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第十三章 delusionを嫌う日

「俺の名はゼロ。反乱軍のリーダーを務めている」


ソニヤ達の縄は解かれ、岩を削って作った円卓を囲んでいた。


「まずはお前らの名前を聞こう」


そう切り出したということは、話し合う気があるということ。

ソニヤとシズクはホッとすると、


「ボクはソニヤ。左側にいるこの子はシズク。で、右側の彼は羽竜ハリュウ


害が無いと判断されたのか、実に紳士的………とまでは言えないが、悪い応対ではなかった。


「ソニヤにシズク、それに羽竜か。名前は分かった。で、早速なんだが、さっきの話を詳しく聞かせてくれないか?」


本題を切り出すと、それに従いソニヤが口を開こうとした。………が、


「その前に聞きたいことがある」


羽竜がゼロを睨みつけた。

明らかに喧嘩腰な雰囲気は、一気に辺りを不穏にしてしまう。

ソニヤもシズクも、自称反乱軍のリーダーに喧嘩を売る気など毛頭ない。それだけに、羽竜には落ち着いてもらいたいのだが、


「羽竜………だったな?話を聞くのは俺だ。立場をわきまえるんだ。お前の剣はこちらで預かってるんだ。言う通りにした方が得策じゃないか?」


「それで脅してるつもりか?」


「フッ。我々は世界の秩序を取り戻すべく立ち上がった反乱軍。脅しなど、外道のやることだ。今のは忠告だよ」


「何が反乱軍だ。訳もなく俺達を拘束しやがって。答えろ!拘束された訳を!」


「聞きたいのはそんなことか」


「そんなこと?ヘッ。見下されてるみたいだな」


「図々しい男め。身体に教え込んでやろうか?」


ゼロが言うと、特に指示もされていないのに、周りの部下が羽竜に歩み寄る。

思惑としては、それで羽竜を黙らせるつもりだった。

しかし、


「ぐえっ!」「げほぉっ!」「ひぎゃっ!」などと悲鳴を上げ、屈強な大の男達が見事に倒されてしまった。


「もっと仲間を呼べよ。いっそ、お前らの組織ぶっ潰してやる!」


面倒な駆け引きは羽竜の性に合わない。

やるかやられるか。拳があればそれでいい。


「…………くっ!」


騒ぎにもならないくらい鮮やかにキメられた。同時に、羽竜の格闘センスの高さを知る。

仲間を呼んだところで、余計に付け上がらせる材料にされかねない。


「どうしたよ?やるならトコトンやろうぜ」


「………やはりただ者ではないようだな」


「そう思うなら、拘束された理由を教えてもらおうか」


「………お前のこの剣だ」


ゼロは、赤い鞘に収まった羽竜の剣を円卓に置いた。


「どっからどう見ても、高貴な剣だ。お前の格好には似合わないほどにな。こんな剣を持てるのは、帝国の兵士だけだ。俺達を油断させる為に、年端もいかないお前らを使わせたのかと思ったんだが………どうやら勘違いだったらしいな」


