とあるライバル女子の初めてのお友達
私の名前はジュリア。
ジュリア・フェルーネ・フォン・フィンスター=ヘレオール。
私はずっと誰かの1番になりたかった。
だって、私は産まれてから一度も誰かの1番になった事がないからだ。
私の周りには両親と3人の兄、執事や数え切れない程の使用人がいる
なんて言っても公爵令嬢なのだ。
きっとこの国で1番恵まれた女の子だろう。
でも、それは私からすれば当たり前。
こう言うと傲慢に聞こえるが、生まれてからずっと過ごしてきた環境を特別だと思えと言うのも難しいと思う。
そう。全ては私にとって当たり前なのだ。
周りの大人達が私に気を使うのも、望めばどんな物だって手に入るのも、
―――周りの人達が私を見ようとしないのも。
理由は分かっている。
それこそ、私が彼等の1番大事な人ではないからだろう。
お父様とお母様はお忙しい人だから話した記憶はほとんどない。
何度かお母様とは剣や魔法の話をした事があったが、それらがあまり好きじゃない私は上手くお母様と話す事が出来なかった。
あの時のお母様は少し寂しそうな顔は今でも思い出す。
3人の兄達ともあまり話した記憶はない。
レオナルド兄様は私が小さい時はいつも勉強ばかりしていたし、勉強をしなくなってからはいつも怒ってばかり。
エドワード兄様は普通に話はしてくれるが、いつもその目は私を見ていない。
多分、私なんかよりも大事な事が兄様にはあるのだろう。
ドミニク兄様は家族の中で1番優しい。
でも、絶対に私に触れようとはしない。
1度だけ理由を聞いた事があって、その時兄様は上手く力を制御出来ないからだと言っていた。
……でも騎士団の人達とは普通に接する兄様を見て、あぁお兄様は私だから触れようとしなかったのだと思い知る事になる。
―――別に大事にされていない訳ではない。
使用人の皆はいつも私を壊れ物の様に大事に扱ってくれる。
私がどんなにワガママを言っても彼等はそれを叶えてくれる。
でも決まって皆二言目にはこう言うのだ。
御館様に許可を得れれば。
奥様に確認をして来ますね。
確かに私は大事にされている。
でも、決して私は誰かの1番ではないのだ。
そう考えれば全ては納得出来た。
お父様もお母様もお兄様達も使用人達も。
私より優先すべき何かを持っているのだ。
そこで私は考えた。
どうすれば私も誰かの1番になれるのだろうか?
この国は王国だ。
つまり、王様が1番偉い。
社交界デビューをした時に見掛けたウィリアム王子と婚約すればそうなれるかとも思って、彼と婚約をしてみたいとお母様に我儘を言ってみたりもした。
王子との婚約を勧めてくれたのは、お友達の貴族の令嬢達だった。
皆異口同音に私なら大丈夫、お似合いだと言ってくれていた。
今思うと、大人達はまた我儘娘が何か言い出したとか思っていたのかもしれない。
でも、私はこの方法しか知らないのだ。
心に薄らとしたストレスが降り積もり続ける。そんな私の代わり映えのない日常。
―――そんな日々に大きな転機が訪れたのは春になる前の事だった。
彼女は美しい子だった。
少し癖のついた黄金を溶かしたような長い金色の髪。
特に目を引くサファイアの様に輝く蒼い瞳。
白磁の如く透き通る白い肌。
明るくよく笑い、 楽しそうに喋るその在り方は太陽みたいだと思う。
まるで神様が自分の理想を全て詰め込んだ様な特別な女の子だ。
シャーロット・ホプキンス。
彼女とはたまたま屋敷の中庭で1人、お茶をしていた時に出会った。
まるで親しい友人と偶然街中で出会ったかのように、あの大きな蒼い目を見開いて驚いて私に声を掛けて来てくれたのだ。
「じゅ、ジュリアたん!? あ、貴女ジュリアたんじゃない!? ヤバい!ビジュやばい! 可愛いっ!なんで!?なんでここにいるの???
え、まって!? ジュリアたんが息してる!?
ジュリアたんが存在しているってこと!?
あーむりむりむり! 存在が尊すぎて死ねる!
浄化する!―――うっわ!なにこれいい匂い!
