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第五章 予定されていた未来

「そうか………お前が決めたなら止めはせん」


村長とソニヤに紹介された老人は、おとなしくソニヤの話を聞いた後、ゆっくりと頭をもたれ頷いた。


「すぐにでも行くのか?」


「はい。明日の朝には」


ソニヤは丸い切株に腰を降ろした村長に言った。


「なら、今夜は村をあげて祝ってやらねばな」


女神のことは話してない。

羽竜のことも、通りすがりのただの旅人とだけ話してある。

旅に出る理由は、羽竜の話を聞き、自分の可能性を求めたくなったと説明してある。

本当のことを話しても理解してもらえるとは思えないし、両親を失くしてから村のみんなに育てられた。

無駄な心配をさせたくなかったのだ。


「別にいいですよ」


「そうはいかん。お前は村のみんなの息子じゃ。お前が自分の将来を思い決めたことは、村が一丸となって見守り続けたい」


村長は穏やかな人柄をそのまま押し出したような顔で言った。

ソニヤとしても嫌なわけがなく、むしろ嘘をついたことに後ろめたさが残った。


「じゃあ………お願いします」


「ふむ。なら早速準備にかからんとな。羽竜………だったかのお?」


壁に背をもたれ腕組みをしていた羽竜は、名前を呼ばれチラッと村長を見る。


「ああ」


ぶっきらぼうに返事を返す。

気にかかることがあるのだ。


「今ここで言うのもなんじゃが、ソニヤを頼む。人のいい優しい子じゃ。迷惑もかけるじゃろうが、大きな気持ちで見てやってくだされ」


「………心配するな。連れて行くからには面接は見る」


「お願いします」


村長は丁寧に羽竜に頭を下げる。

端から見れば、どう見ても礼儀正しい村の代表者。

ここまでされて気分を害す奴など、通常はいない。通常は。


「よろしくね、羽竜」


改めて挨拶するソニヤに、特に言葉も返さなかった。

気にかかること………この二人のやり取りが引っ掛かる。

村から愛されているソニヤ。

その旅立ちを快く送り出そうとしてくれる村長。

羽竜は、霧のかかった気持ちに目を反らすことが出来なかった。







そして夜。

人口百人程度の村は、松明を散々と点け大いに賑わっていた。

主役はもちろんソニヤ。

ご馳走を囲み、あれこれと聞かれている。

本人は上手くごまかしているつもりなのだろうが、ぎこちない態度がソニヤの人のいい性格を表していた。

それでも、村の人間には気付かれず、話は盛り上がる一方だった。

その盛り上がりから、羽竜は一人抜け出していた。

当然、山奥にある村に旅人など珍しく、興味をもたれていたのだが、羽竜はあまり多くを語らず、とりあえず適当に相手をしていたのだが、営業向きの器量は持ち合わせていない。

隙を見て抜けたのだ。

だが、理由は他にもある。


「じいさん、ちょっといいか?」


こちらも一人、みんなから離れた場所で月見をしているのは村長。

羽竜は、村長が一人になるのを待っていた。


「おお。これは羽竜どの。どうなされた?まあ、座りなされ」


と、日曜大工の産物らしき小さな腰掛けを差し出す。


「いや、いい」


それを断り、


「あんたら何か隠してるだろ?」


そう切り出した。


「はて?ワシらが隠し事とな?」


「しらばっくれんなよ。あんた、昼間ソニヤから旅に出たいって言われて、すぐに承諾したよな?」


それのどこが隠し事なのかと、村長は首を傾げる。

口調から、羽竜が少々苛立っているのも分かる。


「聞いておったじゃろ、両親のおらんソニヤは、村で面倒を見て来た。息子も同然………」


「見ず知らずの、俺みたいな若い旅人がぶらっとやって来て、その話を僅かな時間だけしか聞いてないんだ。そんなんで旅に出るって言った息子を、普通なら叱るだろ。それに、ソニヤはまだ十三歳の子供じゃないか」


「十三にもなれば、この村じゃあ………」


「村じゃ大人だってか?言い訳だろ!俺には、あんたら村の連中がソニヤが居なくなるのを待っていたようにしか見えねーんだよ!」


次第に声がでかくなる。

羽竜は自分の感じた村の雰囲気に、怒りが抑えられない。

ソニヤを旅に誘ったのは確かに自分だが、厄介者をそれとなく追い出そうとしているのが我慢出来なかった。


「言えよ。ソニヤの何を隠してるんだ」


「…………。」


村長は何も話さなかった。

ただただ沈黙だけが二人の周りを転がり、無駄に時間だけが流れる。


「………頑固じじいめ。言いたくないなら、墓の中まで持って行け。その代わり、最後までソニヤを笑顔で送ってやれよ」


弱い者を守りたいと思うのが羽竜の信条だが、ソニヤのことはそれ以上の気持ちがあった。


「明日旅立つまで、迂闊にも喋りやがったら、村の全員ぶっ飛ばしてやるからな!」


乱暴な言い方だったが、他に言い方は思いつかなかった。

 そんな羽竜の言葉は耳に入らないフリをしてやり過ごした。

羽竜がソニヤのところへ戻ったのを、村長は確認するように耳を澄ました。

虫の鳴き声だけが転がる沈黙を受け止めている。

思っているのはソニヤのこと。

羽竜の言い分も分からない訳ではない。むしろ、ソニヤをそこまで想ってくれている羽竜に感謝している。

今日来たばかりの旅人が、不思議と村に溶け込み、まるでソニヤとも長い月日を生きて来たようにさえ思える。

それが羽竜の人柄で、出会ったばかりの他人を思いやれる器量。

任せても大丈夫なんだと納得した。


「いつかこの日が来るとは思っていたが………」


分かっていた未来が訪れた。

それはあまりに唐突で、あまりに身勝手な未来。

ソニヤの行く末を占うように、浮雲がゆっくりと夜空を泳いでいた。


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