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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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お父様と紡績の都

ウィンドブルム伯爵領。


星絹(ステラシルク)風花綿布ウィンドブルムコットンに代表されるファンタジー紡績業で有名な地域だ。


たかが布切れの産地と馬鹿にするなかれ。


前世でもシルクロード貿易や産業革命以降の綿花貿易など、そのたかが布切れの為にとんでもない巨額のお金が動いていたのだ。



王国北部は私が管轄しているが、ウィンドブルムは別に私の管理下にある訳ではない。


戦後15年。


ウィンドブルム伯爵はその高い資金力を背景に、北部でも有数の貴族として名を馳せている伯爵である。



「あはははははっ! 凄い!凄い! バイクなんか目じゃないくらい早いっ! どお? 乗り心地は?ジュリア!?」


「うん! 大丈夫! お父様の障壁のお陰で風も感じないしね! 景色だけ凄いスピードで流れて行くのが面白いわ!」



私の耳元でシャル君が笑い、私の胸元でジュリアが驚く。


色々あって結局私がシャル君をおんぶしてジュリアをお姫様抱っこして数百kmを走る羽目になってしまったのだ。



その原因は意外にしっかりしたこの世界の貞操観念にある。


シャル君は平民なのであまり問題にはならないのだが、問題はジュリアだ。


女児とは言え、未婚の貴族女性を婚約もしていない男性が担ぐのは如何なものかとベスから物言いが入ったのだ。


そうなるとジュリアを担げるのは私かレオナルドとなるのだが、赤眼の扱いの慣れを考慮すると必然的にジュリアの担当は私となる。


しかし、私としては問題ないのだが、少々ジュリア的には気まずい感じになってしまう。


なので多少の紆余曲折を経て、シャル君も私におんぶされると言う形で落ち着いたのだ。


勿論、シャル君の身体を直接触らない様、柔らかい布や紐で作った簡易の介助ベルトを使っている。



「シャル君も大丈夫か? 補助ベルトがあるとは言え、長時間担がれているのも辛いだろう。

適度に休憩を挟むつもりだが、2人ともしんどくなる前に遠慮なく言いなさい。」


「「はーい」」


女児2人が楽しそうに返事をする。



まぁ2人とも魔力を身に纏う魔纏状態をしっかりと維持出来ている。


この感じなら数時間くらいは問題なさそうだ。



「しっかし、面白いわねぇ。 何でこんなに凄いスピードで走ってるのに風を感じないの?

やっぱり魔法?魔法なの!? ジュリアが障壁とか言ってたわよね!?」


「魔法と言うより魔力制御の発展だな。

魔法は必ず地水火風の属性が付帯されてしまうが、属性を付帯させずに魔力を魔力のまま運用すると不可視の障壁を生み出せるんだ。

―――こんな風にな。」


ヴォンと私の目の前に無色透明な小さな板が出来上がる。


本来は目で見えないはずのその壁は、魔力を扱える者であれば感覚的に捉える事が出来る。



「凄い! 目で見えないのに確かに小さな板があるって分かる!」


驚くシャル君。

彼女は平民だからまともな魔法を習った事がないのだろう。


「これが障壁魔法。 身体能力強化と同じく、無属性魔法と呼ばれる魔法使いにとって大事な基礎魔法の1つだ。


後は簡単。これを私達の周りに展開して風避けにしているんだ。」


「……多分、単純に覆っているだけじゃなくて、より風を切り裂く様な形状で展開してるのよね? 判りにくいけど、これは円錐形かな?」



お、正解だ。


私は障壁を展開する時、なるべく他者に判別し難い様に構築している。


流石に障壁自体を完全に隠す事は出来ない。


しかし、障壁を1枚と見せ掛けて複数枚展開して強度を上げたり、球形と見せ掛けて違う形にしたりするだけでも戦場では相手の意表を突くのに有効だった。


移動時でも同じ出力で走るなら、少しでも風の抵抗を避けた方が早いし燃費も良い。


この手の地味な小技は私の得意とする所だ。



「お父様は凄い魔法使いなんだよ!? シャル!

