表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/74

第四十章 暗示

「ここが…バジリア帝国………」


生唾を飲み込んで、ソニヤは巨大な外壁を見上げた。

堅牢な門構えは、来る者を全て拒んでいるようで、村育ちのソニヤには特に顕著に感じられる。


「そうです。ここが世界を支配するバジリア帝国です」


そんなソニヤに明確に、有無を言わさないようオリシリアが言った。

音が聞こえてしまうほどに生唾を飲み込んで、ソニヤは今一度、自分を見つめ直す。

羽竜とサマエルを当てにせずに、シズクを救えるだろうかと。無責任に他力本願は通じない。やるなら、誰が相手でも自分を頼らなければ………覚悟を決め、外壁より高くそびえ立った城をキッと見据え、


「大丈夫です。悪しき者に神の加護はありません」


ニッコリ笑うオリシリアは、かなり頼もしく見えた。

そんな二人のやり取りは余所に、


「どうした?顔色が悪いぞ」

サマエルは羽竜に言った。


「別に。ちょっと疲れただけだろ」


確かに少し気だるくはある。が、羽竜にとって、またサマエルにとっては、帝国に乗り込む行為などそれほど慎重になるようなことでもない。


「クク……足をひっぱるなよ」

「るせーな」


いつもの勢いのない羽竜に、少し気にはかかるが、サマエル自身も疲れが皆無というわけではないのだが。


「それにしても、見張りが居ないってのは不自然だな」


「クダイが片付けたんだろ」


それもあり得ると、サマエルは納得しかけたが、


「それだけならいいが………」

珍しく歯切れの悪さを見せた。

「行こうぜ。罠が仕掛けてあったって、どうせ進むしかないんだ」


そう言うと、帝国へと向かい歩き出した。

その入れ違いに、ソニヤと話を終えたオリシリアがやって来た。

真っ直ぐサマエルを見つめ、傍らに陣取る。


「サマエル」


「本当に一緒に行くつもりか?前にも言ったが、お前の用心棒までは務められんぞ」


オリシリアはこくりと頷いた。

「ええ。それで構いません。わたくしは、わたくしで兄を捜しますから」


「そうか」


健気なオリシリアに、不思議と生来感じたことのない感覚がある。

五感が鈍るようなふわふわ感。


「サマエル?」


「な、何でもない」


すかさずオリシリアから目を逸らして、背中を向ける。


「名前だけ……聞いておこう」

「名前………ですか?」


なぜ今更自分の名を尋ねるのかと首を小さく傾げると、


「お前ではない。お前の兄の名だ」


オリシリアは、それでもまだ不思議な眼差しをしている。


「会うことがあったら、お前のことを伝えられる。……なあに、世話になった礼だ。真実を知りたいのだろう?」


「ありがとう。サマエル。あなたの優しさ、とても嬉しく思います」


「優しい?フン、買い被りだ」

照れを隠すサマエルの背中に微笑みかけ、


「オラトリオ………それが兄の名です」


雲行きが怪しくなり、陽が遮られる。

何かを暗示させるように。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