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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第一章 長男入学編

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お父様は画策する

ウチの息子はおかしい。



まずその能力がおかしい。


昨日の朝、仕事に行く前にちょっと手解きした軍事身体強化魔法をその日の内に取得した。


異常である。


確かに、あれの制御はコツを掴めば比較的簡単に出来るようになる。


しかし、コツを掴むまでは苦労する。

感覚的には自転車みたいなものだ。


自転車は慣れない初心者の内だと、スピードを出す方が車体は安定する。


しかし、いきなり初心者が全力で漕ぐのは難しいだろう。


あの魔法も同じで、最初の内は細かな制御は捨て全力でぶん回す事に意識を置くのがコツなのだが、いきなり全開で魔力を回転させるのは難しいものだ。


理屈だけ分かってても、実践出来るようになるには覚えの早い者でも何日も練習する必要があるのだが……。


それを半日ちょっと練習しただけで出来るようになるとはこれ如何に?



―――自覚はあるのだが、私は少し親馬鹿の傾向がある。


レオナルドの優秀さを教育係から聞くとウチの子は凄いなーなんて感想で終わっていた。



しかし、改めて考えれば、6歳の子どもが億単位の四則計算を、しかもウチの領地の過去の税収表を元にした複雑な計算が出来るのはちょっとおかしいと思う。


少しでも私の仕事を覚えたいと言って頑張ったらしい。


あの時は何て健気な子なんだと人知れず内心で小躍りしたが、よくよく考えれば小学一年生が大企業の出納帳を理解する様なものだ。



―――ウチの子はもしかして凄い天才なのではないだろうか? もしくは前世持ち?


いや、前世持ちの線は薄いか……


なんせ産まれてすぐ私が知っている全ての言語で、お前が前世持ちなのは知っているぞ、とレオナルドに話しかけ続けたからな。


そんな私に対して当時のレオナルドはキャッキャと笑い続けていた。


……あれは実に可愛かった。



コホン。まぁ、レオナルドが優秀なのは悪いことではないのだか、問題は今私の目の前で繰り広げられている光景だ。



「レ、レオナルド様! もう新しいフォークをお使い下さい。」


「何を言うユーリア。まだ少し歪んだだけだ。」


「もう! レオナルド様にそんな食器を使わせる訳には行きません!」


「む。ユーリアがそう言うなら仕方ないな……。」



なんだこの甘酸っぱい感じ!?

朝から胸焼けするわっ!


レオナルドは軍事身体強化魔法、通称『赤眼』を習得したが、流石にその出力制御はまだまだ不安定だ。


その訓練として日常生活でも赤眼状態を維持するように言いつけた。


旧来の身体強化魔法と比べ、赤眼は比較にならないレベルで燃費が良い。


慣れればずっとその状態を維持出来るのだが、今はその出力が高過ぎて触れる物を全て壊してしまう。


先程からも食器(カトラリー)をどれだけ握り潰したか分からない。


そんなレオナルドを先程から甲斐甲斐しくサポートしているのが彼女、ユーリア・セーデルホルム嬢だ。



「はい。レオナルド様。 新しいフォークです。これをお使い下さい!」


「すまない、ユーリア。手渡しではなくてそこに置いてくれないか? 」


「え、あ、すみません! 不敬でしたか!? 」


「違う。 まだ出力調整に不慣れだから、君の手を傷付けてしまうかもしれないからな……。」


「レオナルド様……。」



君達、付き合う直前のカップル?


何でパパは朝から息子がイチャコラしている所を見せられているの?


いや、確かにまだレオナルドがセーデルホルム嬢に謝罪していない様子だったから昨日は気を利かせたよ?


あの子は今は使用人をしているとは言え、正式に雇っている訳ではなく単なる行儀見習い。

立派な貴族の令嬢なのだ。


そんな相手に謝罪もないままなのは外聞も悪いし、レオナルドの教育上もよろしくない。


しかし、何でいきなりこんなに仲良くなってるの?


パパには最近の子の情緒が分からない。


普通、人に濡れ衣を着せやがって!あのぽっちゃりがっ!今更謝られても許せるかっ!となるもんじゃない?


何で彼女はちょっと顔を赤らめて嬉しそうにレオナルドの世話をしているの?


セーデルホルム嬢はデブ専のドMなの?



……まぁこの件はいい。

喫緊の問題は別にある。



そう。レオナルドが強くなりすぎてちゃんとした決闘にならないんじゃね?問題だ。



この世界は私の前世でプレイしたゲームの世界である可能性が高い。


しかし、どう頑張って思い出しても軍事身体強化魔法『赤眼』なんて存在しないのだ。


当然、『魔纏状態』や『臨界魔力』なんていう設定もない。



これはもう確信しているレベルで間違いないと思うのだが、私が転生して36年。


知らず知らずのうちに原作ゲームの展開をぶっ潰してしまったのではないだろうか?


