お父様と建国祭
王都は100万人都市と言われている。
実際は戸籍管理がそこまで出来ていないので、おそらくそれくらいと言う概算だが……。
これは近代ヨーロッパのロンドンやパリ、江戸等と同様の大都市と言える。
そんな大都市である王都なのだが、今日はその人口がまるで数倍になった様な人で溢れかえっていた。
建国祭である。
「すっごい人ね! しかも他人種もこんなに!
さっすがファンタジーだわっ!」
「あ、でた! シャルのファンタジー!
ふふっ。最終日にはもっと増えるんだよ!」
楽しそうに声を上げるシャル君とジュリア。
建国祭の初日は幸運にも晴天に恵まれ、様々な人でごった返す一大イベントとなった。
大通りには様々な露店が立ち並び、多種多様な人種が往来している。
まさにファンタジー祭といった感じだ。
「日中は色んな出店も出るから人も多いんだ。はぐれないように気をつけるんだぞ?」
はしゃぐ2人に注意を投げ掛ける。
シャル君の中身はいい大人だから不要とは思うのだが、何せ彼女は初めてのファンタジー祭。はしゃぎ過ぎて迷子になる可能性はある。
「「はーい!」」
明るく元気な返事が返って来る。
元気なのは良いが、ホントに大丈夫かな……?
私としてはオディマの件もあるから祭りの参加は最低限、それも眺める程度にしたかった。
しかし、あの2人はそれを断固拒否した。
何なら論理的に自分達が祭りに参加する必要性を説いて来たのだ。
曰く、この祭りの出店でしか手に入らないレアアイテムがある。
曰く、こういう晴れの日の市場を見る事は今後のデザイナー活動において役に立つ。
曰く、意地悪するお父様は嫌い。
冷たい目をしたジュリアの女王様オーラが立ち上って来た辺りで私が折れた。
結局、いくつかの条件を守らせる事で2人の祭り参加を認める事になってしまったのだ。
2人は今日の為に用意した揃いの花柄の刺繍がたっぷり入った北欧風のワンピースを着ている。
晴れの日に背伸びをした平民にも見えるが、見る人が見たら貴族と分かる服装だ。
何せ使っている生地も刺繍の出来も尋常ではないレベルだからな。
前回の反省から、あまり庶民過ぎる格好を避けた結果こうなった。
そして―――。
(A隊から御館様。護衛対象付近100mに不審者及び不審物なし。)
(了解。このまま警護を続けてくれ。)
(A隊了解。)
私達の周囲を取り囲むようにしてA隊が護衛についている。
この手の護衛任務であればA隊は非常に頼りになる。
何せA隊の隊長は奴だからだ。
「ちょっと伯父さん!? 何モタモタしてんのよ! 早く早く! 売り切れちゃう!」
「ひっひぃー。ひ、人が多くて上手く前に進めない……! か、カトリーヌ! 手を、手を離すなっ! あ、兄が守って……! あぁー!」
「え、ちょ!? リロイ伯父さん!?」
……その隊長が人混みに呑まれて消えた気がするが、まぁいい。 いつもの事だ。
「はー! はー! はー! だ、大丈夫か!?
カトリーヌ!? 何かあったら兄を頼るだ!」
「いや、心配されるのは伯父さんでしょ?
何で速攻はぐれてるのよ……。
そもそも私はシャーロットよ。 お母さんじゃないからね?」
「あ、あ、そ、そうか。 すまん。シャーロットだ。 で、でも何でもオラに言うて欲しいだ!」
キリッとした顔で宣言するリロイ。
うん。実に頼りない。
「あぁ、うん。 まぁ何かあれば、頼る事も……あるのかな?」
シャル君がとても微妙な顔をして頷く。
彼女にこんな顔をさせるなんて流石リロイだ。
意図した訳ではないのだが、ウチの騎士団は各隊の隊長の能力や性格が色濃く出ている。
例えば炎のヤンキー愚連隊であるF隊。
猟犬部隊とも言えるH隊。人斬り集団のE隊。
そしてそれはA隊も同様だ。
(600m先に予定犯罪者発見。スリです。
確度67%。犯行までおよそ5分。)
(あー、声をかけて未然に止めておけ。折角の祭だしな。)
(了解。)
敢えて名付けるのなら占星術騎士隊。
彼等はその特殊な魔法で未来を察知し、あらゆる敵の行動を未然に対応する特殊部隊だ。
リロイの天啓魔法の様に感覚的に察知する者もいるし、視覚的に未来の映像を見る者、占いや演算予測の結果の未来視なんて奴もいる。
私としては凄い奴等だと思うのだが、実はあまり評判はよろしくない。
信ぴょう性に欠けると言うのが主な理由だ。
基本的に地水火風以外の魔法は特殊魔法に分類されるのだが、そもそも特殊魔法は眉唾物も多いのだ。
手品や詐欺と言い切る学者もいる程である。
戦火の中、死に物狂いで能力を伸ばしたA隊で的中率は7割くらい。
この的中率を高いと見るか低いと見るかは人それぞれだが、彼等がウチになくてはならない部隊なのは間違いない。
「―――あ、お父様! あれじゃない? シャルの言っていた出店って!」
「ああ、そうだな。 白黒チェックのテントにハンマーの看板。 確かにシャル君の言っていた通りの店構えだ。」
嬉しそうにジュリアが私の手を引く。
そう。私が出した祭りに参加する条件。
それはウチの騎士団から護衛を付けること。
そして保護者と手を繋いで行くこと。
この2つである。
子どもは人の多い所では大人と手を繋ぐ。
前世では幼稚園で習う基本中の基本。
やはり基本は疎かにしてはいけない。
娘と手を繋いでイベントに行くとかパパらしくて良いなとか私心はちょっとしかない。
「シャル!あったよー!」
「あ、そうそう! そこよ! 見付けてくれてありがとう!ジュリア! ほら、リロイ伯父さん!
