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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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お父様と職人達

そのエルフの店主(カーミラさんと言うらしい)に言われるまま、シャル君と2人で店の奥に入ると、そう広くもない店の中には所狭しと様々な生地が並べられていた。



「嬢ちゃん。あんたのやりたい事は分かった。でも、それをやるなら生地のバランスを整える必要があるのは分かるじゃろ? どんな生地を使うつもりなんじゃ?」


生地を積み上げた棚を縫うようにして奥へ進んで行くカーミラ女史。



星絹(ステラシルク)風花綿布ウィンドブルムコットンを主に使うつもりよ。飾りにレースやサテン、チュール生地も。」


「そうなるとコットンの質には特に拘る必要があるのう? 紛い物の風花綿布ウィンドブルムコットンなんかじゃどれだけ市場を漁っても無駄じゃよ。」



紛い物……?


荒屋と言っても差支えのない古い店の奥、生地を詰めた棚に囲まれた小さな机。


そこにドン!っと2巻の生地が置かれる。


それは色鮮やかな赤と夜空の様な黒の生地だ。



「―――妖精綿布・赤フェアリーコットン・レッド。ワシら森人族(エルフ)が代々受け継いできた伝統の魔力紡績技術。その集大成たる紅のコットン生地じゃ。」


「すっご……! 何この艶に滑らかさ……。

シルク何か目じゃないくらいの肌触り。その癖このドレッシーな生地感……。まるで1本の糸から紡いだみたいな質感じゃない!」


信じられないものを見てしまったかのように、目を丸くして驚くシャル君。



それはまるで炎をそのまま布に落とし込んだ様な鮮烈な赤。


見る角度によってキラキラと揺らめき、強烈な存在感を感じとれた。



「お目が高い。その通りじゃ! 森人族(エルフ)の魔力だけを何年もかけて馴染ませた珠玉の逸品。

ワシらの技術の表面を真似ただけの風花綿布ウィンドブルムコットンには出せん味わいじゃ!」


「エルフの伝統ねぇ?中々どうして、響く事言うじゃない。でも、ここまでの逸品だとむしろ絹をコットンが喰いかねないわね……。」


その小さな顎に手を当てて悩むシャル君を鼻で笑うカーミラさん。


「はん! 皆まで言うんじゃないよ! 小娘!

そんな事は分かってる。 今はしがない問屋業をしておるが、これでもワシはエルフでも指折りの針子じゃぞ? ―――そこでこれじゃ。」



針子と言うと単に縫製を担当する人くらいのイメージだったのだが、カーミラ女史の言う針子とはデザイナーや職人みたいな意味だな。


シャル君に負けず劣らず口悪いし……。



カーミラ女史はそう言いながらもう1つの黒い生地を示す。



そこには星が輝く夜空が切り取られていた。


どこまでも深い黒。

しかして、それは全てを呑み込む漆黒ではなく美しく輝く星が散りばめられていた。



「―――自分の語録の少なさに嫌気がさすわ。

凄い以上の言葉が出てこない……。

これもエルフの逸品なの?」


「そうじゃよ。かつてはエルフの王族しか着る事を許されなかった秘伝であり秘宝―――。

輝きの夜天絹(トゥインクル・シルク)

