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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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公爵家嫡男の憂鬱と強襲

(―――不味いな。最悪、王都が焼け野原の戦場になるぞ……。)



念話からお父様の焦りが伝わる。

確かに、結界を張ったのが魔族のテロリストなのだとしたら戦闘は避けれないだろう。


しかし、王都が焼け野原と言うのは少し誇張し過ぎた表現ではないだろうか?



(ベスとウチの騎士団は間違いなく優秀だ。


ベス達がこの会場に来ていないと言うことは、この会場に入る前に結界に気付き、付近で待機している可能性が非常に高い……。


いや、何なら外ではもうオディマとの戦闘が始まっててもおかしくない。


その場合、王都守護騎士団(ガーディアンナイツ)もベスの指揮下に入っているはずだ……。)



じわりと嫌な汗が背中に流れる。


お、お母様が……?

1万人以上の戦力の指揮権を持って……?



間違いなく俺とお父様がここに来た時、結界は張られていなかった。


夜会は綿密に組まれたタイムスケジュール通り進行している。


結界は開演のタイミングに合わせて発動された可能性が高い思う。


お母様達は開演ギリギリのタイミングに合わせて来場する予定だったから、確かにお父様の言う通り、外から結界に気付けるはず……。



お母様とエドワードとドミニクの護衛には、

王国最強戦力たる公爵家騎士団……。


そして、王家の血筋を指揮系統のトップに添える王国最大規模の王都守護騎士団(ガーディアンナイツ)


そうだ。


それは思い込みを捨て、事実を並べた上で導き出される推論。


確かにお父様の言う通り、お母様ならこれらの戦力を傘下に収められる……!



お母様はお優しい貴婦人なのは間違いない。


だがそれは俺達の母として、公爵家夫人としての顔なのだ。


今は亡きヘレオール家の『氷乱の姫騎士』。

エリザベート・ジュリア・フォン・ヘレオールはそうではない。



伊達や酔狂で公爵家の姫だったお母様が氷乱なんて2つ名で呼ばれはしない。


死神と謳われたお父様が理知的な紳士に見える程の狂戦士なのだ。



(もしかして全軍が突入して来たり……?)


(有り得る。団長が上手いこと止めてくれているとは思うが……。 まぁ、ベスの性格からすると時間の問題だろうな。)



お母様の基本戦術は突貫からの首狩り戦術だ。


1万人もの兵力でそんな事をされたら、敵も味方もこの会場ごと吹き飛んでしまう。


何せ公爵家騎士団には超位魔法を操る化け物がゴロゴロしている。


基本的にウチの騎士団は過剰火力なのだ。



(いやいや、お父様。 ここは王城ですよ?

流石にお母様と言えど、そんな無茶はしないはず―――。)


(……確かに、以前私の指示で王城に超位魔法を叩き込んだ時はしこたま叱られたが、それはそこに平民がいたからだ。


よく思い出せ。ここには警備も使用人を含め、貴族しかいないんだぞ?)



貴族ならば戦って死ね。

戦って死ぬのならばそれは誉れである。


口酸っぱく言われ続けたヘレオール家の家訓。


ヤバい……。

お母様がここを攻撃しない理由がない……。



(あえて言うならば、お前達がいるからギリギリまでは我慢をするだろう。 団長辺りに諭されてしおらしい顔をするかもしれん。


しかし、いよいよとなればどうなるかは私には保証出来ん。)



お母様は俺達を愛してくれている。

しかし、立派な貴族であれと誰よりも俺達を厳しく躾るのもお母様だ。



(つまり、お母様がここに攻撃を仕掛ける前に俺達でこの結界を張った犯人を処理する必要があると言う事ですね……。)


(あぁ。タイムリミットは不明。援軍なし。

失敗した場合は、ベスの手で王都が焼け野原になる。)


(―――お父様。何で蛮族丸出しのヘレオール家が公爵家なんてやってたんですか?

まともな為政者ならあそこまでの蛮族思考にはならないと思うのですが……?)


(……それは王国七不思議の一つだな。)



