お客さん、そのメニュー表の下のところ、読んでいただいてもいいですか?
「はい! 塩ラーメン1つ! チャーハン1つ!」
店はいつも通り、常連が集う。いつも通りの景色だ。
だが、今日は違った。目の前のカウンター。新顔がいる。
学生か、黒いパーカーにジーンズ、リュックは教科書で重そうだ。近所の大学の学生かもな。
「ヒロト店長! 塩ラーメン上がり!」
「はいよ! 塩ラーメンのお客様!」
大学生が手を上げる。外は地球温暖化とはいえ、空っ風が吹いてくる季節だ。
温かいラーメンは沁みるだろう。うちのは旨いぞ?
「あの~」
大学生がまた手を挙げた。
「はい、何でしょう」
「胡椒って、ありますか?」
ついに、来たか。
「胡椒ね。じゃあお客さん。これ持ってそのメニュー表の下のところ、読んでいただけますか?」
大学生は戸惑っている。そりゃそうだ。僕もそうだった。
何でいきなり魔法ステッキ渡されて呪文なんて唱えにゃならんのだ。
あのせいで、僕の人生は大きく進路を変えた。
さぁ。大学生君。君はどうかな?
ピペリン♪ シャビシン♪ ピペラニン♪
ラーメンラーメン美味しくなぁーれ♬
周囲が眩い光に包まれた。
大学生君はパーカーの上からフリフリピンクのドレスを身に纏い、ステッキを高らかに掲げて静止している。
ついに、後継者が現れた。
「おめでとう。君は選ばれたんだ」
「いや、無理っす。これから授業あるし、なんすかこれ」
カイジュウ出現!! カイジュウ出現!!
「今度は若いなぁ」
「なんだこのぬいぐる……」
有無を言わさずタイショウさんは大学生を現場に運んだ。
「……店長。お別れですね」
「店長のラーメン、食えなくなるの寂しいな……」
「あぁ、皆さん。お世話になりました。今までありがとうございました。
……僕は今日で、ラーメン屋を卒業します!」
僕は頭のタオルを脱ぎ、菜箸と愛用のお玉をカウンターに置いた。
僕はやっと、一おっさんに戻れた。




