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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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お父様と過去からの使者

創世の間は王城の敷地内にありながらも独立した施設になっている。


今回の様な式典は元より、有事の際は物資の集積所や軍事施設として使えるよう、様々な機能が持たされていた。


つまり、ここは単なる大きな箱ではなくそこそこ入り組んだ面倒くさい構造になっている。



王家の控え室は2階の端だ。


創世の間の中央階段を駆け上がって行く。


本来であれば何人もの警備兵が配置されているはずなのだが、不気味なほど誰もいない。


争った形跡もない事から、恐らく気付く事すらなく異次元に飛ばされたのだろう。


空間魔法。

本当にあの魔法はチートだ。


実は大戦の時にも戦った事があるのだが、こうやって身を隠されると厄介極まりない。


テロリストとしては正しいのだろうが、もう少し真正面から戦って欲しいものだ。



「そうすれば裏をかきやすいんだがな。」



黒の弾丸が控え室の扉の蝶番を吹き飛ばす。


扉が倒れ、部屋の中が顕になる。


そこにはやはり王はおらず、男が立っていた。



背の高い男だ。

歳の頃は四十代の中頃。


脂ぎった長い癖のある黒髪。

窪んだ眼窩には狂気の色を孕んだ灰色の瞳。


それはまるで幽鬼の様な男だった。


しかし、その見た目はどう見ても―――。



「人間……なのか?」


「―――魔族ですよ。公爵閣下。

セーデルホルムの様な半端者と違って、この国で生まれ育った純魔族です。」



そう言いながら男は自分の顔を触れると、バキバキと嫌な音を立てて顔が変化する。



「骨を操る我々骨人族(スケルトン)の種族特性です。 身体操作をしている際は魔力を使いますが、1度変化してしまえば魔力探査にも引っかかりませんから普通の人間にしか見えません。」



変化が終わった男の顔からは肉が消え、まるで骨に皮だけが張り付いた不格好な骸骨の様な顔が現れた。



「なるほど……。そうやって隠れ潜んでいたという訳か。それこそ大戦の前から―――。」


「いえいえ、それは穿ち過ぎです。」


サッと手を顔にかざし先程までの顔に戻る男。



「確かに大戦前からこの国に住んでおりますが、私は人間として生きて来ました。


かの大戦ではこの国の為に戦友達と共に戦い、正式に勲章も頂きました。


勲章持ちの騎士伯だからと傷痍騎士病院にも入院させて頂いております。」


直立不動でハキハキと答える様は、騎士と言うよりよく訓練された兵士の様に見えた。



「傷痍騎士プログラムを活用してくれているようで何よりだよ。あれは私が作った制度なのだが、何か不満があれば聞かせてくれないか?」



ヤバいな……。

この男、隙がない。


ポーカーフェイスを必死に維持しながら内心の焦りを呑み込む。


基本的に私の戦術は相手の一瞬の隙を突く弱者の戦術だ。この男のように隙がない奴は本当にやりにくい。



「まさか!不満などございません。閣下!

