お父様は英雄
「―――さて。決闘はしてもらうで良いな?」
レオナルドが落ち着くのを待ち、話を続ける。
本人もやる気になったのだろう。
神妙な顔で頷く。
「その為にもお前にはセンセーショナルな決闘を演出してもらう必要がある。」
何せ見学に来ている他の貴族の子弟達に平民という存在を認めさせる必要があるのだ。
いわゆるハンマーセッションが求められる。
別に勝敗を問う気はないが、しょぼしょぼの泥仕合なんて以ての外だ。
なのだが……。
「―――レオナルド。なぜ身体強化魔法を使わないのだ? 剣を振るうにしても強化した方が訓練になるだろう?」
実際、貴族の中にも剣の訓練をする際は魔法のアシストはない方が良いと考える者もいる。
しかし、それは誤りだ。
身体強化魔法を使うことで、訓練の質や強度は一気に跳ね上がるのが現在の定説なのだ。
「え、いや、使ってますよ?」
不思議そうな顔をしたレオナルドが自分の腕を見せてくる。
……確かに薄らとレオナルドの身体は魔力で覆われていた。
「いや、確かに魔力を纏ってはいるが、それは単なる『魔纏状態』だろ? それを身体強化魔法とは―――。」
そこで私は自分とレオナルドの身体強化魔法に対する認識の差に気付いた。
「あぁ、そうか……。お前は軍事身体強化魔法を知らないのか……。」
「ぐ、軍事身体強化魔法、ですか?」
先の大戦では様々な魔法が開発された。
と言うか、私がした。
何せこっちは前世の記憶持ちなのだ。
聞きかじった兵器の知識や戦略、戦術、果ては漫画やゲームの必殺技など戦争を生き残る為に、公爵家としての身分を大いに利用して好き勝手に前世の知識を盛大にばら蒔いてやった。
軍事身体強化魔法もその中の一つだ。
「旧式の身体強化魔法は確かにお前のやっている通り、魔力を纏うだけだった。―――こんな風にな。」
ズォ!っと私の身体を魔力が覆う。
レオナルドにも分かりやすく説明する為に大量の魔力を纏う。
気分はスーパーサイヤ人だ。
この状態でも身体強化はされるのだが、出力は今ひとつだし、魔力を垂れ流しにしているから燃費も悪い。
―――とは言っても、これがあるだけで子どもがプロの格闘家を片手で捻れるくらいの出力は出ている。
しかし、軍事身体強化魔法はその比ではない。
この魔法を創る切っ掛けになったのが、世界的に有名なNINJA漫画を初めとした気やチャクラを扱う漫画やアニメだった。
「ヘソの下、丹田と名付けたのだが、そこを起点に魔力を回転させるのだ。」
ググッと私の身体を覆う魔力が動き出す。
ちなみに右回りか左回りかは人による。
前世の知識なら諸説あったはずだが、この世界では特に回転方向で違いはなかった。
最初はゆっくりと、そして次第に魔力の奔流はその速度を上げて行く。
キィィイイイイイイィイイン! ゴバッ!!
回転速度が一定を超えた魔力の奔流は安定し、その出力を劇的に増大させた。
一瞬の衝撃を付近にはなち、私の身体を覆っていた魔力は立ち消えた様に見える。
「お、お父様の魔力が消え……いや、違う。
循環している? それも身体の中を……、とんでもない速度で!」
先程の衝撃で尻もちをついたレオナルドが私を見上げ、驚愕している。
「ほう! 分かるか。 中々良い魔力感知能力を持っているな。確かに見た目は地味だが……。」
足元にあった小石を拾い、指の力だけで粉々にしてみせる。
体内を超高速で循環させる為、身体の表面を覆う魔力はそのナリを潜める。
一見、まるで普通の状態なのだが、その身体能力は現実離れした出力を宿すのだ。
「―――この状態で特徴的な身体変化は瞳だ。上位魔族と呼ばれる魔族達の英雄と同じく、この状態になると目が赤く輝く。」
爛々と赤く輝く瞳を見てレオナルドがブルりと震えたのが見えた。
「これが軍事身体強化魔法、通称『赤眼』。
その恩恵は身体能力以外にも、様々な魔法の威力にも影響を及ぼす。」
そう言いながら手元に火の玉を生み出す。
それは生活魔法と言うジャンルに分類される基本魔法。小さな照明用の火を灯す魔法―――。
「『灯火』」
ゴバゥ!!
直径にして数メートル。
力ある言葉と同時に生み出された巨大な火球。人さえ軽々と呑み込める火の玉を掲げる。
「!?」
「高速回転させた魔力。『臨界魔力』と呼ばれる魔力を使った魔法がこれだ。」
これはあくまでも私の仮説だが、運動量の計算が速度×質量で求められる様に、魔法の威力も魔力の量×速度で決まるのではないかと思う。
生み出した火球を消し去り、改めてレオナルドに告げる。
「この軍事身体強化魔法『赤眼』を基本として、王国の騎士達は大戦を戦い抜いた。」
あの戦争は本当に地獄だった。
何せ相手の魔族達は常にこちらの10倍の数がいたのだ。
単純計算、1人で10人の相手をし続けなければならない。そこまでやってようやく互角。
こんな魔法が必須になる訳である。
「―――レオナルド。 お前には公爵家次期当主として、次代のこの国の全ての騎士の頂きとして、私の全てを叩き込む。」
普通に考えて公爵家当主に個人の武力なんぞ求められる方がおかしい。
しかし、この世界ではそうではない。
何せここは文字通り一騎当千が実現する狂った世界で、貴族=武人と言う脳筋まっしぐらな成り立ちの国なのだ。
一介の親としては我が子には戦争なんぞさせたくはない。
争いとは無縁に平穏に生きて欲しい。
戦う力は必要だ。
矛盾した気持ちをグッと呑み込む。
「―――ついてこれるか?」
「はいっ!」
決意のこもった瞳でレオナルドが頷く。
願わくば、この子の決意が徒労になる様に。
私はそんなある意味残酷な事を願わずにはいられなかった。




