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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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悪者貴族の受難

夜の急報は嫌いだ。


ウィンドブルム伯爵はそう思う。



何故なら夜はプライベートな時間であり、通常業務の時間外である。


報告する方もそれを分かった上で緊急で持ち込むのだから、ろくでもない報告が多い。


そう。これもそんな類の報告だ。



この街を一望出来る伯爵家の応接室。

ウィンドブルム伯爵家はこの部屋からの景色がお気に入りだ。


自分が治めるこの街の景色。

それは自分の責任の重さと成し遂げた達成感を教えてくれる。


街の灯の明かりを見て心を癒した伯爵は改めて労働者ギルド支部長に向き直る。



「つまり、何かね? エルフ狩りを見られたので

取り敢えず拉致して契約をしようとした婦女子がどちらも貴族だったと……?」


「は、はい……。 大変申し訳ありません。」


何度聞き直しても労働者ギルド支部長の回答は変わらない。



―――これ不味くないか? ここまでヤバい報告なんて想定外なのだが?



ウィンドブルム伯爵は青ざめる。


王国法は他人種の権利を保障している。

しかし、それは本音と建前。


人種が違えば文化が違う。

差別も区別も当然あるのだ。


特定の種族を冷遇したとしても、それは伯爵であればどうとでもなる範囲だ。


確かに外聞は悪いし褒められた事ではないが、自領の民と移民を区別するのは領主としては当然の事だった。


しかし、だ。



「他家の貴族を巻き込むのは不味い……。

しかも……重ねて聞くが黒髪だったのだな?」



王国北部では金髪の貴族は多いが黒髪というのは珍しい。


ほんの数家。数えれる程度しかないのだ。



「お、お言葉ですが、伯爵様。 黒髪の何が問題なのでしょうか……?」


「……ロベルト・マクスウェル・フォン・フィンスター=ヘレオール公爵は黒髪だ。」



そう。最悪の予想として、あの死神公爵の身内を巻き込んでしまったのであればウィンドブルム伯爵家は終わる。


物理的にだ。



「そ、そんな馬鹿な。公爵様に娘は―――。」


「いる。丁度10歳になる娘がいる。」



嫌な予想ばかりが積み上がる。

神経質そうにウィンドブルム伯爵は爪を噛み、足を小刻みに上下する。


「……不味い。本当に不味い。あの死神公爵は他種族に寛容だ。むしろ融和派の筆頭。エルフ狩りの事が明るみに出るだけでも糾弾されるだろう。」


しかし、それだけであればまだ良い。


別にウィンドブルム伯爵家は公爵派閥ではないのだし、王国法に則り多少の文句と罰金を請求される程度で済んだだろう。


後々、仲間内で少しやり過ぎて公爵に叱られてしまったと笑い話にも出来るだろう。



「も、問題は、もし本当にその娘が公爵の娘だったら……。」


「だ、だったら……?」


「戦争だ……。いや、一方的に蹂躙される。」



王国の成り立ちは様々な豪族達が引っ付いて出来た寄り合い所帯。


貴族同士の小競り合いは日常的にある。


王国法にも貴族家は決闘や戦争の権利を有すると明記されている。



つまり、誰が誰に戦いを仕掛けても国は問題としてくれないのだ。



事態を正確に把握してしまったウィンドブルム伯爵はガクガクと震えだす。


「なんて事をしてくれたんだ! 支部長! 相手はあの死神公爵だぞっ!?」


「え、あ、い、いえ、まだそうと決まった訳では……。」


「もしそうだったとしたらお前に責任が取れるのか!? 私は無理だぞっ! あぁ、くそっ!

何でこんな事になったんだっ!?」



ウィンドブルム伯爵も最初は意図してエルフを利用するつもりはなかった。


10年程前に自領の紡績業がエルフの派遣労働者のお陰で伸びていると知り、それを拡大させようとした事が全ての切っ掛けだった。


それは為政者として当然の判断だ。

むしろ自領の発展を考えての行動であり、どこからも批難される言われはなかったはずだ。




「―――第三者目線で見るなら切っ掛けはボタンの掛け違い、と言った所だな。」



伯爵家の応接間に聞き覚えのない声が響く。

ビクリと身を震わせる伯爵と支部長。



「例えばこれがエルフではなく、同じ人間族(ヒューマン)であったなら君達もここまで悪辣な事はしなかっただろうよ。


無自覚に差別―――、いや、区別かな?

