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第十八章 愚か者

アジトの中は見るに堪えない惨劇の場となった。

羽竜がクダイに破れ、士気を高めた騎兵隊がなだれ込んで来る。

掃討作戦であり、思うがままに剣を振るい火を放つ。


「ゼロ!」


ソニヤが騒ぎを聞き付け、シズクとやって来る。

事態の重大さを知り、青ざめていた。


「これは………!?」


「見ての通りだ。騎兵隊は俺達を全員殺すつもりだ」


「そんな………羽竜は!?」


ソニヤはゼロの服に縋り問う。

答えないゼロの態度から予想はつくが、にわかに信じることは出来ない。


「ソニヤ、シズク。逃げるんだ!」


「ゼロ!羽竜は………羽竜はどうしたんだよ!」


「言わなきゃわからんのかッ!?羽竜は死んだ!騎兵隊のリーダーにやられて………」


唇を噛む。

あねぇ!騎兵隊の狙いは私でしょ?だったら、私が出て行けば!」


シズクは原因が自分にあると思い提言した。

また人が死ぬ。自分の為に。仲間まで死んだのだ。これ以上は精神が持ちそうになかった。


「ダメだ!」


「ゼロ!」


「君を帝国に渡すわけにはいかない!ソニヤと一緒に逃げるんだ!」


「嫌よ!私の為に誰かが死ぬ。もう堪えらんないっ!」


思ったより重症で、シズクはゼロに掴まれた腕を軸に暴れる。


「落ち着けよ!」


そんなシズクを、ソニヤが一喝して黙らせる。


「ソニヤには分かんないよ。自分の為に、他人が死ぬ。理由も知らないのにだよ?羽竜まで………」


「シズク。今は逃げるしかない!羽竜の死を無駄には出来ないよ!」


「嫌ったら嫌ッ!逃げて、また逃げて………その度に犠牲者が出るなら、私が捕まって引導を渡してやるわ!………大丈夫よ。ゴッドインメモリーズなんて使わされる前に、舌噛んで死んでやるんだから!」


自棄になって不用意な言葉を出した。

半分は本気なのだろうが、そんな言葉しか残っていなかったのだ。


パシンッ!


