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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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その頃の長女と親友

ジュリアは今まで本格的な戦闘訓練を受けたことはなかった。


確かに公爵家の、エリザベートの娘として最低限の訓練は確かに受けたことはある。


しかし、特に才能がある訳でもなく、性格的にも向いている訳でもないと早々に訓練は切り上げられた。


リロイのように比べる先がおかしい訳でもなく、正しい意味で並以下の戦闘能力。


今の状況で彼女に出来ることはなかった。



ネビロスが展開した千体の黒人形達を、黒い雷を纏ったレオナルドが蹴散らして行く。


雷鳴と共に振るわれるその魔剣は一太刀で複数の人形を蹴散らし、放たれる黒い雷は辺り一面を焼き尽くす。


ネビロスの人形達も隊伍を組んでレオナルドを攻め立て、時折、ネビロスの黒い水がレオナルドを襲う。


ジュリア程度の小娘に付け入る隙はまるでない。いや、ここに割って入れるのは彼等と同じく英雄の域にいるものだけだろう。



「レオ様やっばぁ……。やっぱり生で見ると全然違うわ。何か黒の勇者って感じ?

黒い雷とかダークヒーローみっていうか厨二心をくすぐるわ。」


今ひとつ緊張感のない親友を尻目に、ジュリアは思考を加速させる。



―――お兄様とあの魔族。

どっちが勝つかなんて私には分からない……。


手助けしたいけど、私なんか足手まといにしかならない。


なら私がすべき事は―――。



「シャル! 私とシャルでもっと防壁を張ろう。 せめてお兄様が私達に気を使わずに戦えるようにしなきゃ!」


「え、ああ、そうね! ふふん。私にまっかせなさい!こんな事もあろうかと!こんな事もあろうかと!ちゃあんと仕込んどいたわよ!

ふふっ。大事な事だから2回言ってやったわ!

1度言ってみたかったセリフなのよねぇ。」


どこまで本気で状況を理解しているのか分からないシャルがニヤリと笑う。


人の兄が死に物狂いで戦っているのに何をふざけているのかと思ったが、まぁシャルはいつもこんなものだと思い直し魔力を練る。



ズズっと今までとは違う、スムーズな感触で魔力が動く。



「あれ……?」



いつもより魔力の動きが良い……?

それに魔力の量や質もなにか違う気がする?



普段とは明らかに違う魔力の動きに戸惑うジュリア。


「ふふーん。気付いちゃったー?

私や公爵家の人達の服は全部エルフ謹製の特別な素材を使ってるわ。でも、ジュリアのドレスはその中でも別格。かつてエルフの王族しか使うことを許されなかったエルフ達の秘宝。


その名もご存知、輝きの夜天絹(トゥインクル・シルク)


その黒く輝く夜天の絹は着用者を更なる魔導の高みへ誘うだろう! ―――とか何とか婆ちゃん達が言ってたわ!」



ジュリアは何気なく手をかざす。

ゴボゥ!っと音を立てて黄金色の炎が舞う。


「黄金の……炎……?」


明らかに今まで自分が操っていた炎とは別物。


神聖な力すら感じる不思議な炎だ。



「で、でもこの前ウィンドブルムで着たドレスじゃこんな風には……。」


「秘密は縫製よ。エルフの秘伝らしいんだけど、そういう特殊な縫い方があるんだって。

ふふん。ユニーク装備を着けたら専用技が使えるなんてどんなゲームでもあるんだもの、絶対あると思ったわ。この私がファンタジー縫製を学ばない訳ないでしょ?」



相も変わらず今ひとつジュリアには理解出来ない言葉でシャルがドヤ顔をする。



怖々とジュリアが魔力を込めて障壁を張る。


ジュリアの全身が薄らと黄金の光に包まれ、その右手に嵌められた白銀の指輪が光る。


「す、すご……。これなら―――。」


手応えを感じたジュリアが更に力を込める。


ジュリアの意思に呼応する様にエルフのドレスとドワーフの指輪が輝きを増す。



「『|炎よ! 全てを護る壁となれ!《フレイムスフィア》』」



ジュリアの力ある言葉に導かれ、黄金色の炎が宙を舞う。


パキィン!と音を立て、可視化出来るほどの強固な防壁が現れた。



「こ、これ、本当に私がやったの?」


「どお? 褒めてくれてもいいのよ? 」


「―――さっすがシャルっ!」


笑顔でハイタッチする二人。



エルフの秘伝で変質した魔力による障壁。


さらにそこにシャルが渡したドワーフによるルーンを刻まれた指輪の効果が上乗せされる。


それは原作ゲーム内でも上位に入る特別な加護を持ったイベントアイテム。


その効果により神聖な気配を纏った魔力は素人目にも強固な障壁に見えた。



「お、おお……。なんと神聖な魔力……!」

「流石は公爵家の姫君……!」

「う、美しい……!」


魔喰菌の熱にうなされながらも貴族達が感涙する。


太陽と星空を切り取ったような美しいドレスを身にまとい、神聖な魔力を操るジュリアは病に倒れた者達には女神のようにすら見えた。



「何かちょっと怖い……かも。」

「う、うん……。」


狂信的とすら言える視線に引く二人。


しかし、魔喰菌に侵された者たちにそんな機微など認識出来ない。


拝む者まで出てくる始末だ。



「ジュ、ジュリア!」


ジュリアを崇める群衆をかき分け、熱に侵され青い顔をした王子が声をかけて来る。


「ウィリアム王子……。」


先程までのやり取りを思い出し、少し表情が固くなるジュリア。



「ウィリアム王子……ですよね?

