お父様と作戦会議
「―――状況を整理しよう。
我々が直面している問題は3つ。
先ずは生物兵器被害への対応だ。
これに関しては、皆の尽力により当面の目処が立ったとみて良いだろう。」
比較的軽症の者も多く、手分けをして障壁を張ったことで少なくともこれ以上の重症化は避けれたはずだ。
……まぁ軽症とは言っても風邪で40度くらいの熱が出たみたいな状態なので戦力としてはカウント出来ないがな。
そんな状態で障壁を張るのに協力してくれた
ヴァスコーニ侯爵達には頭が下がる思いだ。
ウィンドブルム君、そこの障壁甘くないか?
たかが熱くらいで何をへばっているんだ!
もっと死に物狂いで魔力を振り絞れ!
―――ともあれ、軽症者達も細菌に侵されながら障壁の維持をしているので、3000人のほぼ全員がグロッキー。
創世の間は今や野戦病院の様相だ。
そんな創世の間の隅っこで私達は作戦会議中と言う訳だ。
「2つ目は迷子の王様問題。
ただし、これに関しては既にリロイが動いていると見て間違いない。」
「伯父さんに対する信頼感ヤバくない?
いや、何となく分かるけどさ……。」
少し呆れた顔で同意するシャル君。
「似たような事が何度もあったからな。
アイツが迷子になると、毎回どこかで厄介な問題の対処をしているんだ。」
大戦の時とかどれだけアイツ逃げたのか? とか今度こそ死んだんじゃね? と思ったか……。
ちなみに同じ様な理由でカーライル王の心配も全くしていない。
彼奴らは竜の騎士が率いるちょっとスケベで情けない勇敢な大魔導師とか、毎回死にそうで死なない不死身系クール銀髪戦士の同類なのだ。
心配するだけ無駄である。
「しかし、リロイもカーライル王も不敗の男だが常勝ではない。敵は空間魔法使い。異空間に閉じ込められているとすれば、抜け出すことは困難だろう。」
「空間魔法……。 固有魔法ですね。」
神妙な顔でレオナルドが唸る。
この世界の魔法はいくつかの種類がある。
元素魔法。
いわゆる地水火風、そして光闇の六属性魔法を基本とし、人や種族の固有魔法が存在する。
種族固有魔法で有名なのが森人族の精霊魔法だ。
自然を司る精霊なる不思議生命体を操る魔法で
なんでもありの理不尽魔法である。
そもそもこの世界を構築する要素である自然を自由に操れるのだからそりゃあそうなるだろうと言う話だ。
属性魔法の上位互換と言われている魔法だな。
そして魔族固有の魔法に時間やら空間やらを操ると言うこれまた理不尽な魔法が存在する。
概念魔法と呼ばれるチート魔法。
時を止めてオラオラしたり、空間を削ってガオンしたりする例のアレだ。
幸い、使えるのが魔族かつ適正の高い限られた者しか使えない魔法なのだが、その使用者は例外なく強敵だった。
「ちなみにシャル君。対応策は知ってる?」
どう考えても面倒くさそうなこの魔法だが、原作ではどうやって対応したのだろうか?
「んー、言っちゃうと主人公のイヤボーンなのよねぇ……。襲われた瞬間に魔力が暴走して敵を吹っ飛ばしたって感じ?」
微妙な顔をして説明してくれるシャル君。
イヤボーンの法則かぁ……。
漫画とかであるあるのヒロインが襲われ、感情が爆発して秘めらた力が暴走して敵がボーンとなる古き良きお約束である。
って言うか主人公って君じゃん……。
「どーしてもって言うならやるけど、ちょっと自信ないかなぁ?」
苦笑いをするシャル君。
よく見ると指先が震えていた。
普段は気丈な彼女ではあるが、流石に戦うのが怖いのだろう。当然だ。
「そんな事を君にさせる訳がないだろう?
