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第十七章 クダイの反乱 〜後編〜

騎兵隊が切り込んで来た。

静かな夜が一変、激しく血の臭いがする地獄へと変わる。

馬上の騎士達は、反乱軍を瞬く間に倒して行く。

それでも、反乱軍はあれこれ知恵を絞り抵抗しているが、既に先は見えていた。


「くそっ!このままじゃ………!」


ゼロも指揮官として、どうすればいいか判断のつかない状況だ。


「わりい、待たせた」


「は、羽竜!」


ひょいと現れた羽竜は、どこに隠していたのか真っ赤な鎧に身を包んでいた。


「ゼロ!みんなをアジトに戻せ!」


「何ッ?どうする気だ?」


「俺一人でいい」


「バカな冗談を!」


「冗談じゃない!いいからみんなを退却させろ!」


有無を言わさない羽竜の言葉に、


「みんなッ!アジトに戻れッ!」


ゼロが叫ぶと、劣勢を強いられていた仲間がそれに従う。


「ゼロ」


「どうした?」


「もし………万が一俺に何かあったら、ソニヤとシズクを守ってくれ」


「羽竜………」


「ヘッ。そんなツラすんなって。ちょっとカッコつけたかっただけだ」


そして、羽竜は単身、騎兵隊の前に出る。

そのフェニックスと呼ぶに相応しい姿に、百の騎兵隊が怯み、ゼロ達でさえ静まり成り行きを見ている。


「大将出せよ」


羽竜が言うと、


「せっかちと言うかなんと言うか。ま、強気な方が君らしいけどね」


慣れたように馬を操りクダイが現れた。

クダイは、マスクを外し部下に渡す。


「久しぶりに見たよ。君の鎧姿。………やる気が出る」


「クダイ………本気なのか?」


「まあね。僕はあの頃、君が羨ましかった。思ったことを思った通りに行動する。誰に遠慮することもなく、常に自分あろうとする。………何より、君は強かった」


右手で、右腰の鞘から剣を抜き、馬上から部下に下がるよう、手振りで命じる。

対して羽竜もトランスミグレーションを手にする。


「それ、ケファノスのダーインスレイヴじゃないのか?」


「………形見だよ」


「形見?………死んだのか?」


「ああ。とても残念だがね」


「………何があったんだ?」


「いろいろだよ」


羽竜がクダイを想えば、彼の深い闇を見る。


「来い!羽竜!戦わねば道は開かれない!」


まるでコロシアムのような地形の中、クダイは羽竜を挑発する。


「言われるまでもねえ。売られたケンカは買うだけだ!」


クダイの挑発に乗り、羽竜はトランスミグレーションで挑む。

高く跳ね上がり、振り下ろす。

受け止めたクダイは、押し返すと、直ぐさまダーインスレイヴで攻撃する。

残像が残るほどの素早さで、羽竜は避けると、クダイの右側に回り込んで蹴り飛ばす。

二人の戦いは、あまりにレベルが高く、ゼロ達はおろか、騎兵隊の面々ですら舌を巻く。

剣筋が見えず、また、人間とは思えない動きとスピードが、ひとつの視覚アトラクションのようでもある。


「さすがだ、羽竜」


「ケッ。世辞はいい。何があったか教えろよ。あれから、サンジェルマンは倒したんだろ?」


剣を打ち付け合いながら、それが羽竜とクダイ二人のスキンシップになる。

その中で、クダイの遠い過去………羽竜がわずかに彼と過ごした日を想う。


「倒したさ。もちろんね。………でも、それだけでは済まなかった」


「どういうことだよ」


「………サンジェルマンはダンタリオンだったんだ。カイムも死に、ケファノスも死んで、僕だけが最後まで彼と戦った」


「……………。」


そんなことがあったとは知らないまでも、それだけがクダイを変えたとは思っていない。

こうして、時空間を超える力を身につけ、ただならぬオーラを纏う理由、その原点はもっと別の真実があると思わざるを得ない。

それだけならまだ思い出話の範疇はんちゅうになる。しかし、今のクダイからは殺気が溢れ出している。


「僕は………ジャスティスソードで世界を壊したんだ。世界の創造主を倒すということは、つまりはそういうことだろ」


「クダイ………」


「世界はガラスのように砕け、僕だけが時空間の中で生き残った。だから決めたんだ。散り散りになった世界の破片を集め、世界そのものは無理でも、せめてシトリーだけは………」


