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第五十一章 未来からの使者

ずっと身体が気だるかった。

そのせいもあってか、クダイとの戦いは不完全燃焼だった。

意識朦朧とし、ようやく意識を戻した時には、


「………なんでこんな場所に?」


冒涜の都と呼ばれる場所は、羽竜の視線、遠ざかった所に見えていた。


「俺は………確か………」


遡って記憶を思い起こそうと、ぼやけながら思考にスイッチを入れる。


「クダイに負けたんだよ」


後ろから男の声がして振り返った。


「……………。」


そして絶句。


「情けないツラをするな。こっちまで情けなくなる」


そう羽竜に言ったものの、羽竜が言葉を無くしている原因が、自分が考えるものと同じかは怪しい。

何故なら、


「その鎧………なんでオマエが?誰なんだ………?」


羽竜が纏う真紅で、その表面でゆらゆらと炎が揺らめいている鎧。全く同じ鎧を男が纏っている。だから驚いているのかもしれないが、もうひとつ、疑いながらもそれらが意味することに気付いたから………と思ったが、それは無さそうだ。


「俺が誰だっていいだろ。それよりも、今回は身を引け」


「なんだと………くっ!」


勢いよく突っかかろうとしたが、身体に力が入らない。


「クソ………身体が言うことを利かない!」


熱っぽく、病気に侵された気分が続いてる。ひょっとしたら、本当に病気になったのか?充分に考えられる。


「そんな身体じゃ、また返り討ちだぞ」


「………るせー!余計なお世話だ!」


「やれやれ。分からず屋と言うか………我ながら酷い性格だと思うよ」


「ちょっと待て!今、何て言った?」


と、いきり立っても、全身に力が入らず片膝を着いてしまう。


「よく聞け。不死鳥は、何万という時間を目処に、その身を灰にして、また新たな成長を遂げる。お前は不死鳥の力を受け継いだ者だ。不死鳥の力を使い、生きている以上、同じようなことがお前の身体に起こっている」


「俺も、灰になるってのか?」


「身体の成長を止めていたお前も、ようやく目覚める時が来たと言うことだ。だから、今のお前ではクダイに勝てないと言ったんだ」


「成長したって、クダイに勝てるかは分かんねー。アイツ、とんでもなく強くなりやがった。悔しいけどな」


「敵を認めることも強く成長する糧だ。今はそれだけでいい。それにだ、敵はクダイだけじゃないだろ?」


男が言うと、


「………オマエ、“俺”なのか?」


話を逸らしたわけではない。男が伝えたいことを理解したからこそ、核心に触れてみた。


「未来からな………まあ、俺が過去に来て何をしようと、俺自身の世界が変わるわけじゃないんだがな」


「じゃあ何しに来たんだよ」


「“別の未来”を創る為。本来、時間を超えるなんてことは出来ない。それなのに、俺も、ヴァルゼ・アークも、クダイやサマエルでさえ可能にしている。そのせいで、宇宙があるべき姿を失い始めている。誰もが望む大きな力は、最期には自分達の首を絞める結果しかもたらさない。それを伝えたかった」


「俺が進む未来が、オマエが進んだ未来と違ったとして、何かメリットでもあるのか?」


「メリットがあるかどうかは分からない。ただ、意味はある。俺が過去に来て、お前という過去の自分に会ったことで、これから先の未来は、例え一秒でも別のものになるかもしれない。だから、お前が今の俺と同じ行動を取る必要はないだろう。しかし、もし万にひとつでもそんな日が来たなら、その時には、何故、別の未来が必要かお前は知る。………そうならないことを祈るが」


その日が羽竜に訪れれば、別の未来を必要とした自分の行動は無意味になる。そう考える男………未来の羽竜に、


「最悪な未来が待ってそうだな」


羽竜は、ヴァルゼ・アークが口癖のように言う言葉を思い出す。


―運命は既に決まっている―



何もかも無にしてしまわない限り、どんな道を辿ろうと、行き着く先は変わらないと。その言葉は、目の前にいる未来の自分も知っているはず。過去に戻ってまで欲する別の未来。


「不死鳥は灰になり、そして、灰の中から蘇る。お前は一度眠り、真の不死鳥戦士として目覚めるのだ」


「………へっ。あんまりしっくり来ねー話だぜ。でもよ、寝て起きるだけで強くなってるなら………寝てやっても……いい………かな」


戦うこともままならない体力なら、寝てみるのも悪くない。

地面に倒れ、気持ち良さそうに眠りにつく。


「全く。忙しいヤツだ」


自分自身でありながら、呆れてしまう。


「悲しいが、未来が光に包まれている保証はどこにもない。俺が過去ここに来たのは………分かってくれよ。………俺」


追い込まれたから。寝ている羽竜にでさえ、声にしたくはなかった。

せめて、過去の自分には………


「過去に来て自分に会うのは、これが最初で最後」


男は、寝ている羽竜の背中に手を当て、


「受け取れ。もうひとつの不死鳥の魂を」


自らのオーラを全て与える。

どうにもならなかった。最悪の結果を生んでしまった。その未来を生まない為には、自分の存在を捨てて、羽竜に託すしかない。


「俺の気持ちは、お前の気持ちだ。無駄にするなよ」


そして………不死鳥は灰になった。


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