そもそもゲームではレオナルドは出ているが、その親である私は出ていなかったしな。


いわゆるモブキャラ転生によるゲーム展開の改変を成し遂げてしまったのではないかと思う。



じゃあもう原作崩壊してるんだし、このままレオナルドがゲーム主人公をやっつけても良いじゃん!と思わないでもないのだが……。


その場合の無視出来ない問題点は2つ。


1つ目は先日レオナルドに伝えた、この決闘を魔力持ちの平民と貴族の軋轢をなくすための布石に出来ない。


2つ目、これは誰にも伝えられない問題なのだが、この世界のストーリー的な問題だ。



ゲームのストーリーは単純だ。


平民の主人公が周りの皆に認められ、勇者の剣を手に入れて魔王を倒す。


手垢がついたどころか童話レベルの単純なストーリーなのだが……。



そう。魔王がいるんだよ、この世界。


しかも勇者の剣なんて主人公専用武器も存在している。


勇者の剣以外で魔王を倒せる可能性も勿論あるだろう。 しかし、そうじゃなかったら?


当然、私は国家経営者の一員としてそんな危ない橋を渡る気はない。



なので、本人の意思は兎も角として平民の彼にはある程度強くなって貰わなければならない。


そして勿論、先日レオナルドに伝えた様に魔力持ちの平民と貴族の軋轢を生み出さないようにもしなければならない。



私の大戦時の経験則から言っても、赤眼状態=上位魔族くらいの実力だ。


この辺り、ゲームでも何か設定があったのかも知れないが、まぁ今はそんな事どうでも良い。



上位魔族相当の息子VS初期レベル主人公


これをどうやって白熱する決闘に仕立て上げるかが問題なのだ。


①ハンサムな主人公が突如覚醒する。

②仲間が助けてくれる。

③普通に主人公が負ける。現実は非情である。



考えられるのは3つくらいか?


決闘なので②は論外。

①を期待するのは流石に夢見がち過ぎる。


幸い、入学式は4月。

今はまだ2月前半なのでまだ2ヶ月近くある。

(ちなみに暦は前世と同じだ。分かりやすくて良いね!)


つまり、動くなら今しかない、か……。



「レオナルド。少し話したいことがある。」


「お、俺にですか!?」



狼狽えるレオナルドを尻目に、セーデルホルム嬢を初めとする使用人達は空気を察して「壊れた食器を片付けて参ります」と退出する。


私は使用人達が退出したのを見計らって話を切り出した。



「例の平民の子に会おうと思う。 そして、お前と同じく『赤眼』を教えるつもりだ。」


「お、お父様がアイツにですか!?」


余程驚いたのだろう。手に持っていた食器を握り潰すレオナルド。


「あぁ。 例の決闘の件なのだが、どう考えても『赤眼』までマスターしたお前とその平民の子では勝負にならない。……わかるな?」


「……はい。 実際に『赤眼』を―――、正確に言えば『臨界魔力』を使えるようになって思いました。 今まで俺が魔法だと思っていたのは児戯に過ぎない。あらゆる魔法技術が別の次元に昇華した様に思います。」



その通りだ。


『臨界魔力』を使えるものと、そうでない者の間には隔絶した差が出来る。


それこそが、彼我の兵力差10倍以上の差で始まったあの地獄のような大戦で、我が国が勝利出来た要因の一つだ。



「し、しかし! それなら俺が手を抜けば!」


「分かっているだろう? 今回の決闘は単なる決闘ではない。言わば魔力を持った平民と言う新たな人種のプレゼンテーションなのだ。 」



……表向きの理由ではあるが、実際に頭の痛い問題ではあるのだ。


前世と違い、貴族と平民には魔力の有無という明確な区別が存在する。いや、存在した。


しかし、その壁は先の大戦で脆くも崩れ去り、その変化はもう止めようがない。


その変化を出来るだけスムーズにする為の方策の1つがレオナルドと彼の決闘なのだ。


やるからには凡戦を演じられても意味がない。


何だか平民にも凄い奴がいるんだと若い世代の貴族達にアピールする必要があるのだ。



「当主命令だ。 今から例の平民の子を連れて来い。 出来るだけ丁寧にな。彼には協力者になってもらう。」



Q:息子が平民の子に決闘でボコられる運命なのですがどうすれば良いですか?


A:その平民の子を抱き込んで全力で八百長をしましょう。


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