第三十一章 リトルソルジャー
「…………ここ……は?」
目を覚ましたオリシリアは、自分がどこにいるのか分からないでいた。
確か、シズクと書物を読みあさっていた。そして、お茶をしようという話になったところへ………
「シズク!!」
比較的早く思い出すと、
「よかった。元気みたいだね」
ソニヤがいて、
「でも、ただ事じゃないみたいだぜ」
羽竜がいる。
うっすら何が起きたかは想像に容易く、
「何があった?」
サマエルが尋ねた。
事態は緊急を要している。オリシリアにゆっくりしててもらうわけにはいかないだろう。
「クダイか!」
閃いたように羽竜は言うが、オリシリアはクダイを知らない。
あの三人のうち一人がそうなのかもしれないが、彼らが呼び合っていた名前までは覚えていない。
「分かりませんが、女性が一人と男性が二人。帝国の者でしょう」
最大の情報はそれだけだ。
告げられ、真っ先に行動したのは当然ソニヤ。無言で飛び出そうとすると、
「ソニヤ!」
羽竜が呼び止める。
「止めても行くよ。シズクにボクが守るって約束したんだ」
アスカロンがあるから勝てるとは思っていない。それでも、やらねばならない。行かねばならない。
「いい機会だ。実戦で死を感じておくのも悪くない」
サマエル流の育成法だ。
「相手は三人………ちょうどいいか」
羽竜も納得する。
「羽竜、サマエル、行こう。シズクを帝国には渡せない!」
ソニヤの中で、何かが変わり始めていた。
「離してって言ってるでしょ!離せーーっ!!誘拐犯!!バカ!!カス!!このトンチキ野郎ッ!!」
ウェルシュに抱えられている屈辱が、怯えよりも暴言を優先させる。
「うるさい女だ」
呆れたウェルシュだが、その隙を突かれ、
「うわあっ!!」
腕を噛まれてしまい、シズクを離す。
「つうっ………なんてガキだ!」
くっきりと歯形がつくくらいの痛恨の一撃に、
「今のがゴッドインメモリーズだったりしてな」
バーニーズが茶化す。
それを無視したシェルティが、
「シズク………だったわね?おとなしくしときなさい。どうせ逃げられやしないんだからさ」
釘を刺した。
「ゴッドインメモリーズなんて、私知らないんだから!さらったって無意味よ!」
「それはこちらが判断する。黙って着いて来ればいいんだ!」
噛まれた怒りが収まらず、ウェルシュが怒鳴る。
「嫌ッ!ゴッドインメモリーズがなんなのか分からないけど、帝国に都合のいいものなら渡せないもん!」
「分からない子ねぇ。痛い目見ることになるわよ?」
「………私に手出したら、ただじゃ済まないから!」
「おやおや。手を出したら、どうなるのかしら?」
シェルティが嘲笑う。たかだか少女一人。そう思っていると、
「試してみるか?」
声がした。
シェルティ、ウェルシュとバーニーズが一様にその方向を見る。
「ソニヤ!」
シズクの目に映ったのは、アスカロンを携えたソニヤ。
そして、
「間に合ってよかったな」
「ククク。退屈凌ぎにはなるか」
羽竜とサマエル。
「ようやく現れやがったな」
バーニーズが言った。
「フェニックスってのは、あの赤いヤツか」
ウェルシュも、ソニヤ達が来ることを予想はしていた。
クダイが手を妬くほどの相手がシズクを守っているなら、必ず姿を見せると。
「シズク!こっちに来るんだ!」
呼ばれたシズクは、妙に雰囲気の違うソニヤに戸惑いながらも、素直に駆け寄った。
「フェニックスか………どれだけの強さか確かめてやる」
と、ウェルシュは対戦相手を真っ先に決め、
「勝手に決めやがって。………まあいい。なら俺は、あの青い髪の野郎だ」
「ちょっと待ってよ。それじゃ私は、あの小さなガキんちょになるじゃない」
「しょうがねーだろ。早い者勝ちだ」
勝負にはならないだろうが、シェルティは納得せざるを得なかった。
一方でソニヤ達も、逃げるつもりはない。どこかで戦う敵なら、この場所でケリを着けてもいい。
「羽竜、サマエル、準備はいい?」
緊張が頂点に達し、ソニヤの声は少し震えている。
これが運命なら………アスカロンを手に戦うのが運命なら、逃れることは出来ない。ジーナスの言葉を思い出す。
「声、震えてんぞ。しっかりしろよ!短期間で強くなるには、実戦が一番なんだ。あの女がお前の相手するみたいだし、ま、楽勝だろ」
簡単に言うなと心でぼやいた。
女であろうと、腰の細剣を見る限り、帝国の戦士であることは明白。ソニヤにとっては高い壁だ。
「ジーナスがお前にその剣を渡したということは、その剣を扱う力がお前にはあるということだ」
「サマエル………」
「信じるんだな。自分のまだ見ぬ力を」
「うん」
気を引き締める。
乗り越えなければならない試練だと思うから。
シズクを守りたいと思うから。
思い通りの結果を手に入れる為、勝たねばならないと思うから。