表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/74

第九章 因果律

「お前………あのクダイなのか?」


旧友とも言うべき人物に、羽竜は戸惑いを隠せなかった。

しかも、随分と成長して立派な男になっている。


「そうだよ。“あの”クダイだ」


対して、クダイは戸惑いどころか、羽竜との再会に至福している。

同じ時空間を旅する者。いつかはこんな日が来るような気もしていた。望んでいた。


「羽竜、クダイって………」


ソニヤもまた戸惑っていた。

羽竜から話を聞いた人物が目の前にいる。運命に翻弄されていたという人物が。


「ああ。お前に言った人物だ。だいぶ大人になっちまったがな」


しかし、こうして今目の前にいるということは、運命に打ち勝った。そういうことなのだろう。

そう考えると、戸惑いもやがて喜びに変わる。


「クダイ。お前こんなところで何やってるんだ?」


「見ての通り、ちゃんと就職したのさ」


「ふざけんな。なんでこの世界に居るのか聞いてるんだ!」


「居ちゃ悪いのかい?」


「そうじゃなくてだな、ケファノスやシトリーの居た世界が気に入ってたんじゃなかったのかよ。………ははぁん、さてはシトリー辺りにフラれたかぁ?」


茶化しただけで、本気で言ったわけではないのだが、突然クダイが黄金の剣で攻撃して来た。

羽竜もギリギリで受け止め、鍔ぜり合い状態になる。


「な、何しやがるっ!」


「羽竜。積もる話もあるが、今はそういう状況じゃない」


「………どういう意味だ?」


「言わなくとも分かるだろう?」


鼻先がくっつきそうなくらいの接近で、クダイが囁く。

会話を部下に聞かれたくないのだろう。


「………あのフードの女か?何者なんだ、彼女?お前らみたいな身分の高い連中が追い回すんだ、よっぽどの理由があるんだろ」


「察しがいいね」


「ちょっと考えれば分かることだ。捕まえてどうする気だ?返答によっては、渡すわけにはいかないぜ?」


「さあ?煮るかもしれないし、焼くかもしれない。場合によっちゃあ、生で食べるのかもしれないよ」


「ケッ。お前にブラックジョークのセンスがあったとはな」


「ユーモアと言ってくれ。君に会えて心から嬉しいんだ。君もそう思ってくれてるはずだ」


「それはどうかな。今のお前からは、あの頃の純粋なオーラを感じない。それに、その余裕。思惑がどっかにある証拠だ。嬉しくは思うけど、素直には喜べないな」


「僕も長い時間を生きて来た。犠牲にして来たものも数多くある。少年で居続けるほど、純粋ではいられなくなったってことさ」


「正義正義ってうるさかった奴が、すっかり汚れちまったって言いたいのかよ」


「正義なんてまやかし。そう教えてくれたのは君だ」


「クダイ。何があったんだ?」


「………今は言えない。いずれ、僕と君の運命が互いを求めた時が来たなら、その機会もあるさ」


この再会は偶然なんかじゃない。二人共そう確信している。

本気で鍔ぜり合う羽竜とクダイ。気を抜けば斬られてしまう。

それでも、この上ないコミュニケーション。

クダイは、成長した自分を見せ付けたいのだ。

しかし、そうも言ってられない。見せ掛けの一触即発に、部下達が加勢しようと剣を構え出した。


「羽竜。時間がない。あの少女を連れて逃げるんだ」


「なっ、何っ?」


「細かい説明は省く。とにかく、今は言う通りにしてくれ」


「クダイ」


「さあ、部下にこの演出がペテンだとバレる前に、僕を弾き飛ばすんだ」


逃げ道を与えてくれるらしい。

正直、騎兵隊など羽竜にとって敵ではない。が、逆らえばクダイは本気で戦うつもりだろう。

今のクダイの実力を測れない以上、戦闘に持ち込むのは愚行と言える。

羽竜は、意を決してクダイの腹部を思いきり蹴飛ばした。


「くっ………!」


手加減はされたのだろうが、それでも充分な威力だった。

クダイは部下達の方へ、派手に倒れ込む。


「ソニヤ!その女連れて逃げるぞ!」


「え?あ、うん!」


羽竜に言われ、ソニヤはフードの少女の手を取ると、


「行こう!」


声をかけた。

フードの少女はコクリと頷き、羽竜とソニヤに連れられ走った。


「クダイ様!」


部下達がクダイを起こす。

逃げて行く羽竜達を追おうとする部下達に、


「行くな!」


クダイはそう言った。


「し、しかしクダイ様!あの少女を追わなければ!」


「追っても返り討ちに合うだけだ」


任務を達成出来なくなる焦りが部下達にはある。が、クダイは敢えて逃がしたのだ。そんな理屈は関係ないわけで、


「諦めるんだ。彼には勝てない」


クダイがそう言い切ると、意見する者は居なかった。


「クダイ様のお知り合いのようですが………」


「君達が知らないほど昔に、僕に運命への抗い方を教えてくれた人さ。言わば恩人だ」


どう見てもクダイより若い羽竜との昔など、たかが知れているのだろうが、それ以上に含みのあるクダイの言葉を、因果の無い部下達が理解するのには無理があった。


「一体、彼は何者なんです?」


「羽竜かい?彼は………」


この一言に込める想いは、単純ではなかった。

再会の喜び。

言えないでいた感謝。

強さへの尊敬。

そして、これから始まる出来事への期待。

それらを込めてクダイは言った。


「不死鳥………フェニックスだ」


右手に握る黄金の剣ジャスティスソードが、クダイに呼応するように闇夜に輝いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