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第四十三章 ファイターズハイ ~後編~

 ―数万年前―


「その剣で私を殺すのか?」


セルバの瞳は強く睨み据えていた。

自分を殺しに来た勇者シュナウザーが憎たらしい。

互いに使命を帯びここに居る。“ここ”と言っても、特別な場所ではなく、草原のど真ん中。天候は悪く、風が荒い。今にも降り出しそうな曇り空が最高の演出だ。


「お前を殺すのがオレの使命だ」


もっともらしく言い放ってはみたが、握り締めている剣のギラつきとは程遠いくらいに覇気のない声だった。


「使命………ふふ。くだらない。私を殺せば事が収まるだろうが、世界はそれで救われるのか?」


儚い理想を求めようものなら、世界は人の悪意に蝕まれる。シュナウザーは、ただ時代に背負された使命感だけに剣を握っているのだと、セルバは見抜いていた。

哀れだと思う。けれど、それを説き伏せて見せる自信はない。

だから大して答えを期待したわけではないが、


世界を救おうなどとは思ってない」


意外な言葉を発した。


「ならなんの為にアスカロンを手にしておる?それは世界を救えと、ジーナスから譲り受けたものではないのか?」


「そうだ。お前がゴッドインメモリーズを使う前に………世界をリセットさせるなと言われてな。しかし、そんなことはどうでもいいことだ。一人の女が人の世を嘆き、何もかもを無くしてしまいたいと思う気持ち。その一点に興味がある」


それでは自分を殺すのが使命だと言ったのはなんなのか?そう思っていると、


「使命を遂行するか否かは、オレの気分次第。つまらん話なら、人類全てを敵に回すより、お前を殺し英雄として余生を生きるさ」


シュナウザーもまた、セルバの思考を見抜いていた。

覇気のない理由がそれかどうかは分からない。だが、強みのある言葉を選ぶのは、殺す意志などないことを隠匿するからなのかもしれない。


「………そんなに今の世界が嫌か?」


ゴッドインメモリーズで世界をリセットする。そんな悪行紛いを行うと、決意に至った理由を知りたかった。自分さえも消さねばならないのに。


「汚れているからだ」


シュナウザーの疑問も、軽く解かされてしまう。


「それは世界そのもののことか?それとも人の心か?」


「決まっている。人間の心………存在がだ」


「だが全ての人間が汚れてるわけではないだろう?清く、誠実に日々を生きている者や、無垢な赤ん坊さえリセットする理由 にはならんな。オレにはお前の身勝手にしか聞こえん。たった一人の人間が世界を見た時、自分にだけ都合のいいことなどない」


「何も知らぬのだな、勇者よ」


「何?」


「今の世界は、かつてのゴッドインメモリーズによる神々の聖戦で生き残ったジーナスが築いたものだ。人間が、人間の力のみで築いたのなら、とかく言うつもりはない。しかしだ、ジーナスが不徳の意図で世界を支配していると知ってしまった以上、私は世界をリセットする!世界でただ一人の魔法使いとして!」


セルバが何かと知り過ぎているのはよく理解出来た。

ジーナスの思惑も、勘ぐれば塵ひとつくらいは出るかもしれないが、


「熱い女だ」


微笑んでしまった。


「な………何を!」


「世界を案じたところで、何の得もなかろうに」


「よ、余計な世話だ!」


シュナウザーは、アスカロンを鞘に戻し、最後によく考える。 そう、よく考えれば、自分はそんなに生に執着してないことに気付かされる。


「使え」


英雄として生きる?バカバカしい。最初からそんなことは望んでいない。

今回使えば、何度目か分からないゴッドインメモリーズによる神々の聖戦。セルバは神の支配を受けない世界を望むのか?人に都合のいい世界を望むのか?それすら分からないが、少なくとも世界を裏切る行為には思えない。また新たな世界になっても、ベースとなる宇宙の理みたいなものは一緒だと思うから。


「殺さないのか?」


「正直言うとな、オレもジーナスは胡散臭いと思っていた。異次元だかなんだか知らぬ場所に身を潜めながら、なぜかこの世界に干渉したがる。お前の言うように、世界を支配しているかはさておき、戦争しかないような世界なら、いっそリセットしてしうのもありだろう」


「名折れになるぞ」


「リセットしてくれたら、不名誉も無くなるさ」


セルバは、怪訝に思いながらも、


「後悔するなよ。私は本気だ」


「知ってる。オレもだ。さあ、ゴッドインメモリーズで神々を呼んでくれ。世界の終わりと始まりを見届けてやる」


風は更に強さを増し、打ち付けるような雨が降って来た。

濡れ、冷えて行くはずの身体は、熱気を冷まされずいる。

セルバは、シュナウザーに主導されるのが嫌なのか、


「お前に言われるまでもない!」


世界をリセットし、ジーナスを葬る為の魔法が、数万という時間を旅することになるとは、二人には分かるわけもなかった。



「分からないな。数万年もの間、シズクに代わるゴッドインメモリーズの使い手は居なかったのか?」


クダイが疑問を投げ掛けたが、

「なんという強さだ………くっ、比論理的な………」


シュナウザーはその強さに圧倒されるばかりだった。


「答えるんだ。数万年、君とセルバ卿は何をして来たんだ?」


「………ジーナスを葬る手立てを探して来た。そう言えば満足か?」


「ジーナス………不可解だね。ジーナスが君らを苦しめて来たわけじゃないだろう?セルバ卿は、魔法使いが自らの意志で魔法を使うことが禁じられていることを知らなかった。だから、強制魔法による永遠の孤独を強いられることになった。………だが、ジーナスを葬ることと、強制魔法から解放されることとは、まるで一貫性がない。おまけに、ゴッドインメモリーズ発動の一瞬だけを利用する?数万年生きて来て、シズクしか居なかったんだろ?机上の空論で、よくそこまで心中計画を立てられたものだ」


