第二十一章 retrespect
ソニヤはそっと瞼を開けた。
「……………。」
クダイが殺す気でダーインスレイヴを振り下ろしてから、既に時間が経っている。なのに、身体に受けた傷の痛みを感じる。
視界に入るものをしっかり確認しようと目を凝らす。
刃は地面に切れ目を入れており、抵抗もなくあっさりと抜いた。
「………フッ。どうしてだろうね。僕が何かしようとすると、いつも邪魔が入る。………つくづく嫌になるよ。そうだろう?………サマエル」
自分の名前ではない。
色気を漂わせるように髪を掻き上げ、クダイは微かに微笑んだ。
「クックックッ。久々に再会してみれば、また良からぬことを企ててるみたいだな」
そして現れたのは、鏡のような光りを放つ鎧の戦士。
「これも運命なのか」
そう呟いたクダイは、嬉しそうに見えた。
「さて、サマエル。君まで邪魔をする気じゃないだろうね?」
「貴様のやることに、いちいち興味は持てんが、手を貸すような真似は出来ん」
「へぇ………じゃあどうする?“あの時”の決着を着けようか?」
「そうだなそれもいい」
サマエルが剣に手をかけた時、
「クダイ〜〜〜〜ッ!!!」
バタバタと慌ただしく羽竜がやって来た。
「は、羽竜!?死んだんじゃ……」
驚くソニヤに対し、
「………やっぱりあんなんじゃ死ななかったか」
と、分かっていたかのようにクダイが言った。
「何言ってやがる!俺の不死鳥の力を試したくせに、調子に乗りやがって!堪忍袋が切れたぞ!………ソニヤ!シズク!大丈夫か!」
「あははは。君は短気だねぇ。心配しなくとも二人は生きてるだろ。ま、ボウヤの方は多分に怪我をしているが」
それは見れば分かる。ただ、最悪の事態を考えていただけに、口にせずには居られなかった。
そんな羽竜の姿を見て、これまた笑わずに居られない者………サマエルは自分の存在に気づかない羽竜に、不満どころか杞憂を覚えた。
「クックックッ。通常の時間通念からすれば何百年と経っているのに………相変わらずだな。羽竜よ」
と、低い声を奏でる。
その響きに羽竜が気付き、
「………サ…………サマエル!!!?」
「こんな奇遇もあるのだな。まさかこんな場所で、お前に会えるとは。………探したぞ。羽竜」
「なな、なんで………生きてたのか!」
「勝手に殺さんでもらおうか。お前ともまだ決着が着いてないのだからな」
不意に現れたサマエルと、生きていた羽竜。それも知り合いムードがあからさま。ソニヤもシズクも訳が分からず居る。
「困ったね。僕は目的を果たさなければならないが、強敵を二人相手には出来ない。となると………」
クダイはシズクを見、
「今日は退散した方が良さそうだ」
そう言って身を翻す。
「クダイッ!テメェ、何企んるか言えッ!逃がしたり本気で殺そうとしたり………何があったか知らねーけど、お前変わりすぎだぜ!」
久々の再会が、感づいていた通り喜ばしいものではなかった。
変わるなとは言わない。ただ、あの頃の熱い想いは持っていて欲しかった。
「君は終末を見たことがあるか?」
「クダイ?」
「世界の終わりなんて呆気ないものさ。僕はそれをやってのけることが出来る」
「………それがお前を変えた理由なのか?」
「僕らは何百年と生きている。成長したんだ」
「クダイ、神になったなんて思うなよ。どんな力を手にしても、俺もお前も人間だ。世界をどうこうしようなんて図々しい話なんだ」
それは、クダイの心理を読んでのセリフだった。
やってることは許されないことをしているが、彼が根っから望んでやってるとは思わない。
誰にでも心に傷はある。クダイの負った傷は、未だ彼を蝕んでいるのだ。
「忠告ありがとう。でも、僕は自分しか信じない。自分が信じる道を歩くだけだ」
ダーインスレイヴを鞘に収めた。
「………ま、君も少しは成長したまえ」
それだけを去り際に言って、クダイは闇へ消えた。
「アイツ………」
「気にかけるだけ無駄だ。クダイはもう人ではない。………お前もだ、羽竜。否定したくとも、事実は曲げられん」
「分かって………って、なんでお前がクダイを知ってんだ!?」
さて、新たな再会がここにもある。
サマエルも今夜は羽竜との再会だけに留めるつもりだ。
「クックックッ。奴もまた運命の牢獄に囚われし者だからな」
「答えになってねーよ!」
「フッ。相変わらずうるさい奴だ」
「んだとっ!あのなあ、サマ………」
と言いかけると、
「サマエル〜〜〜!」
変わりに女性の声が轟いた。
シズクではなく、もっと成熟した品のある声。
「い……いましたわ………はぁ、はぁ……」
息を切らし、深呼吸で脈を整える。
「急に走り出すから、びっくりしました………あら?この方達は?」
羽竜達に気付いて、そう投げかけたが、羽竜がニンマリと笑い、
「サマエル………」
「聞くな」
「ぷっ。くくくくっ。お前、女連れなのか?」
サマエルは苦虫を噛んだ顔でそっぽ向く。それがますます怪しかったりするのだが。
反乱軍のアジトから燃え上がる炎。星一面の夜空までも燃え尽くす勢いで盛っている。
その昔出会った男達。クダイ、サマエル。そして羽竜。
彼らの再会が何を意味するのか、ソニヤはそれを考えずには居られなかった。