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第十一章 witness

どうすべきか悩むよりも、思い立ったことを即行動。それが羽竜の信条。

ソニヤとシズクは、旅に慣れた羽竜に従い、一路、帝国から離れた“街”を目指す。

その街はバジリアD地区。そこを目指す理由は、歴史的建造物や書物が多いのだとか。

それをソニヤから聞いた羽竜が、悩むことなく決めたのだ。

無論、シズクを取り返しに来る帝国が、時間を稼ぐのにも有効だろうと考えてのこと。

その時は、再びクダイも顔を見せるのだろうが。


「で、いつ着くんだ?」


あれこれと考えることはあるのだが、羽竜としてはもう二日も歩いてることに苛立ちを感じていた。

旅に慣れてるとは言え、二日も歩くのはやはり負担になる。まして、ちゃんとした宿で身体を休めたわけでも、食事をしたわけでもない。


「いつって言われてもなぁ。ボクだって初めて行くんだ。分からないよ」


「使えねぇなあ」


「な、なんだよ!ボクのせいじゃないだろ!」


がなり立てるソニヤの声に耳を塞ぐ。

悪気はないのだが、一言余計に言葉が口を突いて出てしまう。


「喧嘩もいいけど、D地区に行くまでの食料とかどうするか考えてる?」


一人冷静にシズクが言う。

会って間もないが、どうやら二人に生活能力が無いと気付き、命は助かったがこれでよかったのかと疑問符を打つ。


「D地区に行くまでに小さな村でもあればいいけど………」


シズクがそう言うと、


「この世界の広さはわかんねーけど、帝国が世界を統治してるなら、街がもっとあっていいんじゃないのか?」


その方が効率がいい。ソニヤがいたような村があっても、実際帝国には重宝されないだろう。


「それは帝国のお偉いさんに直接聞いてよ」


ソニヤはブー垂れて見せた。

羽竜の抱く疑問が適切かどうかなんて、ソニヤはもちろん、シズクにも分からない。

今はただ、ソニヤが受けた啓示『帝国を止めろ』と、シズクだけが使えると言われた『ゴッドインメモリーズ』という名の魔法の謎を知る方が先だ。その因果関係も含めて。

シズクとの出会いが偶然か必然か、羽竜は必然だと言うが、ソニヤとシズクにはイマイチ納得出来兼ねる。

三人は各々が思いを馳せながら、到着予定すら未定の道を歩いているのだが、ふと草が鳴る音を同時に聞いた。


「ねぇ、今なんか居たよね?」


不安そうにシズクが尋ねると、


「うん。居た。ガサガサって音がしたもん」


静かな声でソニヤも同調する。

山道に近い。獣が居ても不思議ではないが、人を喰らう獣の可能性もある。

そんなソニヤとシズクの不安を余所に、


「………人だ」


羽竜には何が居るのか分かっていた。

右手が、剣に手を伸ばす。

いつでも抜ける用心は怠らない。

羽竜にしてみれば、人の方が恐いとさえ言うだろう。


「ソニヤ、シズク、俺から離れるな」


羽竜の声がトーンダウンした。

状況が芳しくない証拠だ。


「羽竜………」


ソニヤは、シズクの手を取って辺りを見回す。

あれから音もしないし、気配も感じない。なのに、緊張感が漂う。


「どこにでも居るんだよ………」


と、意味ありげに羽竜が口を開く。

瞬間、どこに潜んでいたのかと種明かしをしてもらいたいほどの団体が、敵意の眼差しと念入りにメンテナンスされた多種多様の武器を手に現れた。


「ひっ!」


「きゃっ!」


ソニヤとシズクが驚きの悲鳴を上げた。


「反乱軍って奴らがな」


さっきの言葉の続きを羽竜は言うと、剣を抜かずおとなしく両手を上げるのだった。










「事情は分かりました。ですが、任務を中断して来たことの言い訳には、あまり効果はないようですね」


黒く長い髪をした女は、着ているドレスの裾を踏まないように階段を上がると、豪華なソファーに腰を下ろした。


「あなたには分からないんだ。フェニックスの偉大さが」


クダイは急ぎ足着いた帝国の城の中で、シズクを取り逃がした説明をしていた。

だが、クダイはこの女が嫌いで、顔もみたくない。そう悟られまいとしているのだが、不機嫌さは滲み出ていた。


「フェニックスなどに興味はありません。わたくしは、ゴッドインメモリーズを使える少女を連れて来るように命じたのです」


「それは承知してます。ですが、セルバ卿。彼は神の如き強さの持ち主。倒すのなら、更なる人数は絶対条件です」


「なりません。バジリア帝国騎兵隊は、少数精鋭の部隊。大所帯を嫌います」


「分かりませんねぇ………ゴッドインメモリーズの少女………シズクをフェニックスから奪うには、手薄だと言ってるのです」


このやり取りも彼女………セルバ卿を好きになれないひとつだ。

前提として、クダイはフェニックス………つまり羽竜からシズクを奪う気はない。その時期ではないと思っている。

ただ、建前として兵を増やせと言っているのだ。しかし、話の内容からすれば、兵を増やせば済む話。無論、兵の数に余裕はある。

ところが、セルバ卿はそれを善しとしない。

そもそも、セルバ卿は大臣的な役割の人物。脇役だ。

クダイにとってはそれこそ興味の無い人物だ。


「セルバ卿。あなたでは話にならない。国王陛下に直談判する。陛下に御目通り願う」


これもクダイが解き明かしたい謎でもある。

兵を増やせない理由。そして、クダイに将軍の地位まで与えながら、今も尚、国王に謁見したことがないのだ。

全てのやり取りは、セルバ卿を通して行われるが、異世界から来たクダイの強さに惚れ、騎兵隊を任せたまではいい。

しかし、それすらもセルバ卿を通してだ。

ゴッドインメモリーズもいいが、この不自然さの理由が知りたいのだ。


「ジェネラル。あなたも話の分からない男だ。陛下は誰ともお会いにならない。話は全てわたくしが聞きます」


「直接話せば、陛下に分かってもらえる自信はあります」


「口説いっ!陛下は誰ともお会いにならぬっ!下がりなさいっ!」


逆ギレしやがって………そう思っていた。


「では、作戦を練る時間を頂けませんか?二、三日で立て直し、再度フェニックスを追いシズクを捕まえて来ます」


内心の自分を言い聞かせ、立場相応に申し出た。


「いいでしょう。シズクのことはジェネラルであるあなたに任せてあります。好きになさい。陛下にはわたくしから伝えておきます。次は必ずシズクを連れて来るのです」


クダイが一礼したのを確認する前に、セルバ卿は奥へ引っ込んだ。


(………いけ好かない女だ)


好きに暴れてやることも出来る。陛下だろうとなんだろうと、ひざまづかせることも可能だ。

そうしないのは、始まったばかりの物語を台なしにしたくないから。


「まあいいさ」


一先ず、罰は無いようだ。話にも出なかった。


「終わり善ければ全て善し………って言うからね」


クダイは、始まったばかりの物語の、一番最後を見ていた。


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