相手が他人種(エルフ)だったが故に、君達は外道になったのだろう。」



部屋の片隅に一対の紅の瞳が輝く。


まぁよくある話だ。


そう言いながら残念そうな顔をする陰気な男。


死神公爵ロベルト・マクスウェル・フォン・フィンスター=ヘレオールが立っていた。




「こ、ここ、こう、公爵閣下!?」


口と鼻から体液を撒き散らして驚く伯爵。


「夜分に済まんな。不躾だとは思ったが、勝手に上がらせて貰ったよ。」


「め、滅相もございません! こんな何もない所で良ければ自分の家の様にお寛ぎ下さいっ!」


直立不動で起立する伯爵。


そこには何の反抗心もない。


何せ彼は派閥が違うとは言え北部貴族。

戦場でのロベルトを知っているのだ。


逆らう気など毛頭なかった。

否、思い付きもしなかった。



「そう言ってくれるとありがたい。何せ今の状態でノックをすると、この屋敷ごと吹き飛ばしてしまいそうでね。」



まるで全身を鋭利な刃物で斬られるような殺気が部屋を駆け抜ける。


爛々と輝く赤い瞳が伯爵を貫く。


この時点で支部長は泡を吹いて気絶した。



「は、ははっ。お、お心遣い感謝致します。」


自分を置いて先に気絶をした支部長を恨めしそうに思いながら伯爵は何とか応えた。


「ああ、勘違いしないで欲しいんだが、別に君達だけに怒っている訳じゃあないんだ。

半分以上は自分達の無能さに対してでね。

まさかこうもあっさり大事な娘を拉致されるとは考えもしなかったよ……。」


ピシッと嫌な音を立て応接間の窓や調度品にヒビが入る。


いよいよロベルトからの圧が跳ね上がり、物理的な力を孕んで周囲を圧迫する。



「魂にも脂肪が付くものだ、とは誰の言葉だったかな? 本当にその通りだと実感したよ。

戦後15年。人が堕落するには充分な時間だ。

まさかあんな素人に出し抜かれるなんてね。」


「あ、はは。な、何と言えばいいか……。」



言い訳をするのであれば、ロベルトもH隊(ホテル)も常に警戒はしていた。


しかし、その対象は魔力持ち。


彼等からすると魔力を持たぬ平民など警戒には値しない為、対応が後手に回ってしまった。


強者故の油断。


それはロベルトが最も警戒し、注意を払っていた事だった。



「平民の有用性を説いている私だが、知らず知らずに驕り高ぶっていた様だ。 口では平民と貴族の能力に差はないと言いつつ、平民などどうとでも出来ると感じていたんだ。 はははっ。

実に滑稽だと思わないか?」



自嘲するロベルトの圧が止まらない。

既に物理的な力すら持ってウィンドブルム伯爵の全身を押さえ付けている。



吟遊詩人達は彼を一騎当千の英雄だと持て囃す。


なるほど。その通りだ。


ウィンドブルム伯爵としてもそれを否定することはない。


しかし、奴等は知らないのだ。

なんなら想像する事も出来ないのだ。


敵兵とは言え、1000人の人間が死ぬ様を。

それをたった1人で行える化け物と対峙する哀れな人間の気持ちを。


内心どころか全身から冷や汗を流しながらウィンドブルム伯爵は心の中で叫ぶ。



堕落した?

