お父様の悩み
「やっぱりさぁ、さっさとあのテロリスト共の本拠地に攻め込むべきじゃない?」
建国祭の動乱から早2ヶ月が過ぎた。
秋も深まってきた9月の終わり。
公爵領の屋敷の一角にあるアトリエでグダグダとサボっていると部屋の主が過激な発言をぶち込んできた。
デザイン画を描くのに邪魔な長い金髪を後ろでまとめ、今はゆっくり紅茶を飲む少女。
シャーロット・ホプキンス。
本名はシャーロット・ソフィア・フォン・スチュアート。
我が家お抱えのデザイナーである。
彼女は頑なに認めないが、歴とした北部五大
侯爵家の一角、スチュアート家のご令嬢だ。
リロイの姪っ子であり、彼女の母親が貴族としても生きていける様に色々と手を回していたので、法律上はちゃんと貴族だから諦めろ。
……現代風に言うなら戸籍の二重登録だけど。
リロイの身内だし、スチュアート領内の裁量の範囲なのであまり怒る気はないが、王国全体の戸籍管理がややこしくなるから出来ればホントやめて欲しい。
彼女は私と同じく前世持ち。
性格的にも気軽に話せるタイプなので、月イチくらいでこうやってグダグダと話をしている。
私の数いる悪友の一人だ。
「……シャル君。気軽に言うがね? 攻め込む為に兵を挙げるのも大変なんだよ?」
「あら、最強公爵様が弱気な発言ですこと。」
「実際そんな意見も多いんだがな……。
この前ベスも会議で言ってたし。」
「……ああ、うん。奥様はそうよね……。」
疲れた顔でシャル君が頷く。
別に攻め込むのがダメな訳ではない。
ダメではないのだが、攻め込むとなるとそれなりの兵力を抽出し部隊を結成する必要がある。
つまり、人手が割かれるのである。
春と夏の事件でこれだけひょいひょい王都に
入り込まれている残念な現状だ。
守備に当てている兵力を減らせばその隙をついて逆に攻め込まれる可能性も高いだろう。
と言うか、私ならそうする。
「専門用語で言うセンリャクってやつね! 」
「おっ、そうだな。……後は原作をどこまで
信用していいか悩んでるんだよなぁ。」
「どこかの誰かが原作めちゃくちゃにしたしね……。 でも本拠地は知ってるんでしょ?
取り敢えず行ってみるじゃダメなの?」
「オディマの本拠地は魔族達の国、デモンズランド共和国だ。他国で気軽に軍事行動なんかしてみろ。また戦争だ。」
しかも、デモンズランド共和国とは終戦条約で
お互いの国で自国の軍隊を展開しないと条約を締結しているしな。
私が書き込んだ条約だから間違いない。
軍事行動をするなら戦争覚悟で条約を破るか、特例を認めさせるしかないのだ。
「えー、じゃあ打つ手なし?」
「一応、秘密裏に複数の諜報部隊を送り込んだり、デモンズランド共和国と取引している商人達から情報を吸い上げたりはしている。
ゴーウェン達、H隊も先月くらいからずっと出張してるしな。」
「あ、やる事はやってるのね。えっと、諜報戦ってやつね!」
「そういうことだ。今は原作知識の裏取りと証拠集め。つまり地味な情報収集の段階さ。
……ちなみに、何度も聞くようで申し訳ないが、C・Cでもオディマは出てきたんだよな?」
今日シャル君のアトリエに来た理由の3分の1、
原作ゲームの流れを確認する。
「そうよ。間違いなく魔族達のテロリスト集団
オディマは出て来たし、その本拠地は魔族の国
デモンズランド共和国だったわ。
マップを覚えてないから分かんないけど、場所は大きな遺跡だったわね。何か魔王の封印がどうとかこうとかあったはず……?
ホラ、私基本的にキャラ萌えの人だから世界観とかその辺はちゃんと覚えてなくてさ。
あんまり力になれなくてごめんね。
あ、でもでもテロリスト達の本拠地討伐って、王家ルートや騎士団ルート、教会ルートでは
出て来なくて《《フィンスター家ルート》》で出てくるのよ!」
ゴフッ! と紅茶を吹き出す私。
「うわっ汚っ!?」
「す、すまん。いや、待て。今なんと言った?
