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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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月と太陽と森の子の冒険

「いってぇ! このガキゃあ! 噛みつきやがった!」


「くそっ!野良犬みてぇなガキだ!」


「離せこのガキっ! 」



筋肉質の男に頭を掴まれ、机に叩きつけられるシャル。


「シャルっ!」


がらんとした無機質な部屋にジュリアの叫び声が木霊する。


その部屋には事務机を挟んで向かい合う様に粗末な椅子が二脚あるだけ。


まるで取調室の様なこの部屋の隅にジュリアとカーミラは転がされ、シャルが机に座らされていた。



「ぐっ! ―――このクズ共めっ! お前達みたいな悪人の言う事なんか聞いてやるもんかっ!」


そんな事をものともせずに男達を睨むシャル。


目の前には1枚の契約書が置かれていた。


そこには雇用契約書と大きく書かれ、その下には小さな文字で様々な規約が書かれている。



「うーん。困ったな。ここにサインをしてくれるだけで良いんだが、君はそれすらも出来ないのかい?」


机の向かいに座る男が嗤う。


実に嫌味ったらしい顔だ。

貴族と言う訳ではなさそうだが、身嗜みに気を使った清潔な服を着ている。


爬虫類じみた細い目がシャルを見下す。


もしかしたら立場のある人なのだろうと、シャルは内心当たりをつける。


しかし、そんな事はどうでもよかった。



「出来る訳ないでしょうがっ! 何この注意書き! 絶対服従!? 職務時間無期限!? 労働環境の強制可!? 罰則が鞭打ち!? こんなもん奴隷契約以外の何ものでもないでしょうがっ!!

つぅか! 何で私がこんなもんにサインしなきゃいけないのよ!」


「ふぅむ? どうやら君は文字が読めるんだね。

まだ幼いのに大したもんだ。」


いけしゃあしゃあと言い放つ対面の細目の男。


―――冷酷な瞳だ。


似た様な印象をロベルトにも抱いた事があったシャルだが、まだあちらには可愛げあった。


しかし、この男からはこちらに対する心配りも気遣いもない。


この男はただ相手を人として見ていないのだ。


この契約書からも嫌な気配がプンプンする。

間違いなく良くない魔法がかかった品だとシャルは当たりをつける。


この手の契約書が糞なのはファンタジー作品は元より童話からのお約束だ。



「何をどう考えてもこんなの違法で不当な犯罪行為でしょうがっ! アンタら!しょっぴかれるわよ!?」


「犯罪行為、ね? なるほど。 君は頭は良い様だがあまり賢くはないようだ……。 」


「―――ぐっ!」


男はシャルの髪を掴み、睨みつける。


「そんな事は分かってやっているに決まっているだろう? 皆知ってるのさ! この街の領主も! 行政も! 有力者達は皆ねぇ!」


男は嗤いながら爬虫類の様な無機質な瞳でシャルを見下ろす。


普通ならばそれは絶望だろう。


何せこの都市の上層部全てが加担している犯罪に巻き込まれてしまったのだ。


この都市全てが敵。



「そ、そんな……。」


カーミラなどは分かりやすく絶望に俯く。


何せ領主とは行政権や裁判権、軍事権を持つその土地の王なのだから。


しかし―――。



「蛇みたいな奴だと思っていたけど、狐だったみたいね。虎の威を借る狐、まさに諺通りの卑怯者だわっ!」


シャルはそれら全てを鼻で笑ってみせた。



「このガキっ! 言わせておけばっ!」


「てめぇウチの支部長(ギルマス)にっ!」


「ぶっ殺すぞっ!?」



ヒートアップする労働者ギルドの3人組。

殺意のボルテージが跳ね上がる。


瞬間―――。



「シャルを……離せっ!!」



ゴウンっ!と真っ赤な炎が3人組を包み込む。


「あづい!あづいぃい!!」


「た、たすげてっ!」


「うわぁああああっ!!」



「え、ちょっ!? み、『水よ』っ!!」



慌ててシャルが火達磨になった3人組に水をかけて消火をするが、焼け焦げた3人は哀れにも床を転がった。


「な……!? ま、魔法!?」


その細い目を見開いて驚愕する労働者ギルドの支部長(ギルマス)



「人の親友に……! シャルからっ! その汚い手を離せ! 下郎っ!!」


感情の昂りに身を任せ、さらに炎を撒き散らすジュリア。


その血筋は王家に連なる公爵家の血筋。


莫大な魔力はジュリアの制御を外れ、完全に暴走していた。


その怒れる姿は、炎のドレスを身に纏う女神の様にすら見えた。



「ジュリア!? と、止めて! 炎を止めて!

全部燃えちゃうっ!?」


「ひ、ひぃいぃいっ!!」


「に、逃げろっ!」


「ば、化け物っ!」


「くっ! 不味いぞっ! 早く伯爵に……!」


堪らず労働者ギルドの4人は逃げ出した。




「―――はぁ、はぁ、はぁ、お、落ち着いた?

