その頃の王都 前編
次第に日が落ち、暗闇に包まれた王都。
フードを目深に被り、音もなく影を縫うように
走る集団がいた。
|魔族の理想のための組織―――。
魔族による魔族の為の理想郷を目指し、暗躍するテロリスト達。
日中の爆弾騒ぎもこの街の警備体制を知る為の威力偵察に過ぎない。
リロイ達の活躍で即時に潰されたが、最低限の確認は出来た。
彼等は満を持して王都に潜伏している全ての構成員を導入した。
その目的はただ1つ。
この国の始祖の血筋の確保である。
背の高い建物の屋上に潜む彼の視界が、黒塗りの箱馬車を捉える。
「交差する黒鍵の紋章……。間違いない。
公爵家の馬車だ。」
「よし。一番隊から五番隊で強襲を仕掛ける!
目標確保後、速やかに離脱。 六番隊から十番隊は予定通り準貴族をピックアップだ。
油断するなよ? 公爵家の馬車には『黒鍵』共が護衛についているはずだ!」
これは王都に潜伏した者達からの情報を元に、何年もかけて練られた計画だ。
その目標は3つ。
本命である公爵家の4人の子供達。
王家の血筋であれば生贄足り得るのだが、血は濃いに越したことはない。
今代のフィンスター=ヘレオール家は2つの王家筋の家が結び付いた稀有な家だ。
始祖の血筋と言う意味では王家よりも、かの公爵家の子ども達の方が優先順位は高い。
公爵家の馬車が規定ポイントを通り過ぎた際に
会場に仕掛けられた結界を発動し、王国の戦力を分断する。
その隙に公爵家の馬車を襲う計画だ。
第2目標が準貴族家に存在する王家の遠縁。
生贄としての価値はそう高くはないが、遠縁とは言え始祖の血筋。
利用価値はあるだろう。
そして第3目標が王家の人間。
王と王子である。
これについては会場に潜入している少数の工作員頼みの為、予想成功率の低さから第3目標とされている。
―――彼等は大戦の亡霊。
王国に散々辛酸を舐めさせられた者達だ。
そこに油断はない。
それに加えて、幸いにも公爵家の会場到着が予測していたよりも遅く、貴族の大多数を会場に隔離する事に成功した。
ロベルトの家族への気遣いが裏目に出た結果である。
計画成功率は予測より遥かに高くなっている。
不足はない。
―――ない、筈だった。
「―――あら、思ったより大人数ね?
ほんと王都の警備はどうなってるのかしら。
王都守護騎士団だなんて名前倒れもいい所じゃない。本当に仕事してるのかしら?」
オディマの部隊が馬車を襲うその直前。
野太い淑女の声が聞こえて来た。
「な!? だ、誰だっ!」
「何だ……その格好は……?」
「あ、怪しいヤツめっ!!」
想定外の自体に狼狽えるオディマ達。
それは大戦を生き抜いた歴戦の戦士である彼等を困惑させる異常事態。
筋肉マエストロである。
「な、なんて事……! まさかこの筋肉とドレスの良さを理解出来ないなんて……。
あぁ、でもそうね。貴方達は大戦の亡霊。
戦争が貴方達を変えてしまったのね……。」
嘆かわしいと首を振るレディ・マキシマム。
その目には薄らと涙さえ浮かべていた。
その装いを一言で言うならば全身タイツ。
両の鎖骨付近から臍下までをV字に大きく切り取り、大胸筋と腹筋が露になっている。
V字の切り込みの周りをたっぷりのフリルで飾り立て、袖と背中の上半分はチュール生地により透けて筋肉が見えていた。
製作者は語る。
ぶっちゃけノリで作ったんだけど、まさかここまで着こなせるとは思わなかったと―――。
少し癖のある紫の髪をかきあげ、色気たっぷりの流し目をするレディ・マキシマム。
「いいわ。私に任せなさい。
貴方達に敗北を刻みつけ、その終わりなき戦争の妄執から救ってあげるわ!」
『紫電剛腕』の2つ名の通り、その盛り上がった筋肉が紫電を纏い唸りを上げた。
―――――――――
――――――
―――
王都の裏路地を影達が走る。
