黒雷の勇者と二人の聖女
「おぉおおぉ! 『黒雷刃風』!!」
レオナルドが放つ黒雷を纏う斬撃が水人形の群れを吹き飛ばす。
もう何体倒したのかも分からない。
100を超えた辺りで数えるのをやめた。
赤眼は全開。
魔力は常に垂れ流し。
1秒たりとも足を止めずに動き回る。
「『黒濁流雷』!!」
黒雷がレオナルドを中心に地面を走る。
酸欠で視界が狭まる。
何度も雷鳴を鳴り響かせているので耳も麻痺してよく聞こえない。
心臓の音だけがやけに頭に響く。
「はぁ!はぁ! 『雷迎黒波』」
前方に向かって壁のように黒雷が降り注ぐ。
―――まだだ。まだ止まるな。
まだ動ける。まだ動け。俺の身体。
敵は眼前。
あの不気味なにやけ面にこの剣を突き立てるまで止まるなっ!
「はぁ! はぁ! はぁ! ―――お、おぉお!!
『爆豪黒雷』!!」
何度目かも分からない大魔法。
無限のように見えた水人形の群れが爆発し、
不意に群れの切れ目が見える。
「は、はははっ! 凄い凄い! 千体もいた僕の
デク達を突破するなんて! 百人斬りで有名なあの『人斬り剣豪』を超えたじゃないか!」
息も絶え絶えなレオナルドを眼前にして楽しそうに嗤うネビロス。
「はぁ、はぁ、ヴァーリは身体強化も含めて、一切魔法を使わずに刀1本だけで100人斬ったんだよ……。 魔法ありならお前程度瞬殺だ。」
酸欠で血の味がする口をゆすぐように唾を吐きながらレオナルドは魔剣を握り直す。
「知ってるよ。何せ僕も斬られた一人さ。
アイツは魔法を便利な道具くらいにしか考えてない野蛮な猿だ。」
自分で話題にしておいて嫌そうな顔で肩をすくめるネビロス。
魔法を至高の技として考えるネビロスにとって魔法を剣術で戦う為の踏み台くらいしか考えていないヴァーリは唾棄すべき存在だ。
「その点で言うと君はまだマシだよ?
面白みのない射出魔法ばかりだが、その技の多彩さには目を見張るものがあるね。」
「……ヴァーリと戦った? 見た目通りの年齢じゃないのか……。それも魔法か?」
「おや? 興味があるかい?
そうだよ。妖魔族は長命種ではあるけどね。
僕は何度か肉体を新調したんだ。」
「そこまで魂と肉体を操るのか……。
単純な属性魔法じゃないな。それがお前の固有魔法という訳か……。」
本当はネビロスと話す気はないが、息を整える為に会話を繋げるレオナルド。
「ははっ!いやいや、ちゃんと属性魔法だよ?
君達人間は魔法を弓の延長程度に考えているが、本当はもっと奥深いものなんだ。」
「……属性の拡大解釈、というヤツか?
穢れを焼く浄化の炎とか、風化させる破滅の風とか……。」
「そうそう! なんだ、知っているんじゃないか!」
「論文でちょっと読んだだけだけどな。
その論文では上手く発動しなくて、可能性はあると思われるなんて結論だったが……。」
「それは多分、詠唱に問題があるね。
短縮詠唱なら触媒によっぽど上位の補助アイテムを用意する必要がある。」
「触媒がないなら?」
「僕の感覚だけど、術式にもよるが最低でも10節以上だね。」
「そいつは長いな……。しかし、いい事を聞いた。長期休暇の自由研究の課題にするよ。」
少しおどけて肩をすくめるレオナルド。
それを聞いて少し面食らった顔をしてからネビロスは笑い出す。
「ははっ、そう言えば君は学生だったね。
そうだ。機会があれば魔族領に行くといい。
あそこでは色々と魔法研究も盛んだ。
……まぁこの場を生き残れたらだけどね。」
「そうだな。お前を倒して行くとするよ。」
会話は終わり。
お互い臨戦態勢に移行する。
「……一応、聞いとく。投降する気は?」
「ないよ。ふふっ。でも安心してくれ。
今ここで君を殺す気はない。魔王様復活の生贄に捧げるまでは楽しく魔法理論の講義をしてやろう。」
「ハッ!ありがたくて涙が出るね。」
二人の戦気が高まる。
ジリジリと小さく動き、間合いを調整する。
その緊張が最高潮になる―――その瞬間。
豪っ!!
