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ウソでしょ?

 周囲は拍手喝采だった。店員、店長、利用客。全員がスタンディングオベーションだった。


「おめでとう」

「初任務おめでとう」

「おめでとう」


 にこやかなおっさんたちからの賛美は嬉しくない。どうしてこの場に女性が一人もいないのか。全員むさい男しかいないのか。


「まぁまぁ。合格点なんじゃねぇの?」


 厨房からタイショウさんが腕組みをしながら浮いて出てきた。


「合格って何ですか? てか、ドレスは脱げましたし、街も元通りになったのに! これ、スーツ!! 僕のスーツの左袖を返してください!!」

「あ、わりぃ。どっかに投げてきたわ。たぶん、あそこに埃まみれの片袖だけ落ちてるわ」

「なんで元通りになんないんですか!」


 僕は立ち上がり地団駄を踏む。


「それは俺がやったからだ。カイジュウにやられた破壊崩壊はもとに戻るが、俺は別だからな」

「じゃあ弁償してください」

「別にもういらなくなるぞ」

「は?」

「スーツなんていらなくなるぞ。お前はここに就職するんだからな」


 開いた口が(ふさ)がらない僕に向かい、一同がヘッドバンキングで盛大に頷く。


「は? いや、僕は営業してて……」

「退職願出してきたから。退職代行使って」

「退職代行はそうやって使うもんじゃねぇんだよ! 僕の会社はホワイト寄りのグレーなのに!!」



 しばらく頭を抱えていると周囲が静かになった。

 どうやら客たちが退店したらしい。顔を上げると店内にはそもそも店長とタイショウさんしか残っていなかった。


「てか、あのミルクティー。未だにわかりません。あれなんですか」

「おぅ説明してなかったな。あれは『モッタイナイオバケ』だ」

「『モッタイナイオバケ』?」


 すると今まで言葉を発しなかったいかつい店長が進み出て開口した。


「世の中にはどこぞの店で映えるスイーツが売ってるだの、キラカードを集めるためにウエハースを大量に買うだの、視聴者数を稼ぐために大食いをするだの……。食材に対して不遜なことが多いと思わないかヒロトくん」

「どうして僕の名前を」

「俺が教えた」

「タイショウさん……」

「まぁ聞け。食材の話だが、その大量に購入したものを全部食べるならいいじゃないか。太っても運動すればいいし、どうにかして友達をシェアでもして消費すればいい。ところがどうだ。世の中の馬鹿どもは写真を撮り終えればすぐ捨てる、物が手に入れば他は処分、咀嚼した後に吐き出しそこをカット。そんなことをしていれば、出るよな? モッタイナイオバケ」


 店長は愛しそうに店奥の冷蔵庫を見つめる。この店長は自分の扱う食材や料理にちゃんと愛情がある人なんだろうと思う。


「確かに、ただでさえ日本のフードロスは数秒に1個、コンビニのおにぎりが捨てられているのと同じ、でしたっけ? 確かにもったいないですが。それとさっきの出来事と、関係あるんですか?」

「大ありじゃないか! そうして無念を募らせた食材たちには魂が宿るんだ。日本は八百万の神々がいるんだぞ? ちゃんと宿るんだ。

 今はまだ力が弱く、現実世界に及ぼす影響は微々たるものだ。せいぜい俺たちが気づくくらい」

「でも、テレビのニュースでやってましたよね、カイジュウが出たって……」

「ここのテレビは特殊だからな。モッタイナイオバケの出現情報が逐一出るようになっている」

「あのヘリコプターは?」

「うちの調査団だ」


 このラーメン屋、一体何者なんだ。僕はひょっとして、とんでもないところに足を踏み入れてしまったのではないか。うっ、昼間に食べたラーメンで胃もたれする気がする。


「話を戻そう。そう、俺たちは()()()()()()、あの現象に。そして、俺たちはこの魔法を使えば変身し、モッタイナイオバケを鎮めることができるんだ! そして、日本のフードロスの問題提示を行い、日本社会を変えていく!」


 店長は目をキラキラと輝かせ、僕が先ほどまで握っていたステッキをうっとりと眺める。


 ん?


「店長さん」

「なに?」

()()()って言いました?」

「言ったね」

「え、店長さんもドレス着るんですか?」

「うん。でも、君が来たから俺は引退だ」


 店長は名残惜しそうにステッキを僕の前に横にして置く。

 やばい、本当にやばい。


「今から逃げようとしても無駄だぞ。ステッキの権利は譲渡済みだ」


 タイショウさんがニコリと笑う。


「お前にはこれからのモッタイナイオバケを浄化し、日本のフードロスに向き合って発信していってもらう。『モッタイナイ』を今こそ、その意識の根源たる日本人の心に問い直していくんだ!」



 母さん、青森は田舎だから都会に出て働くんだって言ってごめん。

 今僕は、おっさんに囲まれているのに、スカートを履いて、御目汚しのナリで日本を救おうとしています。

 リンゴの摘果でも長芋の収穫でもなんでもやる。すごく青森に帰りたい。

 でも、このラーメン屋のおっさんたちは、僕を帰してはくれないだろう。

 もう、店の名前入りのTシャツとエプロン、貰っちゃった……。

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