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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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悪役次男の日常

『新たな伝説! 黒雷と白炎の勇者!』


『戦場に咲く聖華、2人の聖女!』


『聖女についてコメントを控えるフィンスター=ヘレオール公爵。その真偽はいかに!?』


『貫禄! 公爵家騎士団の実力!』


『次代の英雄の素顔にせまる! 黒雷の獅子は

パフェがお好き?』



フィンスター=ヘレオール領の屋敷の一角。


エドワードは自室で王国中の新聞に目を通す。

彼の朝一番のルーティンである。



「……そうか。お兄様はパフェがお好きなのか……。」



紅茶のカップを1口飲んで呟く。


ロベルトが好きなアールグレイに似た香りの茶葉である。


あまり高級な茶葉ではないのだが、落ち着く良い香りが彼も気に入っていた。



―――確かに家にいる時もよく甘い物を召し上がられていたな。


あれほど普段から訓練をされているのだ。身体がエネルギーを求めているのだろう。



そんな事を考えながら、手帳に効率の良い栄養補給食と王都と公爵領付近の甘味処を調べるとメモを書き込む。


別に恩着せがましくこの情報をレオナルドに伝える気はないが、ふとした瞬間に伝える事が出来たのならきっと兄は喜んでくれる。


中々恥ずかしくて話す事は出来ないが、たまに上手く話が出来て家族から褒められる事がエドワードは大好きだった。



『フィンスター=ヘレオール公爵騎士団の蛮行! あわや王都陥落の危機!』



公爵家を貶めるような記事に眉を顰め、新聞を引き裂きたくなる思いをグッと呑み込む。



―――落ち着け。落ち着くんだエドワード。

お父様も仰っていただろう。物事は多面的に見るべきなのだ。



王国では発言の自由が認められている。


それは彼の父であるロベルトが大戦後にそれを認めた事に端を発する。


曰く、1つの物事に対して良い面も悪い面があるのが当たり前だ。


片方にだけ発言を認めるのは要らぬ軋轢を生むだけの愚行なのだと。



そうだ。お父様も仰っている。反対意見を聞く事こそ為政者にとっては大事な仕事なのだ。



『成金公爵様は金貨をばら撒けば自分のミスはなかった事に出来ると思っている節が―――』



エドワードは無言でぐしゃぐしゃと新聞を握り潰し、ビリビリに破いて何度も踏みつける。



「な、なんて勝手な事をっ! 愚民共めっ!

そもそもテロリスト共を王都に入れたのは公爵騎士団ではなく王都守護騎士団(ガーディアンナイツ)の無能共だ!

その尻拭いの為にお父様達が命懸けで戦ったんだぞ?! お、お兄様だって……!」



はぁはぁと息を切らせ、ぐしゃぐしゃにした

新聞を見つめる。


あぁ、クソ。なんて堪え性のない……。


深いため息をついてまだ冷めやらぬ怒りを吐き出し、細切れにした新聞記事を無言で回収してごみ箱に捨てる。


こんな痴態を晒した証拠を使用人達に知られるのは彼のプライドが許さなかった。



「くそっ。お父様とお母様の優しさに付け込む無能共がこの国には多過ぎるんだ……。」


未だに冷めやらぬ怒りを口にしながら革張りの椅子に体重を預ける。



―――もし自分がフィンスター=ヘレオール家を継げたならあんな愚民共、まとめて処分してやるのに! いっそ平民なんて―――!



危険な妄想を遊ばせつつも、それは有り得ないと再びため息をつく。


なんせ彼にとって1番尊敬している両親が平民や他種族を大事にしているのだ。


両親の大切にしている物を自分が汚すような事は出来ない。



それに貴族ではないからと言って無能ばかりでもない。優秀な者も多くいる。


それはお父様が大戦時に証明してみせた事だ。



公爵家騎士団などその最たる例だ。


今でこそ全員が貴族や準貴族の位を得ているが、元々は平民や孤児など出自の怪しい者の集まりだったのだ。


尊敬すべき相手は身分に関わらず確かにいる。


それはエドワードにとって大事にしている両親からの教えだった。



「―――はぁ。とりあえずこの新聞はもう買わん。」



そう言いながら手帳にある非購買リストに

破いた新聞社の名前を書き加える。



冷静沈着に。家族の為の役割を遂行する。


それがエドワードが己に課した役割だ。



僕はお父様は元より、お兄様と比べても決して優秀なんかじゃない。


ドミニクのように天賦の……いや、天武の才もない。


ならば、家の為、家族の為に求められる役割を

確実に熟さねば……!




「―――何をやっているんだろ僕は……。」



そう言いながらエドワードは部屋の窓から外を見る。


何日も使用人すら部屋に入れず引きこもっていた窓の縁には薄らと埃が積もっている。


ここ最近はろくに部屋の外にも出ずに日がな1日新聞や本を読む毎日だ。


最低限の義務として建国祭には参加をしたり、家族の集まりには顔を出してはいるものの、それ以外はこの部屋に引きこもっている。




―――お兄様が荒れてしまった時、お兄様の

代わりになるのは自分だと思った。


お父様の跡を継げるのだと期待していなかったと言えば嘘になる。



なんて浅はかな考えだ。



確かに、あの時のお兄様は酷かった。

公爵家嫡男としてあるまじき醜態だった。


しかし、僕はどうだ?


そんなお兄様を信頼する事もサポートする事もせずに当主の座が転がり込んで来ると卑しく期待したのだ。


当主の座を狙うのであれば、己を鍛え相応しい人間にならねばならない。



なのに、僕は何もしなかった。



己を高める事もせず、ただ良い子であろうとしただけ。


なんて無様、なんて無能なんだ……。



それに気付いた時、何だか兄や家族の顔を真っ直ぐに見ることが出来なくなってしまった。


そこからズルズルと部屋に引きこもる毎日が

始まった。



「あー、このまま消えてしまいたい。」


なんなら自殺してしまいたいが、そんな事をすればきっとお優しいお父様やお母様、そして兄弟達が悲しむ。


過去現在未来の僕という存在が消えて欲しい。

僕という存在がいない世界になって欲しい。


そうすれば皆に迷惑をかけずに済むのに……。




「―――ふむ。それは困るな。

数年もすれば現在のフィンスター=ヘレオール公爵家は解体せねばならん。


そうなるとエドワード。お前に消えられると

計画が狂うのだが?」



バッと後ろを見ると、そこにはロベルトが

ベッドに腰掛けていた。



「―――おと、お父様!?」


「いきなり押し掛けてすまんな。

ノックはしたが返事がなかったので勝手に入らせてもらった。


これ、お土産のマドレーヌだ。」


まだ少し暖かいマドレーヌを手渡され、

混乱するエドワード。



「え、あ、いえ。ありがとうございます?」


「エドワード。今日これから時間はあるか?」


「―――へぁ、えっと、はい。」



久しぶりに話すせいか、声が上擦る。


突然のロベルトの申し出にエドワードの思考は更に混迷を極める。



「少し私の仕事を手伝ってくれ。」


「ふぁ!?」

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