この国は貴族と平民に分かれているが、さらにその中間層として準貴族が存在している。
世襲する事が出来ない1代限りの爵位、準男爵や騎士伯、そして戦争で家を維持する事の出来なくなった元貴族達。
それは言わば魔力持ちの平民。
青き血が流れるものの、貴族ではない者達だ。
そんな者の中にも遠縁ではあるものの、始祖の血筋が存在した。
オディマの狙いの1つが彼等傍流の血筋。
数はいるものの王国側の警戒も薄く、狙いやすさを重視した目標だ。
カラン、コロン、カラン、コロン―――。
王都の裏路地に異質な下駄の音が響く。
「ちっ!? 何で奴がこんな所に!」
「戦うだけ無駄だ! 走れ走れっ!」
「計画がバレていたのかっ!?」
下駄の音から死に物狂いで逃げるオディマの実行部隊。
戦意などまるでない。
何せ相手はあの剣豪なのだ。
「むぅ……。敵を見つけてくれたゴーウェン殿には感謝だが、ここまで質が悪いとは……。」
残念そうな顔をするヴァーリ。
しかし、逃がす気は毛頭なかった。
「『急々如律令、疾くいでよ黒鉄の檻! 我が愛しき敵よ。我と死合え!』」
力ある言葉と共に路地裏に鋼鉄の壁がそそり立ち、オディマの構成員達を取り囲む。
「ちくしょうっ……。 囲まれた!」
「あの人斬り野郎っ!」
「覚悟を決めろ。 ……やるぞ!」
「お、おうっ!」
「そうだ。殺す気で来い! やはり慢心した敵や逃げる敵より、殺す気概を持つ敵だ!」
嬉しそうに笑い、腰に差した刀を抜く。
「拙者はヴァーリ・イクサベ! 得意魔法は地属性の金属魔法。しかし、御館様の様な遠距離魔法はからきしだ。得意とするのは―――!」
ズズっと音を立てて地面から無数の剣や刀、槍が生えてくる。
効果範囲半径200m。
無数の武器を生み出すヴァーリの得意魔法。
魔法の類いこそ付帯されてはいないが、掛け値なしの名品揃いだ。
「これが拙者の得意魔法、『刀剣鄉』よ!
見た所お主らの武器は暗器の類いか? 使いたければ好きに使え! 存分に殺し合おうぞ!」
百剣千刀、人斬り剣豪ヴァーリ・イクサベ。
殺し合いを誰よりも尊ぶ戦闘狂である。
「見た所50人くらいか? 1体1の尋常の勝負が好みなのだが、まぁ仕方ない。実力差を考えると贅沢は言えんか……。」
ヴァーリは刀を担ぎ不敵に笑う。
「さぁ殺り合おう。願わくば、拙者を追い詰めて魅せてくれ。」
―――――――――
――――――
―――
(H隊より本部。 王都南部に30名規模のオディマ部隊を発見。)
(本部よりB隊。向かえるか?)
(B隊了解。)
(D隊より本部。目標排除完了。)
(G隊より本部。敵を発見。このまま戦闘行動に移る。)
次々と飛び交う通信。
王都のいたる所で戦闘は始まっていた。
「くぁ〜。 暇っすねぇ、隊長。」
大きな欠伸をしながらF隊副隊長の炎蛇が伸びをする。
先程から通信魔法ネットワークでは敵の発見や戦闘開始、そして撃破の情報が流れている。
しかし、F隊には一向にお呼びがかからない。
「仕方ねぇだろ。俺達が急行出来る範囲には敵が居ねぇんだからよ。」
現在、公爵家騎士団は王都中に散らばって索敵と戦闘を行っている。
自前で索敵が出来る隊であれば積極的に行動しているのだが、如何せんそれはF隊の苦手分野だ。
そうなるとH隊からの情報待ちになるのだが、どうやら彼等の付近には敵がいないようだった。
「今回はこのまま何も手柄かまないまま終わったりするんッスかねぇ。」
不謹慎だとは思いつつ、つまらなさそうな顔を隠せない炎蛇。
「ハッ! それこそありえねぇ。
御館様が結界に閉じ込められている今、オレらの頭はあの奥様だぜ?」
F隊隊長のトニーは好戦的な顔で笑う。
「絶対なるさ。大事にな。」
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