これ以上の品を見つけるのは長命種でも難しいじゃろうな。」


「―――買うわ。あるだけ全部。勿論、言い値で構わない。

……ね? 良いでしょ? 予算が足りないなら幾らでもタダ働きするから! 絶対欲しいの! お願いっ!!」


真剣な顔でシャル君が強請る。



まぁこれが良い物である事は私にも分かる。


確かにウィンドブルム領の魔力紡績技術はエルフの技術がベースだと聞いた事があった。


これを見た後だとウィンドブルム製品を紛い物と言うのも頷ける。


技術力の差は、元となったエルフに一日の長どころか百日や千日くらいの差がある様だな。



「はぁ、分かったよ。君には敵わないな。」


そう言いながら懐から小切手を取り出す。



「毎度あり。……しかし、今日は良い日じゃ。

この店の最後に嬢ちゃんみたいな熱意のある服飾屋が来てくれた。ありがたい話じゃ。」


「は? え? さ、最後? 閉店……するの?」



寂しそうな笑顔で頷くカーミラ女史。



「同朋の為と思って色々と手を尽くしたんじゃがのう。 結局、皆()()になっちまったのよ。

ワシもこの数年で随分と借金を重ねたし、ここらで店を畳んで派遣生活じゃ。」


派遣……。

あー、派遣かぁ。



「は、派遣? 派遣社員なんているの? ファンタジーなのに?」


首を傾げるシャル君。


彼女はウチの領地の産まれだ。

フィンスター=ヘレオール領は雇用が安定しているからあまり馴染みがないのだろう。



特別契約派遣労働者制度。


管理組織としては国営ギルドである労働者ギルドがしている。


借金等の一定の債務を持つ者や、仕事がない者は労働者ギルドに登録をすることでギルドから一定の賃金や配給を得ることが出来る。


何ならギルドが借金を肩代わりもしてくれる。


寝るところがない者については一定期間の宿も世話をする。


その対価として、ギルドが指定するあらゆる作業を行わなければならない、と言った制度だ。



派遣される地域にもよるが、人がやりたがらない過酷な3K労働が基本になる。


ちなみに、ギルドへの借金がある場合は拒否権はない。



「――はぁ!? それっぽく言葉を飾ってるけど、そんなの奴隷制度と何が違うのよ!?

借金を理由に組織に紐付けして好き勝手使う気マンマンの悪法よ!」


「いや、一応派遣先の仕事もちゃんと国が定めた法律に則ってる仕事だから……」


ぷりぷりと怒るシャル君を宥める私。


いや、同じ元日本人として言いたい事は分かるけどさぁ。色々と制度を作った時の時代背景とか事情があるんだよ……。



「まぁ嬢ちゃんが言うように色々と問題はあるがね。実際の所、ワシらの様に住む所や仕事をなくした他人種も面倒を見て貰えるって言うのはありがたい話なんじゃよ。」


あぁ、なるほど。

カーミラ女史達、エルフは戦時中に住む所をなくして難民になったんだったな……。



丁度、ウィンドブルムの北側にある大森林。

魔族の国との境目くらいに小さなエルフ達の集落があったはずだ。


多分、彼女達は戦争で住む所をなくしてウィンドブルムまで流れて来たんだろう。



「ちなみに、カーミラ女史。次の仕事は何を?」


「ここじゃワシらエルフの仕事は決まって魔力紡績関係さね。ここ何年かでウィンドブルムの紡績技術が上がってるじゃろ? その原因がワシらエルフの派遣労働者って訳じゃ。」


派遣労働者とは言え、針子に戻れるのは嬉しい話じゃと笑うカーミラ女史。


うーん。 ウィンドブルムの技術向上とエルフ達皆が派遣労働者になっている事実……。


そして借金……。


嫌だな。あぁ嫌だな。

何だがとっても嫌な予感がする……。



「何それ!? 絶対怪しいじゃないっ! そもそも借金を理由に働かせるとかヤクザな――。

……ねぇ。何でそんなソワソワしてるの? あ! もしかして!?」


う、バレたか……。


そう。何を隠そうこの制度、実は日本の労働者派遣法や生活保護等の制度を参考に私が作った制度なのだ。



色々と問題が起こることは分かっていたが、労働者階級の識字率の低さや各制度への理解の足りなさが問題で創設せざるを得なかったというのが実情だ。


この国全般の教育レベルが低いから小難しい法律や制度を作っても理解して貰えないのだ。



特に戦後すぐの頃は本当に何もなかった。


金もなければ物もない。

当然、仕事だってない。


食料支援をしても所詮は一時しのぎ。


食う物に困って犯罪に走られても困るし、仕事がない者を食い物にする悪徳業者もいた。


この派遣法は仕事がない者が溢れた現実に対処する為の苦肉の策だ。



取り敢えず金や仕事がない奴は労働者ギルドへ行けば何とかなる。


戦後の黎明期を、私は前世で言う所の大阪のあいりん地区などの日雇い労働スタイルで乗り切るしかなかったのだ。


元日本人からすると微妙な組織と法律だが、現地人からするとここで登録すれば食うに困らないのでそれなりにありがたい組織だ。



「ぬ、ぬぅ。悔しいけど戦後の話をされると戦争を知らない私には反論し難いわね……。」


「まぁ実際の所、時代に合っていない法律っていうのは結構ある。でも、戦時中や戦後すぐの法律が今の制度に組み込まれてるから中々変え難いんだよなぁ……。」


そう言う意味で言うならば、これも戦災に分類される問題かもしれないな。



「……あ、あんたらは一体――。」



ガシャン!!


カーミラさんの言葉を何かが割れる音が遮る。



「店主のババアを出せって言ってんだ!」


何やら店の外が騒がしいな……。

一体なんだ?

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


続きを読んでいただけそうでしたら、

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