第十七章 クダイの反乱 〜前編〜
「全員準備が整いました」
虫の声が心地好い真夜中に、純白の騎士達は殺気を纏っていた。
部下からの報告を受け、クダイは作戦を言い渡す。
「ここから先は道が狭い。見張りもいるだろうから、反乱軍のアジトに出るまで全力疾走だ。彼らにとって、唯一敵を食い止められる場所は他に無い。あの道を抜ければ、後は指示は出さない。狙いは反乱軍の壊滅。そして、シズクの奪還。それだけだ」
本来なら、直前で命令することではないのだが、バックアップに回るのが自分だからと余裕がある。
「みんな、剣を」
クダイが言うと、部下達は剣を手にした。
全力で馬を走らせ、一人残らず殺す。シズクを除いて。
勝てる戦だが、フェニックス………羽竜がどう動くか分からない。
そんな部下達を察し、
「フッ。大丈夫。羽竜は僕が相手するから、君らは羽竜を相手にするな」
「はっ!」
深い渓谷の奥に向かって風が吹きはじめた。
クダイ達騎兵隊の追い風は、むさ苦しい鎧の隙間を縫って、肉体の熱が上がり過ぎぬよう操温してくれる。
「では掃討作戦開始だ!」
クダイの号令で部下達が飛び出した。
バックアップを約束したクダイは、崖の上の見張りに目をやる。とは言え、その崖まで百メートルはある。
だが、とっくに気付いていた。
「こんなのは茶番なんだけどね」
そう言いながらも、両手をかざし………それは魔法と呼んでいいのか分からないが、密度の濃いエネルギー球を飛ばした。
馬の足より速く、その行く先、結末は“見る”までもない。
しくじりはしないのだから。
「僕は部下想いだねぇ」
手綱を握り、馬に歩くよう命じる。
「“長生き”はするものだ」
マスクの奥の瞳は、獲物を狙う獣の瞳。
この人の嗅覚は獣かと疑いたくなる。
ソニヤはぼーっとしながらも、羽竜へ深く感心した。
「敵って………帝国ぅ?」
昼間の訓練だか鍛練のおかげで、筋肉の悲鳴がやまない。
寝ぼけ眼を無理矢理起こして、暗闇の中、羽竜を見る。
「羽竜?」
羽竜は押し黙り外を眺めている。
「………クダイが来てる」
「え!?」
「野郎………今回は逃がすつもりはないらしい」
「………な、なんで分かるの?」
「分かるんだよ。俺には」
この態度は、いつもの羽竜の横柄な態度とは違っている。
殺伐とした目つきは、ソニヤにそれ以上の言葉を奪う。
「ソニヤ!羽竜!」
そこへ、シズクが来た。
慌ただしさから、クダイ達がそこまで来てるのが分かった。
「ゼロがすぐ来てくれって!」
戦いが始まる。ソニヤの強張る身体に緊張が走る。
「今行く」
羽竜はトランスミグレーションを腰に提げた。
「ソニヤ。お前はまだ戦いは無理だ。シズクがクダイ達に渡らないよう、匿うんだ」
「ボ、ボクだって!」
「ばぁか。たった数時間の訓練で何が出来る?いいから、シズクを頼む」
着いて行きたい気持ちがある。不思議だと思うが、身体が疼く。
だが、今の自分に出来ることはない。
「なら羽竜。気をつけて」
そう言うと、羽竜は微笑んでゼロの下へ向かった。