帝国の兵士なら、もっと探りを入れてくるだろう。そう考えると、感情に任せた羽竜の態度はあまりに不用意だ。


「すまない。嫌な思いをさせたな」


羽竜がキレたことで、ゼロの警戒心も失せた。

安堵したゼロは、


「それにしても強いな。どこの生まれだ?」


羽竜に関心を抱く。


「俺はこことは違う世界から来たんだ」


「何?バカな。違う世界だと?」


「そうだ。信じられないかもしれないが、ある男を追って来た」


「男?」


「黒い服が大好きな背の高い男だ。髪も黒いし、剣の刃も黒い。怒ると真っ赤な髪になって、角が生える。………知らないか?」


知らないとは思うが、一応尋ねてみた。


「いや。知らないな」


「そっか。ま、そうだよな」


ゼロは羽竜をまじまじ見る。

違う世界の存在など、にわかに信じ難い。

だが、羽竜が嘘を言ってないことは、生来の勘の良さが保証していた。


「じゃあ、そっちの二人も違う世界から来たのか?」


ゼロの視線が、ソニヤとシズクへ。


「い、いえ、ボク達は………」


ソニヤが否定した。


「だろうな。ゴッドインメモリーズを知っているのだから」


そして、ゼロの口から出たのはゴッドインメモリーズ。


「知ってるんですか!?ゴッドインメモリーズを!」


ソニヤが飛びつくと、


「ああ。古い書物に書いてあった。世界で唯一の魔法だと」


「それってどんな魔法なの!?」


シズクも飛びつく。

質問するはずが、逆に質問されてしまう。


「どんなって言われてもなあ。書物が古すぎて、そこまでは書いてなかったんだ」


と、ゼロの言い訳を聞き、ソニヤとシズクは落胆する。その姿を見てゼロは、こちらから聞き出すことがあるほど、ソニヤ達は何も知らないのではないかと悟った。


「確かさっき、世界で唯一の魔法使いとか言ってたな?ならば、ゴッドインメモリーズのことも知ってるんじゃないか?」


ゼロに言われ、シズクはすぐさま、


「帝国が私をそう思ってるだけよ。私は何も知らないもの」


意気消沈した。

冷静になると、また不安になる。ソニヤと羽竜と出会ってから、それを忘れるくらい賑やかだっただけに、現実はシズクの首に手をかけていると気づくと、涙が出そうになる。


「ソニヤ、お前は女神がどうとか言ってたな?」


ソニヤにも聞く。しかし、ソニヤもよく分からない。答え方を模索してると、


「無駄だぜ。ソニヤは夢ん中で帝国を止めろと言われただけだ。それ以上は何も知らない」


「夢じゃないよ!」


「どっちでも同じだろ!」


羽竜が説明をする。

どうやら、互いに求める情報は持っていないらしく、拍子抜けと言えば拍子抜けなのだが、たったひとつの国に反乱を仕掛ける組織に、羽竜は興味がある。


「あんたら、帝国に戦いを挑むつもりなのか?」


唐突に反乱軍の意義に迫る。『反乱』と掲げるくらいなのだから、当然争いは前提のはず。


「帝国は、小さな村を襲っては焼き払うことを繰り返していた。それについて、ゴッドインメモリーズが関わってることも、最近分かったんだ。だからといって、尊い人の命を奪う悪行を許せるわけがない」


「何の為に村を焼き払う必要があったんだ?」


「それは………」


ゼロはシズクを見た。

それに気付いたシズクは、悲痛の表情で胸を抑えながら、


「私を探す為よ」


そう言った。


「シズク………」


案じたソニヤだったが、シズクは敢えて受け入れず、


「私はゴッドインメモリーズを知らない。でも、帝国は私の名を上げていた。それは、私がゴッドインメモリーズを使えること他ならないから………でしょ?」


最後は確信を持てなかったが、きっとそういうことなのだろうとは推測出来る。

自分が知らないだけで、帝国は色々知っているのだ。


「………なるほど。つまりお前らは、帝国から逃げているのか」


「そうなんです!」


ソニヤがすかさずゼロに言ったのは、シズクが不敏だから。

そんなことがあったとは、シズクは言わなかった。もちろん、出会って数日の仲だ。信頼感など育つわけもない。


「帝国から逃げていても、いつか捕まるぞ。行く宛てはあるのか?」


「とりあえず、バジリアD地区まで行こうかと」


「D地区?また遠くを目指してるんだな」


「はい。あそこは、遺跡だとか図書館もあると聞いてます。ゴッドインメモリーズや、ボクに啓示をした女神のことが何か分かるかもしれないんで」


そう聞かされれば納得がいく。


「D地区か。確かに、あそこは世界遺産の宝庫だと聞く。行ったことはないが、何か分かるかもしれん」


「反乱軍はここで何をしてるんだ?」


羽竜が尋ねる。

よもや、通るか通らないか分からない帝国兵を待ってるだけではないだろう。

地理的な問題ならば、この場所を本部にしてるのは合点がいく。

ただ、具体的な内容を知りたい。


「ここは人が踏み込まない場所だからな。今はここを拠点に、もっぱら情報収集と武器の調達のみだ。とは言え、簡単にはいかない。有力な情報は帝国でもごく一部の者しか知らないだろうし、まして武器なんて手に入るのに命懸けだ」


「だろうな。世界を治めてる帝国が全て管理してるんだ。そう考えれば、やけにデカイ街が数えるほどしかないのも頷ける。あんたらのように、反乱を起こす奴らを想定すれば、情報収集や武器の調達が盛んに行われる場所は少ない方がいい。監視もしやすいしな」


決められた場所だけが、あらかじめ決められた範囲でだけ栄える。

騎兵隊のような公務員優遇がなく商売が出来るのも、不満が出て反乱を起こされないようにするのが目的。

仮に、ゼロ達のように反乱軍を起こしても、情報は集まらない、武器も手に入らないのでは、反乱軍としての本分たる行動を起こすまで月日がかかる。

時間がかかれば、むしろ帝国にとっては反乱分子を見付ける確率が上がるのだから、この世界を治める人物は頭が相当キレるのだろう。


「どうやらお前らは俺達に近い人間らしい。これも何かの縁だ。お前らの力になりたい」


「ボク達の………ですか?」


ゼロは頷くと、


「見たところ、金銭的にも余裕はないようだし、お前らの求める情報は我々にとっても有益なものだ。互いに手を組んだ方が得じゃないか?」


そう説得するゼロに、ソニヤはどう返していいか判断出来ず羽竜に目線で訴える。


「反乱軍には入らない。あくまで客人として扱ってくれるなら、受け入れてもいいな」


羽竜は堂々と答える。

素直に頷かず、自分達の立場を要求する辺りは、ゼロも唸るほど“駆け引き”に慣れている証拠。逆に力強い仲間になってくれそうだ。

ゼロは笑顔でそれを承諾した。


「あ、これは返してもらう」


羽竜は、置かれた自分の剣を手に取る。


「もちろん返そう。それにしても、派手な剣だな。刃が真っ赤だ」


「そこいらの剣と一緒にしないでくれ。これは………」


羽竜は鞘からサッと剣を抜く。


「トランスミグレーション。輪廻転生の名を持つ剣なんだからな」


どこまでも赤く輝く刃。

ソニヤ達の未来が迷妄に陥らないように、ただ願うばかりだった。


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