染みるわー。五臓六腑にジュリア臭が染み渡るわー。やっぱいるわ。神様いるわ。え?つまりジュリアたんは……神?」
……思い返すとだいぶ不審者寄りな気もする。
私は息をしてちゃんと生きてる。
勿論、神様でもない。
ジュリア臭って何? そんな臭う? 私。
でも、そんな調子でシャルは私に話し掛けて来てくれた。
「あー、わかるわー。世界観の共有って言うかさ、そう言うの出来る奴がいないと孤独感みたいなのめっちゃ感じるよね! 表面上の付き合いしか出来ないみたいな? 私それが出来ない奴とは絶対友達になれないと思う! 音楽性の違いってヤツよね!」
シャルは話し方こそまぁアレだが、地頭が良いのだろう。
話の中で私の中の漠然とした孤独感を言葉にしてくれた。
そうか……。私は同じ目線を共有出来る人が、友達が欲しかっただけなんだ……。
シャルには社交界で出会った他家の令嬢達とは違う、不思議な包容力があった。
だんだんとシャルに惹かれていくのが自分でも分かった。
「王子様ねぇ? まあジュリアが言うならいいんじゃない? 私としてはそんなどこの馬の骨ともしれない青瓢箪にジュリアを養える甲斐性があるかは疑問だけどねぇ。」
……うん。その青瓢箪はこの国の第1王位継承者と言う馬の骨だ。
この前の社交界デビューで知り合った令嬢仲間達は皆キャーキャー言っていたのだが、ジュリアからすると甲斐性なしを疑うレベルらしい。
王子で疑われるなら、シャルが満足行く私の結婚相手って皇帝とかくらいしかないんじゃないだろうか?
「え? 皇帝? ないないない! あんな根暗サイコパス野郎にジュリアを任せるなんて有り得ないわ! え、でも待って。 今私が自殺したらワンチャン皇帝に転生とか出来ないかな? そうしたらジュリアと結婚して……。あ、駄目だ。年齢差があり過ぎるか。それなら皇子とかかな?
どうせあの帝国の皇子とかヘタレのクズ男だし私と入れ替わっても良くない?」
……たまにシャルが何を言っているのかよく分からなくなるが、取り敢えず自殺するのはやめて欲しい。
そして皇子と入れ替わるとか、もう犯罪を通り越して狂気の沙汰だと思う。
男とか恋愛とかは兎も角、綺麗になるのは女の子の特権よ!なんて言ってシャルは私に色々な事を教えてくれた。
お化粧や服装、ちょっとした仕草であったり立ち振る舞いなどなど。
家の淑女教育でも同じような事をしているが、シャルのそれはより洗練され、体系化されたものだった。
「いい? ジュリア。―――美は細部に宿る。
昔の巨匠が言った言葉よ。
本来の言葉の意味は細かい所まで拘りなさいとかそう言う意味なんだけどさ。
逆に言えば、美醜の差とはちょっとした違いでしかないの。ほんの数センチのボディラインの差や、ほんの数ミリの顔のパーツ配置の差で美しい人とそうでない人が生まれる……。
そしてその差を埋めたり、より研ぎ澄ませるのがビューティアーティストの仕事なの。」
シャルの手はまるで魔法みたいに美しい物を生み出していく。
彼女が施すメイクや髪型、デザインする服や靴、アクセサリー……。
綺羅星の様に輝く美の結晶を作り出すのだ。
……これだ。
具体的に何がしたいのかはまだ分からない。
でも、これだと思ったのだ。
私もシャルと同じ物を求めたい。
シャルの持つ美しい世界を共有したい。
そう言うとシャルはまるで太陽みたいにキラキラと笑う。
「良いわよ! ジュリア!私が貴方をツイッギーやリサ・フォンサグリーヴスなんて目じゃないくらいのスーパーモデルにしてあげる!」
シャルの言葉は相変わらずよく分からない。
でも、それは何だかとても凄くて素敵な事のように思えた。
きっとシャルと一緒ならどこまでも行ける。
不思議とそう思えたんだ。
でも、人の父親に抱き着くのはやめて欲しい。
しかも2人っきりの密室で……。
お父様に抱き着いていたのを見た時はびっくりしたけど、シャルは割りと?感情表現が大袈裟なところがあるからまぁ分からないでもない。
シャルらしいと言えばシャルらしいけど……。
私だって年頃の女の子なんだ。
ただでさえ親との距離感に悩んでいるのに、そこをさらに掻き回す様なことをしないでくれ。
私の悩みはまだまだ継続中だ……。