失礼ですが、お顔が優れないご様子―――。

今は横になられている方がいいかと。」


それを察したシャルが助け舟を出す。


貴族社会という忖度の塊のような村社会の次期トップとして育てられてきたウィリアム王子。


過不足なくシャルの意図を理解する。



「……分かってる。先程の件は謝罪する。

しかし、少しだけ僕の話を聞いてくれ。


今の状況は魔喰菌が原因だと公爵は言っていたな?」


「え、ええ。確かにお父様はそう仰っておりましたが……。」



「あれは公爵が発見した第一種危険生物。

その名の通り、魔力を喰らって際限なく増える恐るべき細菌だ。先程、レオナルド兄様が結界を破ろうとしていただろう? もし今の状態で結界を破ってしまうと細菌が王都中にばら撒かれるんじゃ―――。」


目を見開いて驚くジュリア。

慌ててロベルトに通信を飛ばす。


(お、お父様!? す、少しよろしいでしょうか!? ウィリアム王子が気になる事を!)


(―――すまんがこっちも少し立て込んでいるんだが……。ウィリアム王子がどうした?)


ロベルトを起点(ホスト)にした魔導通信網。

結界内部でクリアに相互通信を可能にする。


ロベルトの冷静な声を聞き、一旦深呼吸をして心を落ち着かせるジュリア。



(あ、あのね? 王子が結界を破ると細菌がばら撒かれるんじゃないかって……。 この細菌?を発見したのもお父様だって言ってて……。)


(その通りだ。今思うと若かりし日の過ちだ。

……細菌がばら撒かれるというのは同意だな。

その可能性は高いと思う。)


(……もしかして知ってて黙ってた?)


(薄々はな。ただ、考えてもどうしようもない事だ。誰がやるにしろ結界は必ず解除される。

―――王都中に魔喰菌がばら撒かれるのは確定事項だ。そして、残念ながら我々の装備では魔喰菌を駆除出来ん。)



ロベルトが現状使える手駒は自分とレオナルドの2つだけ。


幸か不幸か、細菌による致死率は高くない。


ある程度の対処はしても、ロベルトは細菌兵器への抜本的な解決は切り捨てて考えていた。



(魔喰菌は確かに魔力依存度の高い他種族には危険だが、人間にはそこまで驚異ではない。

ばら撒かれた後でも充分対処は可能だ。)



ジュリアは父の冷酷さを目の当たりにする。


つまり、父は王都にいる他種族は切り捨てたのだ。


それは為政者としての優先順位。

きっとそれは正しいのだろう。



ジュリアの脳裏に、広い屋敷で一人ぼっちで我儘を言って過ごした自分の姿が浮かぶ。



(―――魔喰菌の事を教えて。

どこまで出来るか分かんないけど私がやる。)


(ば、馬鹿を言うな。お前は戦闘訓練なんか受けていないだろう!? 今ですら危険なんだ。

大人しくしておけ!)


(王都の屋敷にはカーミラお婆ちゃん達もいる。この指輪を買ったドワーフさんも。他にもいっぱい。)


(それはそうだが……。彼等にしてもすぐに命に関わるという事も―――。)



(話は聞かせて貰ったわ! こっちの事は私達に任せなさい!)


ジュリアが驚き横を見るとシャルがドヤ顔で仁王立ちしていた。



(シャル君……。主人公気取りであまり勝手なことを言わないでくれ。これは遊びじゃなくて実戦なんだ。)


娘の命が懸かっている父親として、シャルに苦言を伝えるロベルト。


しかし、そんなロベルトをシャルは鼻で笑う。



「はっ! 主人公気取り? ―――当然でしょ!

いつだって私は私の人生の主人公よ!

生まれ変わろうが何しようが変わらないわ!


貴方もそうでしょ? 公爵様。

だから危険な兵器を持ち出してまで戦った。

護りたいモノがあったから。違う?」



大声を張り上げ、シャルは叫ぶ。


通信魔法なので声を出す必要はないのだが、シャルはリロイと同じく思った事を口に出してしまうタイプだった。


(……はぁ。そうだな。散々無茶を押し通してきた私に反対する権利はないな。


勝算はあるんだな? ……いや、あっても危なくなったら逃げろ。それが絶対条件だ。


いいか、よく聞け―――。)



ロベルトの説明を受けた後、ジュリアとシャルがニッと笑い合う。


「―――失敗しても公爵様がお尻を拭いてくれると思うんだけど、私としては親友の父親にそんな事されるのは恥ずかしくて無理だわ。」


「もう! 下品な事言わないでよ……。

私だってそんなの絶対嫌よ。」



どちらともなく拳と拳を打ち合わせた。

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