「世界が散り散りになったのに、シトリーが生きてるわけねーだろ」


「フフ。僕は、シトリーに会ったんだ」


「なんだって?マジなのか?」


「嘘なんて言わない。僕みたいに大人になっていて、記憶が定かではなかったようだけれど、僕の名前を口にしたんだ。………彼女は生きてる!」


急に剣に力を込め、羽竜を押し返す。


「シトリーを探す為に、ゴッドインメモリーズを手に入れようって魂胆か」


「彼女の為なら、僕は鬼にもなれる!実際、そうやって生きて来た!」


「救いようのねぇ………ゴッドインメモリーズがそれを叶えてくれなかったらどうするんだ!」


「その時はその時さ。目の前に得体の知れない“力”がある。パンドラボックスかもしれないけど、開けてみる価値は存分にある」


「お前もヴァルゼ・アークと同じだな。勝手な言い分だ」


「僕はヒーローじゃない。罵られても、自分のやりたいことをやるだけ。………君だってそうじゃないか。君は本当にヴァルゼ・アークを倒す気があるのかい?」


「どういう意味で言ってんだ?」


「君は強い。それなのに未だに彼を追ってる。今までに、ただの一度も彼を倒すチャンスがなかったのかい?………あったはずだ。君は、剣を置いて普通に生きることが怖いんだ。戦ってなければ不安で、見知らぬ土地で果ててしまうことも望んでいない。誰かに関わってなけりゃ、心を失くすんじゃないかって、そう思ってるんだ」


満更的外れではない。クダイの言葉に、羽竜は反論出来なかった。

静寂の中、二人の剣が交わる音だけが響く。そう、無機質でとても哀しい歌みたいに。


「クダイ。お前の願いは叶わないと思う」


「へえ………どうしてさ?」


「ヴァルゼ・アークも、数多の世界と時間を越えてもまだ望む力は見つからない。きっとお前も、アイツみたいに永遠に時間を繰り返すだけになるぞ」


「そんな理屈、僕が納得すると思ってるのか?」


「自分だけは違うなんて思ってんだろ?そいつは大きな間違いだ」


「羽竜。僕は人を超えた者。言うなれば“神”だ。時間さえ越えるこの力、使わないなんてナンセンスじゃないか。………いや、君だって分かってるんだ。心の奥底では、その気になればなんでも出来るんだって」


「俺はお前やヴァルゼ・アークとは違う!」


「変わらないよ。そうやって、不死鳥の鎧を纏い続ける限り」


そして羽竜は気付く。今、どうしようもないほど自分が動揺していることに。

自信家なところが羽竜の強さである。その動揺は、致命的な隙になった。


「さよならだ、羽竜!僕は誰にも負けないっ!」


間合いを取り、ダーインスレイヴをかざす。トドメを刺す為に。


「どいつもこいつも面倒くせーっ!!」


失いかけている信念という名の自信。

羽竜は、炎の翼を広げクダイに向かう。

しかし………


「散れッ!フェニックス!!終末幻想!!」


繰り出したクダイの技は、もはや羽竜の予測を超えていた。


「クダイーーーッ!!!」


まともにくらい、力尽きたフェニックスは失速して落下する。


「僕はフェニックスを超えた!」


勝ちを確信し、誇るクダイの前に羽竜は倒れた。

騎兵隊から歓声が漏れる。

リーダーの勝利の意味は大きい。

一気に士気の上がったこの時に、クダイは指示を出す。


「速やかに反乱軍を掃討しろっ!シズクも捕獲するんだっ!」


指示通り速やかに行動に移した部下達に満足した。

自分の実力を“植え付け”、一言で一個小隊が思い通りになるのだ。


「一人も生かす必要はないっ!………そう、誰一人僕に逆らうことは許さない」


クダイが、万物に反乱を起こした瞬間だった。


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