表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/74

第三十章 秘密のティータイム

「ダメですね〜。これだけ調べても、ゴッドインメモリーズのことが書かれた本がないなんて」


目が乾き、疲れた。

オリシリアは目頭を押さえ、やや俯く。

ペースを上げて読んではいるが、ゴッドインメモリーズのことなど何も書かれておらず、先の見えない迷路に迷い込んでいる。


「嘆かないでよ。今日は私とオリシリアの二人だけなんだから」


そして、シズクはまた黙々と古い書物を読みふける。

ソニヤは羽竜と剣の練習で、サマエルもそれに付き合っている。

アスカロンを手にしたソニヤは、自分は選ばれし者であると言い出し、強くなれると自負している。

書物を読んで一日過ごすより、強くなる為に最大の努力をしている真っ最中なのだ。

ソニヤには女神が現れる可能性があるからまだしも、シズクには助力となるパーソナリティに等しいものがない。

苛立ちと焦り、不安がのしかかり、それでも地道に進むしかないことが恨めしかったりする。


「シズク、少し休みましょう。気持ちは分かりますが、休養も必要です」


「じゃあ、オリシリアだけ休めば。私は大丈夫だから」


言って素直に聞く性格はしていない。

今のシズクには、何を言っても無駄ではあろうが、


「お茶でもしませんか?頭をリフレッシュさせましょう」


根を詰めるシズクが心配で言った。

ところが、シズクは読んでいた本を勢いよく閉じ、


「うるっさいなっ!いいって言ってんでしょ!」


「シズク………わたくしはただ………」


「オリシリアには分からないわ!私は自分が何者か知りたいの!………父親の顔も母親の顔も知らない………ゴッドインメモリーズのことが分かれば、お父さんやお母さんのことが分かるんじゃないかって、そう思ってんの!男に引っ付いて来たあんたには、絶対分からないわ!」


「………いいえ、分かります」


「同情ならやめて!」


「違います。わたくしも、目的があってサマエルに着いて来たのですから」


「へえ。どうせ大したこと………」


「両親を殺した男を追ってます」


「え………?じゃ、じゃあ、オリシリアも………」


オリシリアはコクリと頷いて、


「独り身です。もう何年も、森の中でたった一人で生きて来ました」


「………そうだったの」


「ある日、家に帰ると、無惨に切り付けられた両親の姿が………あなたとは意味合いが違うかもしれませんが、真実を知りたいと言う気持ちは一緒です」


「真実?両親を殺した男のこと?」


「両親を殺した男は、わたくしの知っている男です。わたくしが知りたいのは、男がなぜ両親を殺したか………それだけです」


「顔見知り………なの?」


「………兄です」


「………!!」


「優しい兄でした。そんな兄が、なぜ両親を殺したのか………長年逃げて来ましたが、サマエルに出会い決心が着いたのです。………わたくしはサマエルを好きになりました。きっと、この先もずっと。だからけじめを付けたいのです。兄に両親を殺さなければならなかった理由………真実を話してもらい、わたくしを闇に堕とした忌まわしい過去を消し去りたい。でなければ、純粋な愛を貫く自信がありませんから」


微笑んだ。

そんな簡単な話ではないはずだ。両親を殺した人物が兄であるなど。


「ですからシズク。あなたの気持ちは分かっているつもりです」


「………オリシリア。ごめんなさい。私………」


自分のことしか考えていなかった。

ソニヤだって、女神のこととか、これから先の戦いを見据えて剣を教わってるのだ。

そして、羽竜とサマエルも各々が背負っているものがあるのだろう。

そう思うと、自分だけが特別だなどと、恥ずかしくなる。


「あなたは、わたくし達とは違う運命を持っているんですもの、無理もないです」


そう言ってもらえると、気分が安らぐ。

先の見えない作業だ。休息も必要だろう。


「よしっ!じゃ、お茶でもしてこようか!」


シズクは、「うんっ」と寝起きの猫並に背伸びをした。


「それがいいです。ちょうど向かいに、お洒落なパンケーキ屋がありました。そこにしましょう」


「ソニヤ達には内緒だね」


「ええ。女同士の秘密のティータイムですもの」


意気投合したところが落とし所でもある。辛気臭い話を忘れ、立ち上がろうとした矢先、


「あなた、もしかしてシズクって言うんじゃない?」


女性が声をかけて来た。

薄手のドレスの上に胸当てをし、腰に細剣。

嫌な予感は真っ先にした。


「………誰?」


シズクは後ずさり、オリシリアが前に出て庇う。


「帝国の人間………ですね?」


オリシリアは、長いスカートの裾を上げ、大腿に括り付けていた短剣を手にする。


「その通りよ。………顔も知らない少女だから、探すのに手間取るかと思ったんだけど………助かったわ。情報収集がスムーズに行ってくれたお陰ね」


「名を名乗りなさい」


「あら、必要があるのかしら?」


「どういう意味………ですか?」


「………こういう意味よ!」


帝国の女性は、見事な速さの蹴りでオリシリアを吹っ飛ばす。

腹部の鈍痛を感じた後、並んでいた長い机に背中をぶつけ、オリシリアはすぐに立つことができなかった。


「オリシリア!」


駆け寄ろうとしたシズクは、自分の足が宙でばたついているだけと気付くと、


「シェルティ、目的意外のことは無視しろ」


色の白い男に抱えられていた。


「ウェルシュの言う通りだ。俺達には他の任務があるんだ。さっさと戻ろうぜ」


もう一人、ツンツン髪を立てた男がいた。


「バーニーズ。………そうね。シュナウザーを一人にはしておけないもの」


「そういうこった。早く行こうぜ、ウェルシュ」


「ああ」


そして、突然現れた三人がシズクを連れ立ち去る。


「離してよ!………オリシリア!!助けて!」


「くっ…………シズク……」


届かないと分かっていながら手を伸ばす。むざむざと連れて行かれるわけにいかない。


「オリシリアーーーーーッ!!!」


「シズク………待って………」


ソニヤ達が居てくれたら………そう思いながらも、慣れない痛みが意識を奪っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