第三十二章 目覚めよ欲望
「貴様が噂のフェニックスか」
いつ、どこで誰が噂してるのか知らないが、どうやら有名人になってるらしい。
ウェルシュの空かした感じの笑顔が、よく知る誰かに似ていて気に入らない。
「知らねーよ」
「フッ。クダイが手を妬くほどの戦士が、まさかこんな若僧とはな」
「若僧で悪かったな。これでも何百年も生きてんだ!」
「………そうか。嘘か本当かは別にして、クダイもそんなことを言っていた。かつて知ったる既知の仲と言うわけか」
「クダイはどうした?手の込んだ小細工はいらねー。連れて来い!この前の借りを返してやる!」
「いちいち熱い男だ。残念だが、クダイがどこにいるのかは知らん。が、安心しろ、貴様の相手は俺がしてやる」
通りすがりのそよ風が、ウェルシュの髪を揺らして行った。
「自信あんのかよ?」
元より受けて立つつもりだが、やるからには手応えは欲しい。
「交えてみれば分かること」
ウェルシュは剣を抜き、
「さあ来いッ!フェニックス!!」
「調子に乗るなっ!………まあいいさ。旅も行き詰まってたとこだ、ゴッドインメモリーズがなんなのか、吐き出させてやるッ!」
時に力でしか解決しないこともある。
本気で捩じ伏せる。不死鳥の力を持って。
ソニヤと羽竜達から離れた場所まで移動し、サマエルとバーニーズは互いに微笑み合っていた。
バーニーズから同類の臭いがする。飽く無き強さへの欲求。
バーニーズもまた、サマエルから同じ臭いを感じている。
「少しは楽しめそうだな」
バーニーズは、任務を忘れ、サマエルへの興味が絶えない。
「クク………楽しむ前に終わらないといいが」
「言うじゃねぇか」
「………どうでもいいが、貴様らはゴッドインメモリーズがどんな魔法か知っているのか?」
「あん?知ってたらどうだってんだ?教えるわけねえだろ」
「なら力ずくで………というのはどうだ?」
刃の面積が広い愛剣カオスブレードを抜く。
「情報を賭けろと言うのか?」
「まあ、口約束になるだろうからな、負けても言う言わないは貴様の自由だ」
サマエルが何を言いたいのか、理解し難くもあるが、
「負けても………か。フッ。なら、その話は勝ってからにするんだな!」
欲求を満たすのが先と、不意打ちを仕掛ける。
それが愚行とも知らず。
「構えだけはいっちょ前ね」
アスカロンを握るソニヤからは、戦士としてのオーラは微塵も感じない。
戦う気力さえ起きないことに欠伸が出そうになる。
とは言え、シェルティは剣を抜き、言うなれば死刑を執行してやろうかと思っている。
「ソニヤ」
「大丈夫だよ、シズク。ジーナスは何も話さないけど、何か知っててボクにアスカロンを渡したんだ。剣の使い方は羽竜に教えてもらったし、サマエルもボクの中の力を信じろって」
「だからって、そんな簡単には………」
「ボクは死なない。全ての謎を知るまでは!」
アスカロンを手にした時から変わったもの………それは、はっきりとした欲望。
だが、話を聞いていたシェルティが、
「ジーナス………お前、今ジーナスと言ったか!?」
「………?言ったけど?ジーナスを知ってるのか?!」
尋ね返すソニヤだったが、シェルティの表情が一辺し、一歩後退する。
「お前………ジーナスとどういう関係だ!?」
「どう………って」
「答えろっ!!」
後退していて正解だったかもしれない。
怒りの根源がどこにあるかは知らないが、シェルティは剣を振り下ろして来た。
仮に後退していなくても、殺す気などないのだろうが、危険な状態であることに変わりはない。
「よもや、世界でただ一人の魔法使いと、ジーナスの手先が行動を共にしているとは………!!」
「待てよ!ボクはジーナスのことをよく知らないんだ!」
「知らないだって?見え透いた嘘を言うガキね!」
「ホントだ!むしろ聞きたいくらいだ。女神ジーナスがどんな存在なのかを!」
「女神?………くく、ははは!あっはっはっは!笑わせてくれるわね!まあ、女神には変わりないか。………何も知らずに信じているとは、おめでたい連中だわ」
「何も………?じゃ、じゃあ、ジーナスは何者なんだ!」
含みのある言い方は、明らかにジーナスが思うような女神であることを否定している。
不安を二人が感じていると、
「いいわ、教えてあげる。彼女は………」
そして、不気味に笑い、
「彼女は邪神………邪神ジーナスよ」
そう言った。




