第五十六章 負号
「あなたは私の息子です。ソニヤ」
そうジーナスは告げた。
「そんな………じゃあ、ボクを育ててくれたあの二人は誰なんだ!」
「あなたが実の親だと思ってる二人は、私が依頼したのです。あなたを引き取って欲しいと」
「依頼?嘘だ。父さんと母さんはボクの本当の両親だ!」
「ソニヤ。信じたくはないでしょうけれど、どんなにあなたが拒んでも、事実はひとつなのです」
「証拠は?ボクがあんたの息子だって証拠だ」
「物的な証拠はありません。ですが、悲しい証拠ならあります」
「悲しい………証拠?」
「はい。とても悲しい証拠です。あなたが望むなら話しますが?」
決めるのはソニヤ。委ねるからには、ソニヤにとってつらいことに間違いない。そう判断したシズクが、
「聞く必要なんてないよ、ソニヤ。怪しい臭いがプンプンするわ」
十中八九、ソニヤを傷つけてしまう気がしたからだ。
迷い、返答を言い淀んでいるソニヤに、ジーナスは心無しか、微笑みかけているようにも見えた。
とてもじゃないが、悲しいと表現した証拠を突き付けようとしている母親には見えなかった。
きっとこちらの疑問としていることを、全て解決出来る情報があるのだろう。
優位に物事を進めようとする様子が、シズクには気に入らない。
「ソニヤ!」
聞くか聞くまいか悩んでいるソニヤの横で声を上げた。
「いいよ。聞く」
そんなシズクを余所に、ソニヤは頷いた。
「ソニヤ!騙されてんのよ!ソニヤのお父さんもお母さんも、本当の両親に決まってる!」
「それを確かめる為にも、ジーナスが言う悲しい証拠を聞きたい」
「でも………!」
「心配しないで。例え、ジーナスがボクの母親だったとしても、それだけの話。何も変わらない」
案ずるシズクをなだめてニッと笑った。
そして、深く呼吸をしてからジーナスを見る。
「さあ、話してくれ。悲しい証拠とやらを」
これまでになく逞しい顔を見せた。
「分かりました。あなたが選んだことです、後悔無きように」
ジーナスは、意味ありげに笑むと、右手をしなやかに頭の上に上げて、手先をくるっと回した。
辺り一面が一気に闇へと変わる。
何が始まるのかと不安がる二人に、
「あなた達に過去を見せましょう。そして史実を知りなさい」
誘うは過去。邪神の導くままに。