第二十五章 揺らぎ
最近、重度の眼精疲労により更新が遅れています。読んで頂いている方には大変ご迷惑おかけしますが、なるべく早く更新しますので、引き続き応援よろしくお願いします。
「ねぇ〜疲れたぁ〜っ!」
今日もまた青々とした空が広がっている。
草花は日光を全身に浴びて呼吸を繰り返し、虫はここぞとばかりに活動を始める。
なのに、人間という生き物だけは夜は眠りたいくせに、自然の光さえ疎ましがる。特にシズクは………だ。
悩んでみたり張り切ってみたり、そしてわがままになってみたり。やがて大物な女になるだろうと、羽竜とサマエルは思う一方、ソニヤはそんなシズクが気になる存在に成りつつあった。
「ねぇってばぁ〜!」
先を歩くソニヤ達に、パソコンのエラー音のように妙にムカつくトーンで叫び掛ける。
羽竜は肩で息をつくと、
「うるせー女だなあ。疲れてんのはみんな同じだよ!」
文句をぶつけた。
「もう足が痛くて歩けない〜!」
シズクは徹底抗戦を構えるが、無理もない。何せ、もうバジリアA地区を出て四日。昼間は歩き、日が暮れればたいした食事も取らずに野宿。
悩み多き乙女とは言え、育ち盛りの肉体に栄養は欠かせない。
「クックックッ。賑やかで退屈せんな」
ま、サマエルとしては他人事他ならない。
「羽竜。少し休もうよ。さすがにペースダウンしないと身体がもたないって」
ソニヤはシズクの援護に回る。
そんなソニヤの腹の中を読んだ羽竜は、ポカッと頭を殴り、
「お前が仕切るな!」
「痛いよぉ。別に仕切ってないじゃんか」
「早く休みたいのは俺達も同じだ!だから少しでも早く着くように歩け!」
最後は早口でまくし立て、有無を言わさない。反抗されるのはストレスが溜まるので、回避したいのだ。
「まあまあ。少しくらいは休んでもよろしいんではないでしょうか?」
裁定されようとしたところで、オリシリアが口を挟む。
ソニヤとシズクの肩を持つつもりではなく、一般論と言うか自分も正直疲れたのだ。
「羽竜。こいつらはオレらとは違う。今日はここで休もう」
他人事はどこへやら、今度はサマエルがオリシリアの援護。
「なんだよ、お前まで俺を裏切るのか!」
「クックッ。裏切るとは人聞きの悪い」
「ケッ。ま、テメーの女だからな、しょうがねーって言えばしょうがねーけど“な”!」
語尾に嫌味を込めてやった。
四対一では勝ち目がないと観念してのことだが、
「オレの女だといつ言った!」
意外や意外。ニヒルなサマエルが噛み付いて来た。
「ほう、違うってのか!」
「違う!」
「ヘッ、どうだかな」
「違うと言ってるだろう!」
「違うのですか………?」
そのやり取りの最後、オリシリアが不意に投げかけたピュアな問い。迂闊にも、サマエルは、
「違う!」
念を押してしまった。
表情に絶望を滲ませ、オリシリアは、
「………分かってます………わたくしはただのお荷物。それでも………うぅ………」
「な、泣くな、オリシリア。違うと言うのは違うんだ!」
「気になさらないで。泣き虫なわたくしが悪いんですから」
「いや………誰もお前が悪いとはお、思ってない!」
あたふたするサマエルは、羽竜ならずとも、その容貌からも実に新鮮で、所詮男であるのだと印象付けた。
「チッ。妬けるぜ」
自分できっかけを作りながらも、その姿に昔の自分を見てしまう。
何百年も前の遠い昔を思い出し、もう生きてはいないだろう想い人を脳裏に描く。
(吉澤………)
生きてる時間が長すぎた。人とは呼べないほどに。
クダイに神と驕るなと苦言はしたものの、人でないのなら一体なんであると言うのか。
思えば思うほどこれからの生き方を見い出せない。
目的を果たした後、どうすべきだろうか。燃え尽きてしまうことが脅威に感じる。
永年の時間は、羽竜に揺らぎをもたらしていた。