確かにそうかもしれない。


戦場で見掛けた、あの頃の公爵と騎士団だったなら、娘に近付く悪漢など例え相手が何者でも瞬く間に細切れにしただろうさ。


あの頃の公爵ならあんな馬鹿共に出し抜かれることもなかっただろうし、こんな状況も生まれなかった。



―――しかし、今目の前にいるのはあの頃と遜色のない化け物がいる。


常に返り血に汚れ、冷徹な殺気を纏った赤眼の死神。



堕落するなら最後までしてくれよ。

迷惑なんだ。中途半端に人の皮を被らないでくれ……。




「―――さて。私としては腹の探り合いをする気はない。君達のやった事は把握している。」



ロベルトは伯爵の対面のソファに勝手に腰掛けそう宣言する。


彼の後ろには義眼義足の騎士ゴーウェンが立っているのを見て、ウィンドブルム伯爵はそれを見て驚愕した。



へ、『地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)』!?

こんな化け物がウチの領地に潜り込んでいたのか……!?


い、一体いつから!?

まさか今までずっと泳がされていたのか!??


―――本当はつい1時間程前からなのだが、ウィンドブルム伯爵には知る由もない。



「少し前まではこの都を更地にしてやろうなんて考えていたんだがね。 今は君の驚いた顔を見て少し溜飲が下がったよ。」


「き、恐縮です。」


むしろそれで溜飲が下がるならどんどん見て欲しいと思いながら、ロベルトの意図を推し量ろうとするウィンドブルム伯爵。


公爵の目的は何だ……?



「君はきっと私の目的が分からず訝しんでいる事だろう。 安心したまえ、私とて戦争を望んでいる訳ではない。むしろ逆だ。」


「逆……ですか。」


「そうだ。私は被害者の父親であると同時に、この国を差配する公爵だ。

君をこの領地ごと鏖殺したいと言う気持ちとは裏腹に、君とこの領地がなくなった後の事を考えざるを得ない。


確かに不幸なすれ違いや事故はあった。

大事な愛娘であるジュリアが巻き込まれた事は身が引き裂かれる思いだ。


しかし、それに引きずられ過ぎては駄目だ。

大事なのは国を思い、許し合う心だよ。」



ウィンドブルム伯爵の持つ領地は広大だ。

さらに紡織業で成した財もある。


そして当然、それに見合うだけの税収を国庫に収めている。


そんな伯爵家を潰す事は国内最大の公爵であるロベルトをして補填する事が出来ないレベルの損益を産んでしまう。


だからロベルトは今回の事を水に流すと宣言したのだ。


得るもののない争いに意味はない。

大事なのは《《許し合う》》心なのだと。



「か、閣下の寛大なお心遣い、痛み入ります。」


思わず頭を下げる伯爵。


―――い、生き延びた? これで終わり?

私は死なずに済んだのか?


無数の疑問符が伯爵の頭を埋め尽くす。



「あー、その代わりという訳ではないのだが、今回の事でウチの子ども達が少し暴走してね。君には大人として寛大な心で《《うちの子達のイタズラ》》を許してやって欲しいんだ。」


「え、あ、は、はい! 勿論ですとも!

原因は私の不徳の致す所。甘んじて受け入れさせて頂きます。」



「そうか! そう言ってくれるか!ありがとう!

―――ゴーウェン。今の録音したな?」


「はい。法廷で証拠として使えるレベルです。」


「うむ! 良くやった!」


ずっとゴーウェンがロベルトの後ろに控えていたのはこの為である。


彼の持つ録音魔法でウィンドブルム伯爵の発言は全て録音されていた。


赤眼状態を解除したロベルトが嬉しそうにウィンドブルム伯爵の手を取り握手をする。



「え、いや、え? こ、公爵閣下……?」



不思議そうな顔をした伯爵が口を開いた瞬間、

タイミング良く窓の外で轟音と共に黒い雷と白い炎が吹き荒れた。


伯爵家のすぐ近くにある大きな建物。

極大の黒雷と輝く白炎が労働者ギルドを破壊し尽くすのが見えた。



「こ、これは敵襲―――!? 」


「あー、いや、多分獅子と虎が暴れているんじゃないかな?」


ギリギリのタイミングだったなと、ロベルトの小さな呟きが雷と炎の轟音に掻き消された。



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