もうちょっとだから頑張って!」
「まぁ、まぁ、任せろシャーロットぉ……。」
少し遅れてシャル君とリロイがやって来る。
リロイは何だか死にかけているな……。
そう言えば人混みが苦手だと昔言っていたな。
その出店はアクセサリー屋だった。
小さいながらも所狭しと置かれたショーケースには様々なアクセサリーが並んでいる。
「あら、思ったよりいいお店ね。 ほら、お父様。 これとか可愛くない?」
そう言ってジュリアが見せて来たのは細身の指輪だった。
材質は銀かな? 細身ながら混じり気が少なそうな綺麗な輝きをしている。
真ん中には小さいながらも宝石が並び、蔦が絡んだ意匠が施されている。
……ん? いや、違うな。
これは蔦じゃなくて文字か!
これは人間が使う文字じゃないな。
どこかで見た覚えがあるが……?
「ほぅ! 気付いたみてぇだな? 黒髪の旦那。
ここにあるのは全て古代文字を彫り込んだ魔導具なのさ! ちなみにその指輪には矢避けの加護が刻まれている。」
少し背の低い代わりにガタイの良い髭モジャの店主がニヤリと笑って声を掛けてくる。
土人族!
「ルーン文字、だったかな? 知識として聞いた事がある程度で現物は初めて見たよ。」
「がっははは! 知ってるだけで大したモンさ!
俺達ドワーフでも、もう扱える者が少ない古びた技術さ!」
見た所、はめ込まれた魔石をエネルギー源にして刻まれたルーン文字の効果を発揮する術式の様に見える。
使用者の意志や能力に関係なくオートで効力が発揮されるなら凄いと思うのだが、あまり人気がないのだろうか?
「あまり人気がないのですか? 凄い道具の様に思うのですが?」
同じ事を思ったのか、ジュリアが不思議そうな顔をして店主に尋ねる。
「嬉しい事言ってくれるじゃねぇか。美人の姉ちゃん。 いや、おっしゃる通り。コイツはすげえ技術なんだ。 そして難しい技術でもある。
この前の戦争で俺達ドワーフは魔族側だったんだが、ルーン技術を持った奴等が大勢死んじまってね。 今じゃ当時の記憶や文献を掘り起こして技術の再現をしてるのさ。」
言葉だけなら戦争相手の人間族への皮肉にも取れるが、店主の顔にその様な昏い感情はない。
「あー、それは何とも言い難いわね……。」
「おっと、すまねぇ! 皮肉っぽくなっちまったな。俺達ドワーフは戦士の一族だ。戦う理由があったら誰とでも戦うし、それが終わったら恨みは忘れるってのが戦士ってモンだ。 あんまり恨み辛みばっかだと酒が不味くなる!」
反応に困っているシャル君をガハハと笑い飛ばす店主。
何というか典型的なドワーフって感じだ。
「どうだい? お詫びと言っちゃ何だが、お安くしとくからよ! いくつか買っててくれねぇか?」
チラリとシャル君が私を見る。
あー、はいはい。またこのパターンね。
この店の品が彼女の言っていた建国祭で手に入るレアアイテムなのだろう。
懐から小切手を出そうとした時―――。
「か、か、買う! お、オラが買う! お金も下ろして来たんだ―――あっ!?」
チャリチャリチャリーン!
シャル君の為に買おうと思ったのだろう。
勢い余ってリロイの手からすっぽ抜けた硬貨が詰まった袋が宙を舞い、中身をぶちまけた。
リロイ。お前も高給取りなんだからせめて小切手を使え……。
私は絶望した顔のリロイを見て、キャッシュレス決済の導入を考えた。




