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第五十章 デザイア

不安と緊張、呪われたようにソニヤにまとわりついている。

サマエルが大きな扉を両手で開け、眩しさが出迎える中、アスカロンを手にしかと握り締めながら踏み入る。

シズクが生きていてくれるなら、とりあえずはそれを確認したい。


「ここは………?」


ソニヤの視界には、これまでの単なるガラスだけの光景とは違った、明らかに神………言うなればジーナスが居るだろう部屋が広がった。

とても美しく、神々しい部屋。

初めは眩しさで慣れない視界も、適応力とは優れたもので、すぐに状況を把握出来るにまで至る。

そして………


「こいつは珍しい客だな」


黒い鎧を纏った男が現れた。


「ククク………やはり貴様のオーラだったか」


男に、すかさずサマエルが憚る。まるで、ソニヤが余計な口を開くのを拒むように。

無論、男もサマエルを珍しい客と言ったわけで、そのことからも、男が羽竜の知り合いである可能性も高く、


「ヴァルゼ・アーク………久しぶりと言うには、流れた月日は永過ぎたが、その甲斐もあったと言うべきだな」


サマエルが男の名を口にして、羽竜の探していた人物だと確信が持てた。


「サマエル。あの人、羽竜が探してた………」


「重力と空間を司る悪魔の神。魔帝ヴァルゼ・アーク。オレが知るままならば、最強にして、究極の力を持つ男だ」


サマエルは、商品スペックでも語るように、簡潔でインパクトのあるプレゼンを見せてくれた。


「羽竜はどうした?来ているだろう?」


ヴァルゼ・アークもまた、羽竜を求めているのか、役者が足りないと言わんばかりの言い種だ。


「そのうち来る。………貴様がそれまで生きていればな」


「サマエル………随分と口が達者になったな」


「気に入らない………って顔だな。クク」


無理もない。かつては、サマエルなど取るに足らない相手だったのだが、今は、“かつて”を感じさせないほど自信をあらわにしている。それは、虚飾ではない、根拠のある無比の自信。

油断ならない相手になったということ。


「そう嫌う必要もあるまい。羽竜を想う気持ちも分かるが、ヤツは取り込み中だ。それに………」


サマエルはソニヤに目で訴える。

その意味を理解したソニヤは、


「シ、シズクはどこに居る!?」


ヴァルゼ・アークに噛みついた。無論、ヴァルゼ・アークからしてみれば、甘噛みにも程遠いものではあるが。


「お前が選ばれし勇者か。………ソニヤだったな」


「ボクを知ってるの?!」


「ジーナスから聞いている」


「ジーナス………」


「その昔、ゴッドインメモリーズによる聖戦により生き残った女神だ」


ヴァルゼ・アークがそう言うと、彼の後方の空間が歪み、その中から、十字架に張り付けられた女性が現れた。その女性に、ソニヤは見覚えがある。何度か夢に現れ、そして聖剣アスカロンを託された人物。彼女がジーナスであることは明白だった。 更に、良く目を凝らせば、ジーナスの足元で、手を後ろで結ばれ宙吊りされているシズクが居る。


「シズク!」


身体が勝手に走り出そうとしたが、ヴァルゼ・アークが立ちはだかって、


「心配するな。生きている」


そう簡単には返す気はないらしい。


「ゴッドインメモリーズについて、ある程度は知識を養ってあるんだろ?」


ソニヤに言ったのか、サマエルに言ったのかは分からない。まあ、この場合、オリシリアも含めて言ったのだろうが。


「通常、人類が星に誕生するのは、奇跡的な偶然が重なり生まれるもの。厳密に言えば、宇宙の意思もあってのことだが、それは奇跡的な偶然を宇宙空間に散布したに過ぎない。だが、この世界は、誰かが意図的に創り出した世界。だからこそ、世界をリセットする魔法が存在する」


「誰かって、ジーナスなのか?」


ヴァルゼ・アークに怯えながらも、凜とした瞳で問う。


「ジーナスは、ゴッドインメモリーズによって召喚された神の一人だ。世界の創造主ではない」


ソニヤの真っ直ぐな瞳が、酷く気に入った。


「残念だが、創造主を探すのは不可能だ。最初のリセットがあった時点で、創造主の存在も闇の中だ。聖戦で生き残った神が、改めて世界を創る。それが、今日まで何度繰り返されたのかさえ、知る由もない」


怯えを残したソニヤを見つめた。


「ソニヤ」


「………な、なんですか」


「よく聞くといい。シズクはゴッドインメモリーズそのものだ」


「!!」


「正確には媒介と呼ぶ」


「バイカイ………?」


「ゴッドインメモリーズそのものであるシズクには、ゴッドインメモリーズを発動することは出来ない。魔法を使うには、媒介が選んだ者が必要だ」


何を話しているのか分からない。だが、ひとつ明らかなのは、ゴッドインメモリーズを使うのは、魔法使いたるシズクではないということ。

使うのは、媒介が選ぶ人間。


「そこまで聞けば充分だ」


色々、整理しようとしていると、サマエルが剣を手に前に出て来た。


「待ってよ、サマエル。まだ聞かなきゃいけないことがたくさん………」


「たくさん?それは例えば、あそこで死んでいる女は誰か………とかか?」


剣の切っ先で、そう離れてはいないのだが、今まで気が付かなかった女を目にする。

倒れて動かないところを見るに、サマエルの言ってることは正しいのだろう。と言うより、サマエルは最初から気付いていたっぽい。


「魔法は、それを使う人物をシズクが決め、その人物との意志疎通さえ叶えば………ゴッドインメモリーズは発動する。………そうだな?」


サマエルはヴァルゼ・アークを見た。

すると、


「その通りだ」


意外にも、あっさりと認めた。


「インフィニティ・ドライブに代わる力だ。………欲しいか?」


「クク……愚問だな。オレには不必要なものだ」


「フッ。欲の無い男だ」


「貴様に言われると、皮肉にしか聞こえんな」


「そのつもりだ」


「クックッ。生憎だが、全くの無欲な生き物などいない。欲を無くして………特に自我を持った生き物は生きられない。………遠い過去に、オレは決めた。誰よりも強い存在になろうと。貴様と羽竜が世界から消え、行き場を失っていたオレが目指したものだ」


「誰よりも強く。………知らない仲じゃない。まして、気の遠くなる時間を超えてまで、俺を追って来たんだ。応えてやろう」


ヴァルゼ・アークもまた、剣を抜く。

ただ流れるような二人のやり取りに、ソニヤの入り込む余地はなく、それでもアスカロンをヴァルゼ・アークに向けたままでいる。


「サマエル、ボクも………」


「お前の力はいらん。これは、オレとヤツの戦いだ」


「でも、シズクが!」


「ソニヤ。ヤツには到底お前の力は及ばない」


悲しいが、それが現実。


「オリシリア、ソニヤを頼む」


サマエルの言葉に頷き、オリシリアはソニヤの肩に手をやり微笑むと、サマエルから遠ざけた。


「いいのか?大切な助手なんじゃないのか?」


「赤の他人だよ。そんなことよりも、早く始めようじゃないか。永年、待ち望んだ戦いを」


「一介の戦士が、どこまで強くなったのか………楽しみだ」


「魔帝ヴァルゼ・アーク。貴様を倒して、神の領域さえ超えよう。それがオレの唯一の欲望だ!」


サマエルが振るった剣が、空気を揺らした。


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