フィンスター家ルート!?」
「そうよ? あれ? 言わなかったっけ?」
「聞いてねぇよ。……え、つまり何か?
君はレオナルドやエドワードやドミニクを攻略した事があるのか!?」
思わず口調が荒くなるのは許して欲しい。
それだけ私も驚きだったのだ。
「まぁね。でも、ドミニク様はヘレオール家の忘れ形見だから騎士団ルートよ。
滅ぼされた一族再興を目指したドミニク様の成り上がり物語って感じね。ちなみにルート分岐に失敗すると闇落ちしたドミニク様が国を滅ぼすから時限爆弾解体ルートとか言われてるわ。
フィンスター家ルートはエドきゅんね。
でも、不思議なことにレオ様は出て来ないのよねぇ。それにアランちゃんも出て来ないわよ。
まぁアランちゃんっぽいのは教会ルートで出てくるけど。
順序的には最初は王家ルートをクリアして、次に騎士団ルート、教会ルート。 そして最後に今まで敵対していたフィンスター家ルートが解禁される仕様になってるのよ。そんで各ルートに攻略対象がいるって感じね!」
あ、やっぱり乙女ゲーバージョンでもドミニクはヘレオール家なんだ……。
「レオ様とか出て来たら絶対推せるのにっ!
あのクールな見た目と態度! でも中身は一途な努力家とかめっちゃ好きなんですけど!?
しかもあの見た目に反して女慣れしてない初心な反応も可愛いし! そして、アランちゃんとの絡み!いやぁ、やっぱり思春期の男の子からしか摂取出来ない栄養素ってあるのよ!
レオ様マジ好みどストライクっす―――。」
「ばっ……や、やめろ!」
慌ててシャル君の口を塞いでキョロキョロと辺りを見渡す。
レオナルド達は今は王都にいる。
有り得る訳ないのだが、気付けば後ろに立っているかもしれないと思わせるだけの凄みがあの子にはある。
誰かって?
ウチの義娘だよ。
「……前から気になってたんだけど、ユーリア様とはどんな関係なの? 貴方がそこまで頭が上がらないのって奥様以外だとあの子だけじゃない?」
「……原作知識を信じ切って殺そうとしたんだが、蓋を開けてみたらただのレオナルドが大好きなヤンデレ吸血鬼だったんだ。」
「ごめん。何言ってるかさっぱり分かんない……。」
安心してくれ。
私も良く分からない。
「まぁそれはともかく、あれだな。
乙女ゲームの方ではレオナルドが出て来ないのは多分太ってたからじゃないか……?
元々のキャラビジュアルは乙女ゲーの攻略対象ではないだろう。」
「え!? レオ様太ってたの!? ウッソ!!
ちょっと見たいんですけど!? ねぇ写メは!?
写メはないの!?」
ある訳ないだろ。
それに写メとか言うと歳がバレるぞ……。
「―――ともあれ、原作知識を過信し過ぎると手痛いしっぺ返しを食らうから君も気を付けたまえ。ここは現実。ちょっとした事で事態が思わぬ方向に転がってしまう……。」
「……あー。もしかして私に会いに来たのってエドきゅん関連?」
むぐっ! ゴホ! ゴホ!
お茶請けのマドレーヌを喉に詰まらせる私。
「貴方って表情が硬いだけで、行動は案外分かりやすいわよね。最近ジュリアの言ってた事が何となく分かって来たわ。」
少し呆れながら笑うシャル君。
実に失礼な奴だ……。
「うるさいな……。 あー、B・Bではエドワードは全く出て来なくてね。もしかしたら何か分かるかもと思って話を聞きに来たのは否定できないな……。」
そう。私がここに来た理由の3分の2。
正直、藁にもすがる思いでここに来たのだ。
「まぁ、うん。そうよね……。親の貴方からすると心配にもなるわよね……。」
彼女にしては珍しい、困った顔でアハハと乾いた笑いを零す。
そう。目下一番の私の悩み。
次男エドワードの引きこもりだ。