なんて言っても大戦の英雄なんだから!」


ふふん!と嬉しそうにするジュリア。



人間色々と思う事がある相手でも、楽しく会話さえ出来れば多少のぎこちなさは何とか出来るものだ。


それもこれもシャル君のお陰だな。

まぁこうなった原因は彼女だから、しっかりと会話を回してもらわないとだが……。



旅程は非常に順調だ。


チラリと周りを見るとレオナルドやアラン君、ユーリア君の3人も楽しそうに話しながらちゃんと着いてきている。


護衛役のH隊(ホテル)も警戒こそしっかりとしているものの、その様子は余裕のある表情をしていた。



領地を出て数時間、こんな調子で話しながら進んで行くと街道の先にウィンドブルム伯爵領が見えてきた。


王国―――、特に北部では明確な領地の境界線は設けてはいないのだが、この辺りは非常に分かりやすい。



「うわ、すっごい! これ全部綿花畑!?」


まるで真っ白な雪玉のような綿花の畑が地平線の遥か彼方まで続いている。


織物の都と呼ばれるウィンドブルム伯爵領ならではの光景である。



その光景をみて皆驚いた顔をしている中、シャル君だけが違う意味で驚いた顔をしている。


「え、ちょっと待って? 綿花の収穫時期って秋じゃなかった? そもそもこんな緯度の高そうな寒い地方じゃなくて、もっと熱帯とか亜熱帯の乾燥した気候の植物だったはずよね?

ま、まあ私の知ってる綿花と種類が違うのかもしれないけど……。」


お、いいことに気付いたな。


そう。シャル君の言う通り綿花の主な産地は亜熱帯地方だし、春に種を撒いて秋に収穫というのがこの世界でも普通だ。


「いや、シャル君の認識で合っている。

この地域の栽培方式が他と大きく違うのだ。


―――何でも土壌に大量の魔力を浸透させ、魔力エネルギーを持って植物の成長を促進させているらしい。


ほら、あそこを見てみなさい。」



私が指を刺したのら綿花畑の真ん中付近。

一定の間隔で大きなポールが等間隔にズラリと立てられている。


そのポールの上には大量の小さな水晶の様なものが積み上げられたカゴが設置されていた。


運動会の玉入れの籠がイメージが近いかな?

水晶がキラキラしているから篝火と言われればそう見えなくもない。


あの水晶こそがファンタジー作品であるあるの魔石と言うやつだ。


魔力を含んだ結晶体で、この世界の様々なエネルギー源に使われている。



「―――魔導具、ですよね? レオナルド様。」


「あぁ。本で読んだ程度の知識だが、あのポールは筒になっていて、魔石の魔力を加速させる機構になっているらしい。その力を利用して土壌に魔力を浸透させるんだろう。」


「御館様の作った、その、ス、スプリンクラーみたいな感じですね!」


「あ、ああそうだな。ス、スプリンクラー、みたいだな……。」


レオナルドとユーリア君が異様に照れながらスプリンクラーと言う単語を連呼している。


……君達、スプリンクラーで何したの?



「―――なるほどね。大抵の事は魔力や魔法で解決できる世界って事ね!とってもファンタジーだわ!」


「……ねぇシャル。よくファンタジーって叫んでるけどそれってどう言う意味なの?」


ジュリアがこてんと首を傾げてシャル君に尋ねる。……君、よく叫んでるの?

あぁいや、うん。叫んでるね……。


「単なる感嘆詞よ。夢みたいな、くらいの意味ね!」


「ふーん?」



夢みたいな、ねえ。


確かに元日本人としては、ここはファンタジー溢れる世界だと思ってしまう。


それは否定出来ない。


でも、同時にここは現実なのだ。


様々な種族に分かれたニンゲンが住み、しがらみやら忖度やらそんな物が山ほどある現実だ。



嬉しそうに笑うシャル君を見て、そんなつまらない大人の意見を私はグッと呑み込んだ。

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