「……………。」


「分かるか?僕は疑っている。君か、セルバ卿。二人にかもしれないが、入れ知恵した人物がいるんじゃないか?ゴッドインメモリーズそのものではなく、ゴッドインメモリーズ発動の瞬間に生じる力を利用しろと」


「………想像力豊かな男だ。残念だが、そんな人物はないない。オレが有り余る時間を掛け考えたものだ。それに、お前は間違っている」


「へえ。僕が何を間違った?」


「数万年の間で、シズクの他にもたった一人だけゴッドインメモリーズを使う魔法使いがいた」


「そいつはまた………」


「シズクが現れる十数年ほど前の話だ」


「その魔法使いはどうしたんだ?」


「死んだよ」


「殺したの間違いじゃないか?」


「ゴッドインメモリーズ発動と同時に果てたんだ」


「ゴッドインメモリーズを発動?………つまらない冗談なら………」


「事実だ。オレ達から逃れる為、最終手段でな。ああ、もちろん、発動させたのはとある男だが」


「なら、何故ジーナスは存在してる?神々の戦いで、また一人勝ちしたのか?」


「発動はした。だが、………何も起こらなかった」


「シュナウザー」


「本当だ。嘘は言ってない」


さすがのクダイも、思考をまとめることが難しかった。

シュナウザーとセルバ卿が、何の根拠もない理論で、数万年でたった“二人”しか現れない………いや、二人しか“現れてない”貴重な魔法使いで、一発勝負をするだろうか?それも、シズクの前の魔法使いが現れた時、結果的にはその魔法使いがゴッドインメモリーズを不発させたようだが、上手くいってたとして、そんな安易に試そうとしただろうか?

まだ湧き出た疑問はある。先ずは、ゴッドインメモリーズが不発に終わったという曖昧な事実。

疑問は増えたが、確信したこともある。シュナウザーもセルバ卿も、やはり誰かに入れ知恵されている。そして、この話の裏に隠れた真実を知らない。


「シュナウザー、アスカロンは元は君のところにあったのかい?」


「セルバがゴッドインメモリーズを発動した後に、気付けば手元には何も無かった」


「………そうか。ならば、最後に聞く。どうして君まで強制魔法に捕らわれているんだ?」


これは疑問に入れなかった。だから答えはなんでもいい。どんな理由であろうと、罰のように使い手を呪う強制魔法が、使い手でないシュナウザーにまで効果したのだ。それは、ゴッドインメモリーズが、とてつもないエネルギーを秘めていることを示している。だから、だから答えを求めはしない。これはただの確認。


「知らん。人の寿命以上を生きて、初めて知ったこと。そして、ある日ジーナスに聞かされた。ゴッドインメモリーズの使い手が、自身の意志でゴッドインメモリーズを使うことはタブーだと」


表面だけの出来た話に、クダイはもう興味を無くしていた。

裏で繋がる話。そこにある真実は、ジーナスにしか分からない。


「なるほど。よく分かったよ」


クダイは両手の剣を握り直す。


「真実は、もっと深くに沈んでいるようだ」


「どういう意味だ?」


「こういう意味だよ!」


真実が目的じゃない。欲しいのは力。万物を生み出し、万物を平伏すような絶大なる力。


「哀れだな、シュナウザー。君がもっと欲深い男だったなら、あるいは僕に匹敵する強さを持てたかもしれない」


手向けに吐いたような言葉は、亡骸となったシュナウザーには届かない。

そして………


「クダイ!」


息を切らし、駆けて来る者達。誰が自分を呼んだか、振り向くまでもない。シュナウザーと戦っている時から、ずっと感じてた熱気。


「早かったね。さすがだ」


ようやく振り向く。そこには、


「見つけたぞ!シズクはどこだ!」


ソニヤ。


「クックッ。一汗かいた後か」


サマエル。


「ハァ、ハァ、皆さん、走るの早過ぎです」


オリシリア。


「クダイ!今度は逃がさねーからなっ!」


羽竜。

名前を呼んだのは羽竜だ。同じトーンで二度も呼ぶのだから、らしいと言えばらしい。

クダイは、全員の顔を見ていてモヤモヤしていたものに、また確信を持つ。


「やっぱりそういうことか」


自分を含め、羽竜、サマエルはもはや特別な領域の存在。………その領域は“神”。

疑うまでもなくだ。

無論、その真偽はソニヤにも向けられる。

ゴッドインメモリーズ。それは現在進行形。神々の聖戦は、既に始まっていた。


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