その暴言の報いは、ソニヤの平手打ちで果たされた。


「君の口からそんな言葉聞きたくないよ!死んだら何もかも終わっちゃうんだ!………両親を探すんじゃなかったのか?」


「ソニヤ………」


「ボクだって泣きたいよ。逃げたいよ。でも、やらなきゃいけないことがある。そしていつか、生きて羽竜の仇を討つんだ!」


ショックを受けてないわけではない。羽竜が守ってくれると思っていたし、粗暴だが案外賢く、頼りになる奴だった。

これからどうすればいいか、考える余裕さえない。

いつか苦難が来るような気はしていたが、こんなに早く来ると予想はしてなかった。


「うん。分かった。ソニヤの言う通りにする」


気の強いシズクも、所詮は年頃の少女。不安があればつい泣き出したくもなるし、なんだかんだと頼れるのはソニヤしかいない。


「よし!ならこっちだ!」


話が着いたことを見計らい、ゼロが二人を誘導する。

渓谷の奥深くのアジトに逃げ道があるか疑問ではあったが、アジトの主があると言うのだからあるのだろう。

ゼロに従い着いて行く。

来た道を戻り、奥まで走る。悲鳴や怒号が遠ざかって行けば行くほど、自分達が思っているような安易な運命ではないことを分からされる。

やがて何もない空間に辿り着き、近くのキャンドルをゼロが手にする。


「何もないじゃないか」


そうソニヤに言われてしまう。

すると、行き止まりの壁をキャンドル片手にまさぐる。

そのうち、ガコンッと音が鳴り、同時に人ひとり通れる程度の隙間が開く。


「す、すげー………」


感嘆するソニヤは、一瞬目的を忘れそうになった。


「さ、二人共、ここから外に出られる。後は道なりに進めば村が見える。そこからどうするかは、お前達の決めることだ」


そう言うと、ゼロは巾着をシズクに渡す。


「多くはないが、金が入ってる。旅の足しにしてくれ」


「ゼロ。一緒に来てよ!」


シズクが言うと、ゼロは微笑み、


「志しを共にした仲間達を置いて、どこにも行けるわけがない」


「ゼロ!」


「シズク。それにソニヤ。いいか?お前達は大きな運命の渦中にある。何があっても避けられない道だ。振り向かず、ただ前を見て進んで行け。世界の為に」


この場でそんな大それた言葉を聞かされて、頷けるわけがない。

羽竜がいない今、ゼロに一緒に来て欲しいと思うのは甘えかもしれない。

けれど、あまりに色々なことが、あまりに唐突に起こる現実に、もうこれ以上は何も考えられなかった。

言われるがまま、開いた隙間を通り外に出る。

クダイ達がこちらへ来るには、同じ隙間を通るしかないのだろうが、分厚い鎧を身につけている騎兵隊ではそれは無理だ。後は、ぐるっと迂回して来なければならない。

つまりは、ソニヤとシズクが逃げる時間は充分に用意されたのだ。


「ソニヤ、シズク。何があっても立ち止まるな。何があってもだ」


ゼロは別れの言葉を告げると、スイッチを押して隙間を隠した。

向こう側では、ソニヤとシズクが叫んでいる。声は聞こえないが、そんな気がする。


「頼んだぞ………」


そして、鞘から剣を抜き振り返ると、


「シズクはどうした?」


そこには、クダイがいた。


「貴様らに答える義務はない!」


「強気だね。最後の悪あがきってわけだ」


もう勝負は着いている。だからゼロは、プライドを捨てないのだ。

強い眼差しで、クダイを睨む。

覚悟が伺える男の瞳。


「反乱軍………何に対して反乱をするんだい?」


クダイは、ゆっくり近づいた。


「何を今更!帝国への反乱に決まっている!」


警戒しながら、ゼロは剣を構える。


「分からない。世界はバジリア帝国によって安泰している。庶民も自由に人生を選択出来るし、商売だって。税金も気違いになるような税率じゃない。反乱など起こす理由がないじゃないか」


「フン!そんなのは見かけ倒しだ!知らないとは言わせんぞ。どれだけの人間が帝国発展の餌食になってるか!」


「……………。」


なるほど。と、すんなり理解はしかねる。クダイは帝国が何をしたいのかも分からないのだ。


「………ま、互いに主張はあるんだろうけど」


クダイは、ダーインスレイヴを抜いた。


「いいんじゃない?信念を持って行動することは悪いことじゃない」


結局、ゼロの言い分に興味などない。

見かけ倒しの世界などと、とっくに分かっている。ただ、ピースが繋がることを拒んでいるようで気持ちが悪いだけなのだ。


「もう一度聞く。シズクはどこだ?」


「ならもう一度言う。答える義務はない!」


僅かでも望みがあるかもしれない。

そう思い、ゼロはクダイに仕掛ける。が………


「ぐはっ………」


首を鷲掴みにされてしまう。


「観念しろ。見てたはずだ。僕と羽竜の戦いを」


「く………な、なんて力……だ……」


片手で持ち上げられてしまう自分が情けないとは思わない。クダイが尋常じゃないのだ。

しつこくこびりつくプライドが、ゼロを足掻かせ、クダイの顔に唾を吐く。


「………フッ。随分原始的な真似を」


ゼロを離し、吐かれた唾を拭う。


「へへ………庶民の恨みだ」


満足げに言うゼロに、


「………天に向かって唾を吐けば、必ず自分に落ちて来る………意味が分かるか?」


「知るか!」


「天には神が居る。神の住まう領域を汚せば、相応の罰が下るという意味だ」


刹那、ダーインスレイヴがゼロの身体を切り裂いた。


「があぁ………が……っ………」


「愚か者」


世界がどうであろうと、彼は神だった。


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