不器用長男と長女、時々シャーロット
「よし、これなら戦える……!」
会場のクロークを漁り、自分の剣を見つけ出したレオナルドが決意の表情で剣を腰に差す。
使用者の戦う意思を込める事で、全てを断罪すると言われた黒の魔剣。
魔剣ノーザンクロス。
ロベルトから授けられた黒剣は、シャルがデザインした夜会服に驚く程に馴染んだ。
煌めく黒地と、精緻と言う言葉では足りない程の美しい金糸の刺繍。
そして、光すら吸い込む黒い剣。
「ははっ。まるで黒雷の獅子だな……。」
クロークの姿見に己の姿が写り自嘲する。
―――本当に俺にやれるのだろうか?
結界を破りお母様の強行を止める。
敵の数は不明、結界を発動し維持し続けている相手も不明。
ただ、時間はそうないだろう。
いや、やれるかじゃない。
やるんだ。
お父様は俺を信頼して任せてくれたんだ。
それにここにはユーリアもいる。
俺がやらなきゃ誰がやるんだ。
「やるぞ……!」
レオナルドは不安を呑み込み小さく呟くと、グッと魔剣の柄を握った。
「―――あら、お兄様こんな所にいたの?
武器は首尾よく手に入れれました?」
レオナルドが後ろを振り返るとジュリアが立っていた。
ジュリアとシャルは倒れた貴族達の看病をする為に汗取り用のタオルになるものや飲み物等を探していたのだ。
「あ、ああ。この通り、な。」
先程の呟きを聞かれたかもしれない気恥しさでぶっきらぼうに返すレオナルド。
「それは何より。成果を期待しますわ。
お兄様。」
「ああ。」
「………………。」
「………………。」
突然止まる会話。
広くもないクロークが静寂に包まれる。
―――会話が止まった!? まぁ確かにユーリアお姉様を心配したり、今から戦いに行くのだから緊張しているのは分かるけど、ちょっとくらい妹を気にかけてくれても良いんじゃなくて?
私だって不安なんですけど?
あぁ、もう―――。
―――ヤバい。会話が止まったぞ!?
話題話題話題……! どうする? やっぱり心配していると伝えるべきか? いや、他人の心配をする前に自分の心配をしろと言われるのがオチか? あぁ、クソ―――。
―――シャルならずっと話しかけてくれるから楽なのに!
―――アルならずっと話しかけてくるから楽なのに!
似た者兄妹である。
そもそもこの兄妹は普段も会話が少ない。
公爵家の長男長女として、自分から声を掛けるのは良しとされない教育を受けて来た弊害だ。
彼等から声をかけると望む望まぬに関わらず、公爵家に対する忖度が働いてしまう。
なので、自分から話題を振る際は細心の注意を払えと幼い頃から徹底的に教え込まれてきた。
つまりは圧倒的会話下手。
特に二人とも会話の基本が命令や依頼になる事が多く、気安い日常会話が苦手であった。
それは人との繋がりを求めていたジュリアがワガママ娘だと思われていた遠因でもある。
「あー、いたいた! ちょっとジュリア! 向こうでナプキンやらダスター見付けたから運ぶの手伝ってー! ……あら、レオ様じゃん! 武器は見つかった? あ、その腰の剣ね! あー、良い! 良いじゃない! やっぱりレオ様の服は黒基調にして正解だったわ。グレーでも良いと思ってたんだけど、そっちの方が―――って、どうしたの? 二人揃って見つめ合っちゃって? 」
助けて! 会話が止まって泣きそう!
コミュ障気味の兄妹の必死なアイコンタクト。
ジュリアは元より、レオナルドも謎のレオ様呼びを無視して必死に助けを求める。
二人の必死さは正しく伝わり、シャルが苦笑する。
「兄妹なんだから遠慮せずに思った事を話せばいいじゃない。お互い思い合ってるのに上手く言えないって顔してるんだけど?」
シャルの言葉で顔を見合せる二人。
意を決してレオナルドが口を開く。
「あー、ジュリア……。 出来ればお前達を守ってやりたいんだが、いや、まぁ俺がいなくともジュリアなら大丈夫だとは思うのだが、その、なんだ。……気をつけてな。無理はするな。」
「…………30点です。身内贔屓の超激甘採点で。」
「……え?」
「もうちょっとビシッと決めれないのですか?お兄様。妹とは言え、女性に対してここぞと言う所で決めれない男はモテませんよ?
