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第十四章 価値観

夜ともなると、昼間の暑さから解放され涼風の癒しが始まる。

ゴシック建築の城内は、不気味なくらい静まり返り、警らの兵士の他に幽霊でも出くわしそうな雰囲気だ。

鎧を脱ぎ、身軽になって僅かな光を支えに歩く。

多少の酒を嗜んだ後は、城の裏手にあたるバルコニーで星空を眺めるのが、この世界に来てからのクダイの日課だ。

近頃は任務で地方への出張が多かっただけに、今夜は満喫したい気分だった。


「羽竜………」


久方の再会が、まだ胸を熱くする。

遠い昔の友人。親友と呼んだら怒るだろうか?

クダイにとっては、時空間を旅してから一番の至福に違いない。

羽竜が居るということは、彼が追う男もいるかもしれない。

そう思うと、ワクワクして仕方がない。


「ジェネラル・クダイ。こんな時間にこんなところで何を?」


一人考え込んでいるところへ、酸漿ほおずき色の髪が特徴的な青年が現れた。

小綺麗な身なりは彼の品の良さの象徴で、人に好かれる顔立ちは神官として充分に役に立ってるのだろう。


「オラトリオ」


「あなたが帰ったと聞いて、是非一杯やりたくて」


オラトリオは、手持ちの果実酒をバルコニーにあるテーブルに置き、グラスも二つ置いた。

コトコトと、ボトル口から奏でる独特の音が味を保証しているようで、飲むつもりはなかったクダイも、ついグラスを手にしてしまう。


「二、三日でまた出て行くさ」


「大変な職務だね。将軍も」


オラトリオは、クダイがこの世界に来てから世話になっている人物で、信頼度も高い。

それでも、親友とまでは呼べない理由がある。


「オラトリオ」


「ん?どうかしたのかい?」


「陛下は何故ゴッドインメモリーズを求めるんだ?」


「ハハハ。またその質問かい?」


「僕は陛下にお会いしたことがない。将軍の地位を授かったにも関わらずね。だから、せめてゴッドインメモリーズが何なのかくらいは知りたいんだ」


「………すまない。守秘義務がある」


「異世界の人間には、例え将軍でも言えないと?」


「悪く取らないで欲しい。時期が来れば、セルバ卿も君にも話すさ」


「陛下じゃなく?」


「実のところね、私も陛下にお会いしたことがないんだ」


「なんだって?」


「私だけじゃない。陛下に直に会ってるのは、セルバ卿とその側近くらいさ。私が士官した時から変わらないよ」


クダイは酒を口に入れ、一気に喉を通す。

これまた妙な話だと思いながらも、ここまでがオラトリオが話せる限界だと分かっている。


「クダイ。ゴッドインメモリーズのことはとりあえず忘れるんだ。君には優先すべき任務がある。まずはそれを………」


「承知してるよ。………僕はいろんな世界を見て来た。それぞれに独特の世界観があって、ルールがある。しかし、この世界は謎だらけさ。世界を治める国王の顔を知る者が少ない。戦争が起こるはずがないのに、軍隊が存在する。………昼間、セルバ卿に増員を嘆願したんだ。けれど、答えはノー。増員しなければシズクを奪えないと言っているのにだ」


「聞いたよ。フェニックスだって?その者の名前かい?」


「………代名詞だよ」


何を聞いても、オラトリオは答えないだろう。


「さ、明日も早い。私は先に寝かせてもらうよ」


「ああ」


「………クダイ。セルバ卿は君をあまり信用していない。詮索し過ぎて足元を掬われないようにすることだ」


忠告し、オラトリオは部屋へ戻って行った。

元々、オラトリオはうるさい人間じゃないし、一緒にいることの苦痛はなかったが、込み入った話をすると壁を感じる。

ジェネラルと位置付けられた身分でも、所詮はよそ者。見込まれたのは剣の腕だけ。

増員が許可されないのも、信用がないことが根底なことは明白だし、特にそれで困ることはクダイにはない。


「詮索するな?ハハハ。それは無理な話だよオラトリオ」


詮索する為に“ここ”にいる。


「秘密は、暴くという行為にこそ価値がある。だから、僕の前に秘密は要らない。僕の望むものは、何を犠牲にしても手に入れてみせる!」


 月夜の綺麗な夜だった。


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