ジュリア。」



取り残された部屋は酷い有様だった。


部屋の至る所は黒く焦げ、シャルの水魔法で水浸しになっていた。


「……うん。ご、ごめん。シャルやカーミラさんまで巻き込んじゃう所だった。」


「ふふん。シャーロット様を見くびらないでよね! この程度の炎、私の水ですぐに消し止めちゃうんだから! そんな事よりあーあーあー!

貴女こそ酷い有様じゃない! 服焦げてるじゃないの! 火傷は? どこか痛い所ない? もう!

歩きにくいわね! アイツらも手枷ついでに足枷も外してくれれば良かったのに! カーミラ婆ちゃんは!? 生きてるわね!?」


いつもの調子で話しながらも、ジュリアとカーミラを心配するシャル。


書類へのサインを迫られる際に彼女だけが手枷を外されていた。



「ゴホッゴホッ、何とかのう。 しかし、お前達本当に貴族じゃったんじゃな……。」


両手足を拘束されたままのカーミラが何とか身を起こして応える。


「私は違うけどね! ジュリアのお父さんならあんなケチな犯罪者共一捻りだから安心して!」


ボロボロの格好でニッと笑うシャル。


「そうだね! お父様なら絶対何とかしてくれるわ!」


釣られてジュリアも笑う。


「期待させて貰うよ。……しかし、取り敢えずの危機は脱したけど、状況はあまり変わっておらんのが問題じゃ。せめてこの首輪だけでも取れればのう……。」


忌々し気に首輪を触るカーミラ。


首輪には南京錠の様な錠前が着いており、そこでロックをしている構造だ。



「うーん。流石に炎や水だとどうしようも出来ないしなぁ……。 何か硬い物が―――。」


「そうねぇ。硬くて形が自由に変えれたら何とでも出来そうなんだけど―――。」



ハッと2人が顔を見合わせる。


それはウィンドブルムに来る時にロベルトから教わった魔法使いの基礎魔法。



「「障壁魔法っ!!」」



バギィン!


2人は南京錠のU字になっているツルの部分に障壁ブロックを作り出し、そのまま障壁を大きくさせて錠本体を破壊する。



「はっはーん! どおよ? 婆ちゃん! 私の魔力操作技術! 伊達に産まれてからずっと魔力をこねくり回してた訳じゃないのよ!」


異世界転生者の嗜みとして、産まれてすぐの魔力訓練を欠かさず行っていたシャルは簡単に障壁魔法を使いこなし南京錠を破壊して見せた。



「むぅー。産まれてからとかまた適当言って!

私は5歳からやらされてたのにぃ! シャルって本当に謎だわっ!」


「ほっほっほっ! いい事? 良い女はミステリアスなものなのよ?」


上手く障壁魔法を操れずにむくれるジュリアを楽しそうに煽るシャル。


そこには先程までの暗い感情はなく、2人は年相応の顔で笑いあっていた。


そんな2人を見て祖母の様な顔をしたカーミラは

サッと手を振る。



「ありがとよぅ。2人とも―――。」



カシャァンと音を立てて2人の拘束具

がひとりでに外れ地に落ちた。



「え、すごっ……。」


「ど、どうやったの!?」


目を見開いて驚く2人にカーミラは優しく笑いかけ、その頬に手を添える。


「ワシら森人族(エルフ)は別名、精霊の愛し子。

あんた達人間の魔法とはまた少し違った魔法を使うのさ。精霊魔法って言うんだけどね。 」


カーミラの言葉とともに魔力が動く。


2人の身体が光ったかと思うと、擦り傷や打撲、小さな火傷が綺麗に消えていた。



「うっそ……。」


「傷が……。」



「恩人に傷なんか残しちゃあエルフの名折れさね。 でも―――。」


2人を見ながらカーミラは眉をひそめる。


「アンタ達! 無茶ばっかりするんじゃないよ! 折角美人に産まれたのにあんなに傷だらけになって! もし傷が残ったらどうするつもりだったんだい!? 特にシャル嬢ちゃん! ワシぁ見てて気が気じゃなかったんだっ!」


「ご、ごめんて婆ちゃん!」


「ご、ごめんなさい!」


「まったく! 恩人にこんな事言わせるんじゃないよ!」



そう言ってさらに手を振ると、燃え残っていた契約書がふわりと浮いてカーミラの手元に飛んで来る。


「やっぱり……。この契約書もワシらエルフの技術が使われているね。」


まるで汚物を触れる様にしかめっ面で契約書を摘むカーミラ。


強制契約書(ギアススクロール)。年老いたワシからしても古い呪術じゃよ。もしこの契約書に名前を書いたら、契約は絶対遵守。 もし逆らったりしたら最悪死んじまう。」


「はん! やっぱりね! ファンタジーのお約束ってやつよ!」



ちなみに、ドヤ顔をしているシャルなのだが、実は原作ゲームでも同じ物が出て来ていた。


キャラ萌え派であるシャルはそんな設定はすっかり忘れていたのだった。



「なぁジュリア嬢ちゃん。本当にシャル嬢ちゃんは分かっていたと思うかい……?」


「んー、半々……かな?」

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