お母様……。すみません……。


貴女の事は息子として尊敬しておりますし、

愛しております。


でも、ヘレオール家が為政者としては不適格だと思うのは俺だけではないはずです……。



―――――――――

――――――

―――



ロベルトに予測された大惨事を伝えられ、自分の親も人であり、人は誰しも完璧ではないと改めて思い知ったレオナルド。


少年が大人の階段をまた1歩登っている時、会場では大人達が王の挨拶前に各人思い思いに社交に精を出していた。



基本的に王国は人族の国。

他種族がいればそれなりに目立つ。


公爵家の執事である小人族(ホビット)のオーギュストの低い身長、カーミラ達森人族(エルフ)の長い耳など、その身体的特徴は分かりやすい。


しかし、例外はいる。



ユーリアの様な吸血鬼(ヴァンパイア)などの人族と見た目が変わらない種族。


そして見た目を変化出来る能力をもつ種族だ。



原作ゲームであるB・B(ブレイブ・ブレイド)では妖魔族(モンストラム)の英雄

ネビロスにより建国祭中の襲撃が行われる。


C・Cカーディナル・クライシスでは夜会に潜んだ変身能力と空間を操る魔法を持つ魔族による王族の拉致事件が起こる。


名前は出ないものの、それは指揮者(コンダクター)と呼ばれる魔族であった。


それはゲームが現実となったこの世界でも配役は変わらない。




会場に流れる傷痍騎士達の一糸乱れぬ演奏。

それを気に止める者は誰もいない。



騎士達の顔からは表情が抜け落ち、そのガラス細工の様な瞳は楽譜すら見ていない。


個性を完全に塗り潰された無貌の人形達の奏でる無機質な音色は鳴り止まない。


指揮台に立つ少年の指揮棒(タクト)が次第に加速する。


騎士達の目は血走り、口から泡を吹く。


少年は一際大きく両手を広げ、振り下ろた。



「『傀儡傀儡(クグツカイライ)木偶人間(デクニンギョウ)』」



少年の力ある言葉と共に、傷痍騎士のオーケストラの瞳が真っ赤に染まる。


オーケストラは4管編成で100名。


100名の傷痍騎士達に過剰な魔力が流れ込み、その身がバキバキと音を立てて変質する。



少年の顔が崩れ落ち、その下から青い素肌とナイフのような尖った歯が現れた。



「――――さぁ、パーティーの時間だ。

僕が手塩にかけて調整した愛しの木偶達。」



優しげに微笑む口元からは真っ赤に濡れた蛇のような舌が蠢く。



四死天ネビロス。



彼の得意魔法は人形操作。


人形の素体になったのは傷付き老いたとは言え、大戦を生き抜いた歴戦の勇士。


薬学や医学に通じる彼の手により、様々な劇薬や魔薬を投与されて調整された100体の生き人形達は上位悪魔の域にまで引き上げれていた。



突如として現れた敵に会場の貴族達は驚き、

ほんの一瞬固まる。



人が刺激に対し反応出来る限界速度が約0.1秒。


それは強化魔法と言う例外を除けば、人が人である限りどうしようもない人体の限界速度。


ネビロスに改造された生き人形達の速度であれば油断した貴族数百人を殺傷しても尚余裕がある時間。




ヴォオォオオォオオオオン!!



まるで恐ろしい獣が唸る様な音がホールに響き渡り、弾けるように血潮が飛び散る。



「な、なんで―――?」



ネビロスの背後には複数の魔法陣が浮かび上がり、ゆっくりと回転していた。



唖然とした顔をするネビロス。


彼の目の前には見るも無惨に引き裂かれた人形達の死体が転がっていた。


ドチャっと音を立て、地面に転がるネビロス。



立てる訳がない。


なんせ、彼の下半身は粉々に引き裂かれていたのだから……。




「ふむ。まだ息があるか……。

その肌の色、妖魔族か? 20mm口径のガトリング弾なのだが、中々頑丈のようだな。」


いっそ人形よりも無機質で無感情な声がネビロスの耳に届く。


彼を見下ろす冷たい紅の双眸。


そこには複数の魔法陣を背負った死神がいた。



無惨にも引き千切られた生き人形達の肉片。

その血溜まりに倒れる上半身だけになったネビロスが嗤う。



「は、ははっ。 本当に人で、なしの化け物だ。

ど、同朋すらき、君は信用せず、躊躇しないのか……。」


「何をやったかは分からんが、そこまで変質させられるとどうやっても人には戻せん。

痛みなく葬ってやるのが優しさだろうよ。」


ロベルトとて救えるならば救いたい。

しかし、それはもう無理なのだ。


それは嫌と言うほど、体験して来た事だった。



人の反応速度を超えた対応。

カラクリは単純だ。



「さ、最初からこち、らに狙いを定めて、いたんだろう?」


「いや? 直前まで気付かなかったよ。

単に最初から会場全てを狙っていただけだ。

お前達が来る事は分かっていたからな。」



まぁ、予防策の1つだと付け加え、ロベルトは空中でゆっくりと回る魔法陣郡に魔力を再度流し込む。



「い、いいさ……。ぼ、僕の役目はこれで完遂出来た―――。」



ヴォオオン!



魔法陣から放たれた毎分数千発の黒の弾丸の唸り声が満足気に笑うネビロスの声をかき消した。

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