手厚い保障に感謝しております。」


男は心外だと言わんばかりに首を振る。


「お陰様で両親の葬式を上げることも出来ましたし、今の生活も不満はありません。

本当にこの国の為に命懸けで戦って良かったとそう思えます。」


「しかし、君は今やこの国を脅かすテロリストの一員となった。―――理由を聞いても?」



個人的には敵の戦う事情などに興味はない。


そりゃあ相手には相手なりの戦う事情がある。

それを知ったからといっても何がどうなる訳でもない。戦い難くなるだけだ。


どんな奴にも良い面も悪い面もあるし、そいつなりの正義や信念があるのは当然。


そしてそれが相反するものならば、戦いになるのは当たり前の話だ。


しかし、ここは少しでも話を伸ばしてこの男の隙を―――。



「―――閣下、話しながら私の隙を伺っておいでですか?」



バレてた。



「あー、分かるか?」


「ええ。貴方からの心地好い殺気が感じれたもので。ふふっ。やはり裏切って良かった。

国には感謝こそあれ、恨みはありません。


しかし、私が私である為には裏切るしかなかったのです。こう言えば分かりますか?」



―――あぁ、そうか。


PTSDか……。



長期間、死のストレスに晒され続けられる事で

精神をやられる。

前世でもシェル・ショックなどは有名な話だ。



あぁ、理解した。

理解してしまった。


つまり、彼は逆にそのストレスに順応し過ぎてしまったのだろう。




「……他にも何人か実例は聞いているよ。

平和に馴染めず、争いを求めて野盗や犯罪者に身を落とした者がいると。」


「ええ。夜中に物音で飛び起き、妻の首にナイフを当てた時にもう駄目だと感じましたよ。

私はもう、戦場でないと生きてい行けない。」



ウチの身内で言うなら、ヴァーリと同類だ。

あいつも常に戦いに身を置いていないと駄目な危険人物である。


本来ならファンタジー中世あるあるの傭兵や冒険者になると言う手もあったのだろうが、今の王国ではその手の仕事の需要は激減している。



そしてその原因は、私である。



「私が言うと皮肉に聞こえるかもしれませんが、閣下の手腕は素晴らしい。


戦災復興だけに留まらず、国中の治安維持の強化や貴族間の相互補助機構の制定。そして、他国との協調路線の徹底……。


貴方はこの15年、執拗なまでにこの国から争いの火種を消して見せた。」



そうだ。ファンタジー世界とは言え、私が子どもの時はこの国の治安は現代日本とは比べものにならない程劣悪な環境だった。


だから私は公爵家の圧倒的な資金力と権力を持って、戦後のどさくさに紛れて政治的、経済的惰弱性を徹底的に改革した。



「魔物退治ですら複数の騎士団が隊伍を組み、システマテックに狩りをする。

それに魔物の発生原因の研究も進んでいる。

近い将来、人は魔物被害を完全に管理するのでしょう。」



あぁ、そうだ。

魔物の存在がこの世界をより暴力的なモノにしている一因だ。


魔物対策については、それこそ私が赤子の頃より研究していた事だった。


それは自画自賛ではなく、間違いなく大多数の無辜の民の為意味のある事だろう。


彼の様な一部例外を除けば、だが。



「皮肉なものです……。あれ程―――、それこそ死に物狂いで欲した平和に私はどうやっても馴染めなかった。」



ホラ、見ろ失敗した。

やはり敵の戦う理由など聞くもんじゃあない。



「……家族はもういないのか?」


もうここまで聞いたら仕方ない。

同じ妻帯者として気になった事を尋ねた。



「別れましたが、生きてはいると思います。

―――良い女でした。魔族である私を受け入れ、こんな私を愛してくれた。

今も息子と一緒に暮らしているはずです。」



あぁ良かった。

錯乱した帰還兵に殺された妻と息子はいなかった様だ。



「―――今も時々思い出します。

妻と息子を殴った気持ち悪い感触を……。


何度も私に殴られ、顔を腫らしながらも、つ、妻は錯乱した私を抱きしめてくれて……うっ、ううっ……。」



やっぱりやぶ蛇だったでござる。



泣き崩れる男は隙だらけで、今なら何とでも対処出来そうだが流石に無理だ。


私は人としての根っこが甘いのだ。

悪癖なのは自覚があるが、こればかりはどうしようもない。



「……なぁ、もういいんじゃないか?

流石に無罪放免には出来んが、投降してくれるなら私の名にかけて悪い様には―――。」


「―――ありがとうございます。

しかし、もう遅いのですよ。閣下。」


涙を拭い、首を振る男。



「ステージで貴方に細切れにされた傷痍騎士達をネビロスに差し出したのも、この王都にテロリストを引き入れたのも、この国に散在している王家の血脈を探し出しリークしたのも、全て私です。


あぁ、それと―――私は元々技術者でしてね。

ドクなんて渾名で呼ばれておりました。

もうお分かりですね? 今も貴族の方々を苦しめている生物兵器も私の作品です。」



おぉう……。もうそれ主犯じゃん。

指揮者(コンダクター)ってそういう意味なの?


むしろどうやって王家の遠縁を探し出したのだろうか? 現役の公爵で王家筋の私ですら把握出来てないんだけど、ちょっと有能過ぎない?



「現在、国王陛下とスチュアート侯爵閣下を異空間に監禁し、刺客を差し向け続けているのも当然、私です。」



「―――はぁ、仕方ない。その名を出されると私も引けないな……」


有能そうな人材だから惜しいと思うのだが、もうこれは駄目だ……。



「吐いた唾は呑めんぞ? 指揮者(コンダクター)。 」



頭と胸、ヘソ下にある3つの丹田の同時起動。


軍事身体強化魔法の奥義、『赤眼武神』。


励起した3つの回転は溶け合い、私の生物としてのステージを何段階も跳ね上げる。



「優しき死神。敬愛すべき武神よ。

貴方の慈悲に感謝を―――。 」



指揮者(コンダクター)の、戦争に呑まれた哀れな男の周囲を黒い(モヤ)が包み込んだ。

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