煌めく炎、そして輝く霧が付近を包む。
つい敵を眼前にして、後ろを振り返ってしまうレオナルド。
炎を見て親友のアランを連想するが、その炎はアランの曇りのない白い炎ではない。
その輝きは気品すら感じる黄金。
まだどこか弱々しく、しかし神聖な雰囲気を感じる煌めく炎がホールを舞っている。
「……あれは、神聖属性? 神の炎……だと?
それにあの霧は……光属性……!?」
信じられないものを見た様に目を剥いて驚くネビロス。
視線の先には赤と青の美しいドレスを来た二人の少女。
淡い光に包まれたジュリアとシャルがいた。
「はっはー! いくらファンタジー生物でも所詮は菌類! 焼けば滅菌される!当たり前よね?
しかも、エルフの秘伝縫製技術でなんか神聖な力とドワーフの指輪も加わって除菌力アップ! さぁやるのよ! ジュリア! 乾燥椎茸にしておやりなさいっ!」
「カンソウシイタケってなに!?
『|炎よ踊れ! 炎よ廻れ! 輪になり踊れ!《フレイムロンド》』」
ジュリアの力ある言葉で更に黄金の炎が踊る。
ドレスに込められたエルフ達の秘伝。
装備した者に神聖な力を与える特殊縫製『神霊の祝福』が更に輝きを増し、その指に嵌められたドワーフの秘伝、ルーンの指輪が煌めく。
神聖属性を与えられた黄金の炎が、ホールに散布された魔喰菌を徐々に、しかし確実に焼き殺していく。
「こ、このメスガキ共っ!!」
ネビロスの激昂に呼応する様に辺りに満たされた黒水が不気味に蠢く。
しかし―――。
「黒水が……動かない!?」
「あぁら? どうしたのかしら? まさか上手く水を操れないのかしらぁ?」
わざとらしく語尾をのばして煽るシャル。
メスガキ呼ばわりされたなら、メスガキで煽るのが彼女の流儀だ。
「ごめんねぇw 私ってテンプレ乙女ゲーの主人公だからぁ、とぉぜん持ってるのよぉ?
ひ・か・り・ぞ・く・せ・い。
まともに魔法を操れないでしょ? ざぁこ♡」
メスガキ台詞でネビロスを煽りながらも、無詠唱でさらに光属性を纏った霧を生み出し続けるシャル。
同じ水属性の光と闇。
実力だけならネビロスの方が圧倒的に上だ。
しかし、シャルに魔法を展開されるとネビロスの魔法は確実に影響を受ける。
全てはロベルトの入れ知恵だ。
ネビロスの生存を聞いたロベルトはネビロスの原作ゲームの知識から対応策を二人に与えていた。
炎魔法による火炎滅菌と光属性を纏う霧による
ネビロスへのデバフ。
そしてその隙を見逃す黒雷の勇者ではない。
「うぉぉおおおおぉおおっ!!廻れっ!!」
裂帛の叫びと共に頭と胸、そして下腹の三つの丹田を中心に魔力を全開で回転させる。
高速で回転する三つの丹田。
臨界点を超え、レオナルドの周辺の空気が破裂する。
「お、お前、それは―――!?」
煌々と燃える赤い臨界魔力を纏うレオナルド。
赤眼武神。
その発動に魔力の量は必要ない。
必要なのは三つの丹田で臨界点を超えて魔力を回転・融合させられる制御能力。
初めてこれを見た時から、レオナルドはこれが自分にうってつけの奥義だと感じていた。
「まだ安定には程遠いがな。もって180秒……。
お前の首をはねるには充分だっ!!」
その圧倒的身体能力は優に音を超える。
サン!っと呆気ない音と共にネビロスの首が宙を舞う。
ぼとりと首が落ち、見開いたネビロスの目がレオナルドを写した。
「―――接近戦では俺の方に分がある。
お前の言う通りだったな……。」
「……そうだね。でも、僕を殺せるとは言っていないよ?」
ギロリと首だけになったネビロスがレオナルドを睨む。
どろりとネビロスの首が溶け落ち、黒い水溜まりになる。
「ちっ。化け物め。やはりこれくらいじゃあ死なないか……!」
ウネウネと黒い水が寄り集まり、アメーバー状の不定形生物を経て巨大な生物を形作る。
「―――さぁ、最終決戦と行こうか!
黒雷の勇者!そして双聖女よ!」
「くそっ……。やっぱり無理矢理にでもあの馬鹿を連れて来るんだった……。」
毒づくレオナルドの眼前に、黒い巨大な竜となったネビロスが立っていた。




