まじで言ってます?
……僕の目の前には、巨大なタピオカミルクティーが屹立していた。
いや、正確には持ち帰り用のプラスチックカップに入ったタピオカミルクティーだ。よくあるマペットの、太い紐で先端が結ばれたような手足が付いており、その足でそれは自立していた。
微動だにしないタピオカミルクティーの頭上では何台ものヘリコプターが飛びまわり、警戒やら報道やらをしているように見える。
「そういえばお前。名前は?」
腕組みをしたままタイショウが僕に問いかける。
「今井……と申します」
「下の名は?」
「ヒロト……です」
タイショウの小さなお口が限界まで引き延ばされる。笑っているみたいだ。
「OK! じゃあ、ヒロト。コレをぶっ倒してくれ」
マジで言ってます?正気?てか、ここは現実の世界?
「すみません。やっぱり僕に精神科を受診させてください。やっぱり心の方に問題があるみたいで……」
「安心しろよヒロト。これが現実だ。お前はたまたま入ったラーメン屋で身に付けた不思議な力でカイジュウを倒すヒーローなんだよ。いや、……ヒロインか……!」
僕らの噛み合わない会話はカイジュウの回し蹴りで中断した。
僕はとっさに後ろにジャンプした。
気づけば遥か遠く、50mくらい後ろの3階建ての建物の屋上に降り立っていた。
さっきまでいた場所の周囲10mくらいの建物、電柱、ガードレールの諸々は綺麗に吹き飛んでいた。
タイショウがふよふよと近くに寄って来る。
「わかったかヒロイン? これは現実だ。さぁ、あの飲み残し、さっさと倒してくれ」
僕は訳が分からなかったが、タピオカミルクティーに蹴られそうになり、超人的な跳躍で避けたのは紛れもない事実だ。
僕は覚悟を決めざるを得なかった。
「タイショウ……君? さん? あれってそもそも何ですか?」
「話せば長いからな。対処法だけ手短に言うわ。お前のスカートのそこ、ほら……。あー!! バカバカ! スカートめくる奴があるかよ! そのポシェットだよ。手突っ込め」
言われるがまま手を突っ込むと、何か硬いもんが触れた。
長い柄の端に返しが付いている。僕はそれを引き上げる。
ポシェットから姿を現したのは、お玉だった。
「なんでお玉?」
「俺たちゃラーメン屋だからだよ。さ、ミルクティーに浮いてるアクを掬いに行くぞ。それで何もかも元通りだ」
碌に使い方も教えてくれないまま、タイショウさんは僕の手を引き上に引き上げた。僕の身体はタイショウさんに追随して上に飛び上がり、タピオカミルクティー容器の縁と同じくらいの高さで静止した。
「まずはあの蓋を外そう。あれは完璧力業だ。頑張れよ。で、上の方に浮いてるタピオカと氷が邪魔だからな、それを排除する。OK?」
「ま、まぁ……言われたことは理解できるのでOK……?」
言い終わるやいなや、タイショウさんは僕のスーツの袖を掴み、自身を中心に円を描き出した。まるで砲丸投げだ。
ああ、これ。投げられるんだ。
「いってこーい!!」
タイショウさんは僕を正確にタピオカミルクティーの方に飛ばした。




