表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/74

第二十章 ダーインスレイヴ

「ジェネラルはどうした?」


「いや、見ていない。アジトの中にはいなかった。ひょっとしたら、抜け道があってそこからシズクを追ったのかもしれん」


「ならば我々も行くぞ。抜け道があったなら、このアジトから向こう側だ」


「反乱軍はどうする?」


「誰も生き残っちゃいないさ」。


騎兵隊は任務完了と、こんな時でも冷静に人数を確認し合うと、クダイを捜そうとしていた。

未だ炎は我が物顔で力を発揮し続け、その中を鎧も脱がず任務を全うしたことは、自分達で褒め讃えたいくらいだ。


「人数は?」


「大丈夫だ。全員いる。さっき確認したよ」


「よし。ならば谷を迂回してクダイ様を追うぞ!」


馬を置いて行った以上、そう遠くまでは行けないだろう。すぐに追いつき、部下としての責務と有能さを示すつもりだった。

だが………


「ここから逃げられると思ってんのか………」


どこからか響く声。

辺りを見渡しキョロキョロしていると、騎兵隊の真上に炎の渦が現れ、やがて鳥の形を成すと、百の騎兵隊の大半を熱波で焼き尽くした。


「うお………な、なんだ……?」


たじろぎ、皆剣を構える。


「目的の為なら手段を選ばないってのが気に入らねぇ」


炎の成した鳥は、文句を言い人の形を作る。それは羽竜へと姿を変えた。


「お………お前は!!バカなッ!?クダイ様にやられたはずじゃ………!!」


「生憎だな。あの程度じゃ死なないんだよ」


誰も羽竜に挑む者はいない。あの人間離れした機敏さは、訓練されたものではないと悟っているから。つまりは、人間ではないと。


「武器を持っていた人間なら仕方ない。けど、女子供まで殺す必要はなかったはずだ!あまつさえ、火を放つなんて………なぁにが騎兵隊だ!お前らは、ただの外道だあーッ!!」


体内に秘めたオーラを解放し、一気に蹴散らす。

そうでもしなければ、気が狂いそうだった。

鎧ごと粉々に、辺り一面を吹き飛ばした。


「ハァ………ハァ………クダイ………あの野郎、ぜってー許さねえッ!」










一方。ソニヤは我を忘れクダイに立ち向かうも、てんで話にならず、分厚い金属を纏った拳や蹴りで無様に転がるばかり。


「ソニヤ!」


居ても立っても居られず、シズクは介抱する。

小さなソニヤの身体が、クダイに暴力を振るわれる度に宙に舞うのが堪えられなかった。


「ソニヤ!しっかりして!」


「うくっ………」


半目を開け、それでも網膜を刺激するのはシズクの顔なんかではなく、


「身の程を弁えたか?」


クダイの顔。


「もうやめてよ!これ以上はソニヤが死んじゃう!」


「彼が望んだことだ」


「あなたの目的は私でしょ!ソニヤは関係ないわ!」


「ああ、そうさ。シズク、君さえ連れて帰ればそれでいい。だが、そこのボウヤには分かってもらわなければならない。正義なんてものは存在しないってね」


ソニヤの瞳にまだ力がある。だから気に入らない。

かつての自分もこんな瞳をしていたのなら、クダイにとっては恥でしかない。

世の中のことを知らない純粋さは、誇ることではない。

無知で、無秩序で、若さとはそれだけの瞬間。

しかし、そんな時代の自分をソニヤに見てしまう。悪夢のように。

その残像を振り払わなければ息苦しくて敵わない。


「立て、ソニヤ。僕に逆らった罰は受けてもらう」


「自分が………なんでも正しいと思ってるのかよ」


「フッ。物分かりの悪い。………正義など存在しないと言ったろ。僕が正しいかどうかが重要なんじゃない。君が僕に逆らった事実が許せないんだよ」


「………エゴイストめ!」


「まだ反省の色が見えないな。いいさ、どうせ生かしてはおかない」


振り上げたダーインスレイヴが、夜だというのにやけに鋭く光る。

ギロチン台に乗せられた気分になりながらも、ソニヤは退かない。退けば、自分が何をしに村から出て来たのか分からなくなるからだ。


「シズク、君は下がっててくれないか」


「下がるわけないでしょ」


「………君も聞き分けがないね。どうにもこの世界には、僕の好む人間はいないようだ」


ふぅと息を吐いたその後、


「きゃあっ!痛い!何すんのよ!」


「シ、シズク!」


シズクの髪を鷲掴み、


「邪魔だって言ってるんだ!」


放り投げる。


「クダイ!シズクは女の子だぞ!」


「関係ない。僕は忠告したんだ。親切にね」


「なんてヤツだ………!最低のクソ野郎!」


「何とでも言いたまえ。暴言を吐く暇があるなら、念仏でも唱えた方が賢いと思うけどね」


ダーインスレイヴを振り上げ、痛みで思うように動けないソニヤの首を狙う。


「あの世で羽竜によろしく言っておいてくれ」


「………ッ!」


歯を食いしばり、立てない自分を呪う。

そして、ダーインスレイヴは振り下ろされた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