼ・アークを追う羽竜も、何故だか今回だけは気持ちの向かう先が違う。

ソニヤの運命に、自分から触れて行こうと決めた。

村が隠すソニヤの秘密。

女神がソニヤを選んだ理由。

ソニヤといれば、自ずとヴァルゼ・アークに辿り着ける気がするのだ。


「村のみんなに挨拶だけしたいんだけど………」


「ダメだ」


「ど、どうしてさ?」


「お前の気が変わると困る」


「そんなぁ」


「ソニヤ。別れを始まりにするな」


「だけど、ずっとお世話になったんだ!」


「同じことを言わせるな。ただでさえ先の見えない旅なんだ。前だけを向いて行くんだ」


「うぅ………分かったよ」


唸りながら諦めた。

羽竜には逆らえない雰囲気がある。

まるで兄のような。

それはそれで頼れるからいいのだが、機嫌のパラメータをあからさまに表現するのはやめて欲しい。


「じゃ、行こうぜ」


「うん」


流されるまま、目の前の扉を羽竜が開けば、旅が始まる。

羽竜は躊躇わずに扉を開けると、朝独特の青い匂いがした。

この旅が終わる時、自分がどうなっているのか。今はまだ考えが及ばなかった。










「…………。」


目を覚ました。

もう何度か目にはしてるが、未だに見慣れない木造の天井。


「あら、起きたの?」


こちらも、何度か聞いてる。それでも聞き慣れない女の声。


「包帯取り替えましょ。汗も拭かなきゃ」


そう言って手にしてたタオルで男の汗を拭おうとすると、強く腕を掴まれた。


「ちょ、どうしたんですか?」


男がここに来て四日。何のリアクションも見せなかった男が、初めて見せた反応だった。


「オレの剣はどこだ?」


そして初めての会話。


「剣?あのとても大きな?あれならあそこに………」


指で指し示す。

すると、男はベッドから降りてまっしぐらに剣を取る。


「重かったんです、それ。大変でしたよ、一人で運んで来るのは」


女は、金色の巻き毛を揺らして男の背後に近付く。

ようやく口を開いた男に興味を惹かれる。


「あの、帝国の騎士様なんでしょうか?あ、ほら、行き倒れてるあなたを発見した時に、銀色綺麗なの鎧を着てましたから」


そう言われると、上半身が裸なのに気付く。

目を這わせると、部屋の片隅に鎧が無造作に置いてあった。


「あなたを運ぶのに、一度鎧を脱がせたんです。この森には、私しか住んでないので、剣を運ぶより苦労しました」


まだ若い女は、胸を張って威張って見せた。


「でも帝国の騎士様は白い鎧ですよね?治安隊は銀色だけど、あなたのよりくすんだ鈍色だし………帝国のお偉いさん?」


「帝国?知らんな」


「じゃあ、あなたは誰なの?」


男はニヤリと鼻で笑う。

そして、


「オレか?オレの名はサマエル。修羅の道を求める者だ」


青い髪を掻き上げた。


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