ユーリアお姉様が可哀想です……。」
呆れかえるジュリア。
10歳の女児とは言えそこは女の子。
雰囲気には厳しい。
「いや、あ、うん。ごめん……。」
「……まぁちょっと不安が和らいだので許してあげます。 お兄様も無理はしないで下さい。」
はにかむ様に笑うジュリア。
それはレオナルドの不安を吹き飛ばすような笑顔だった。
「ああ、ありがとう。ジュリアと話せて良かった。お陰で不安が吹き飛んだ。
これで結界を張っている魔族と戦える……!」
不安はもうない。
腰に差した魔剣ノーザンクロスの頼もしい重さを感じながらレオナルドは会場の外へ―――。
「あー、レオ様。ちょっといい?」
颯爽と出て行こうとするレオナルドを呼び止めるシャル。
タイミングを外され、レオナルドはガクりと
つんのめる。
「……素直に送り出してくれよ。
と言うか、そのレオ様ってなんだ。 アルの奴もそうだったが、平民は皆こんな距離感なのか? ―――で、何の用だ? シャーロット嬢。」
そうは言っても失礼な平民には慣れたもの。
文句を言いつつ要件を尋ねるレオナルド。
「いやね? 公爵様もレオ様もそれが当然みたいな顔で話してるけど、このホール内に結界を張ってる魔族がいるのよね?」
「ああ。 俺もさっき確認して来たが高度な術式が使われている結界だ。間違いなく術師は結界内にいるだろう。」
レオナルドの言葉を聞いて悩みだすシャル。
「そんな高度な結界が使えるなら間違いなく
原作では名前付きキャラだと思うのよね……。
でも、そんな奴いたかしら?
既に名前付きは二人出ているのに三人目? イベントが変質しているにしても役割は変わらない可能性が高いって公爵様は言っていたし……。やっぱり変よね……。」
「すまんが、シャーロット嬢。
何が言いたいんだ? 原作? ネームド?
さっぱり理解出来ないんだが……。」
「えっと、あー、運命とかそんな話ね。
簡単に言うと、この会場内に強い魔族が二人以上いるのが運命的には違和感があるのよ。
どこぞの無敵公爵様のおかげで前提が崩れてるからちょっと自信ないんだけど……。」
この世界の元になったであろう2つのゲームで出てくるのは、先程下半身をミンチにされたネビロス。
そして戦争に狂った哀れな男、指揮者。
2つのゲームが混じったのが今のこの世界なのだとして、三人目の名前付きキャラがいる事にシャルは違和感を覚えた。
「それってさ。シャルはリロイの天啓魔法みたいに未来が分かるってこと?」
「あー、まあ、それが一番近いかな?
ホントにザックリだけどね。大きな事が起こるポイントは分かると思う……かな? 」
「そうか! シャーロット嬢はスチュアート家の縁者だからか! 確かに同じ血筋からは似た性質の固有魔法を発現しやすいという有意なデータもあったはずだ。 そうなると俄然シャーロット嬢の発言に真実味が増すな。お父様が向かった異空間魔法使いが全ての元凶なのか……?」
リロイの名前を聞いて一気にテンションが上がるレオナルド。
ちなみに彼が1番好きな大戦時のエピソードは、リロイが騎士団のメンバーから認められる契機になったエルランザ砦防衛戦である。
「いや、あの結界の感触は間違いなく空間魔法ではない。むしろ俺に近い―――闇属性だ。
固有魔法使いは元素魔法も使えるがそのリソースを固有魔法に取られるからあそこまでの大魔法を使えるとは考え難い―――」
ぶつぶつと独り言を言いながら考え出すレオナルド。周りの事など一切目に入っていない。
「……ねぇ、ジュリア。レオ様大丈夫なの?」
「え、それシャルが言うの? 服を作る時に入り込んでるシャルもあんなだよ?」
「うっそ。気をつけよ……。」
「そうか! もしかして―――!」
妹達二人に引かれているなどお構いなしにレオナルドが叫ぶ。
「『月狂黒雷』!」
突然レオナルドが放った黒雷がステージを目掛けて降り注ぐ。
「ちょっ!?レ、レオ様ご乱心!?」
「お兄様!?」
荒れ狂う黒雷がステージに未だに残ったままだった哀れな男達の肉片を焼き尽くす―――。
―――筈だった。
「あーあ、バレちゃったか……。」
黒雷が収まった後には先程までと変わらず、おびただしいまでの血と散らばったままの肉片。
そして上半身だけとなった姿で笑う少年。
ネビロスが起き上がっていた。
「あの公爵を騙せたと思ってたら、まさか運命を知るなんて反則が出て来るなんてね……。
大戦の時も思ったけど、スチュアート家はさっさと滅ぼすべきだったよ。」
蠢く肉片と血液がネビロスに集まり、下半身を再生する。
「そ、そういえばネビロスって悪魔は死者を操る死霊術だか降霊術だかを使うって聞いた事あるわね……。」
原作ゲームではなく、前世知識によるネタ元の悪魔の能力を思い出すシャル。
「シャーロット嬢……。次からは何か気付いたらどんな些細な事でも教えてくれ……。」
シャルに文句を言いながらも、油断なくレオナルドは魔剣を構える。
「ははっ! 次なんかある訳がないだろう?
僕がお前らを人形にしてやるよっ!」
五体満足に回復したネビロスが三人に襲いかかった―――!