それは私の仕事だよ。」
お陰で何となく対抗策も思い付いたしな。
「あの迷子のおっさん共は私が回収する。
勿論、空間魔法使いの対処もな。
ジュリアとシャル君はこの場で感染者の対応をしてやってくれ。風邪に似た症状だから寝かせたり水分補給をしてやって欲しい。」
「任せて!」
「はい!」
「お父様。俺は……。」
不安そうな顔をしたレオナルドの両肩に手を置き告げる。
「レオナルド。ある意味お前だけが頼りだ。
問題の3つ目……。ベスを止めてくれ。」
「!?」
「お、お母様を……!? ま、まさか!」
目を見開き驚くレオナルドとジュリア。
「これはお前にしか出来ない。そして申し訳ないが我々3000人の―――いや。この国の命運をお前に託す。ここにいるのは掛け値なしのVIPばかり。……言いたいことは分かるな?」
何せここには外国からの使者もいるのだ。
ザルな警備のおかげでテロリストに攻め込まれ、その上公爵夫人の手で会場をぶっ飛ばしてみろ。下手すれば開戦待ったナシである。
「俺がここの結界を張る魔族を倒し、お母様の強行を止める……そうですね?」
「ああ。悪いが命懸けで、だ。
公爵としてお前の命とこの国を比べるとこの国を取らざるをえん。」
父親としてはこんな事を言いたくない。
立場上、口が裂けても言えないが、国と家族を天秤にかけるなら私は家族を優先したい。
私の可愛い子どもに命を懸けさせなければ滅びる国など滅びればいい。
しかし、そうも言えないのが公爵と言う立場だ。
「お兄様……。ご武運を。
この国を、大陸をお守り下さい……!」
状況を察したジュリアが悲壮な顔でレオナルドを鼓舞する。
「―――ああ。死力を尽くすさ。」
頼もしい漢の顔で応えるレオナルド。
「え、ちょっ、ごめん。 皆のノリについて行けないんだけど? 何か奥様がラスボスみたいな流れになってない?」
「えっと、多分ね? お母様がこの会場を結界や敵ごと吹き飛ばそうとしてると思うの……。」
「その通りだ。何せここにいるのは敵と貴族だけだからな。貴族たるもの戦って死ねの精神だ。むしろベスは手厚い援護くらいのつもりでこの会場を結界ごと爆破させる気だ。」
ベスの手元にはウチの騎士団がいる。
ベスの親衛隊だったJ隊辺りなんか嬉々として得意の貫通爆破魔法をぶっ放すだろう。
なんせジュリアにも分かるレベルの政治的配慮がベスやJ隊にはないのだ……。
いや、本人にも自覚があるのでワザと政治的配慮を無視している節すらある。
武人と言うモノに特化したヘレオール家の闇が見え隠れしているな……。
しかも、何が悔しいって過激なベスの判断が、ぶっちゃけそんなにズレてもないのが悔しい。
王都の王城に敵が入り込む。
それはつまり、本陣の司令部に攻め込まれている様なものだ。
そんな事態は、負け戦も負け戦。
しかも逃げる事も出来ないと来たもんだ。
我々に出来ることは、敵を虱潰しに倒して行くか、まとめて吹っ飛ばして引き分けに持って行くしかないだろう。
「何その間違えた薩摩武士みたいな精神!?
え、奥様ってめっちゃ優しい人じゃん! そんなワイルドな事するタイプなの!?」
私とジュリアの説明を聞いて驚くシャル君。
ビックリするだろ? それが私のカミさんなんだぜ?
「シャルは平民だからね……。お母様は貴族には本当に厳しい人なのよ。
あれ? でも、スチュアート家当主のリロイが
シャルの事は自分の姪だって認めてるよね?
つまり、やっぱりシャルは貴族よね!?
うん。一緒に頑張ろうね! スチュアート嬢!」
「シャルちゃんは優しい奥様が好きだから一生平民でいるね! スチュアート家? なにそれ?
私に伯父さん何かいないよ! ジュリアたん!
だから私逃げるから後よろしく!」
「ふふっ。絶対逃がさないわ……。
私たち来世でも親友よね? シャルたん。」
「怖っ! ジュリアの無駄に高い顔面偏差値でヤンデレされるとめっちゃ怖いんですけど!?」
何やらキャイキャイと騒ぎ出す2人。
それを不謹慎に思ったのだろう。
注意をしようとしたレオナルドを止める。
「良いのですか? お父様。」
「戦いに不慣れな者は戦闘前に情緒が不安定になるのもだ。あれはふざけているのではなく、心の安定を図る心の免疫機構のようなものだ。戦場じゃあよくある光景さ。」
「こんな美少女2人の絡みを見て、そんな殺伐とした感想でる!? 普通!」
「あんまり否定できないけどね……。」
私の反応に両者それぞれの反応が返って来る。
いや、案外馬鹿に出来ないんだぞ?
何せ戦場なんて殺し殺される究極のストレスに晒されるのだ。
まともな生活を送れくなる奴も多いのだ……。




