お父様とドレスの話
「はぁ……。まさか30半ばで息子の嫁との関係性を悩むなんて思わなかったよ。」
「前世からすると男は30過ぎてから1人前みたいな風潮もあったしねぇ。前世の感覚が邪魔をすると言うか、小さなカルチャーショックの連続よね。異世界転生って。……って言うか良いの? こんな所で管巻いてて。仕事はちゃんとしてるの?」
うん。君のその返し方、完全にオカンなんよ。
5月のゴールデンウィーク初日の昼下がり。
居城に用意されたシャル君のアトリエで私は紅茶を片手に彼女に愚痴を聞いて貰っていた。
「これもちゃんとした仕事さ。出資先である君の仕事ぶりの確認と、今度の夜会で着る衣装の打ち合わせ。後は今後のゲームシナリオの確認。あぁ、私はなんて働き者なんだ。」
ふん、と巫山戯た言い回しをした私を鼻で笑ってシャル君は作業を続ける。
さっきから彼女は何枚もドレスのデザインをキャンパスに描き続けていた。
「仕事はどうだい? 何か足りていないものがあるなら教えてくれ。」
「物は充分。人手は……、まぁこれからね。」
シャル君を雇用すると決めてから2週間ほど。
ウチの居城の空き部屋を彼女のアトリエとし、必要な物を一通り揃えた。
職人とのやり取りはまだ顔見せ程度で、目論んでいた馬車関連の職人の引き抜きはまだだ。
何せまだ服の1着も作っていないのだ。
いきなりアパレル業界へ転身しろと言われても職人達も困るだろう。
30畳ほどの部屋には所狭しと大きな棚が並べられ、様々な素材の見本帳や画集、この付近一帯の歴史書や風土記等が目につく。
「……歴史が好きなのか?」
「仕事用に決まってるでしょう? 衣食住なんてその土地の文化や風土、世相を反映した酷く合理的な物よ。デザインをするなら論理を理解しないと的外れな物しか出来ないわ。
例えば、今私が2020年代のワンマイルデザインなんて持ち込んでも、この世界じゃ笑い者になるだけよ。―――よし。出来た!」
キャンパスを見ると、そこにジュリアと思しき美しいドレスを着た女の子が描かれていた。
目を引くのはドレスのスカート部分。
ふわりと広がる長いスカートの前面は大きく切り開かれ、その中には黒の上品な膝上のプリーツスカートが見えている。
ファンタジー作品でたまに見かける2重スカートってやつだな。
膝丈スカートに裾の広がった長めのワンピースコートを羽織っていると言った方がイメージは近いかもしれない。
「……シャル君。 君、この前は足を出さないデザインにするとか言ってなかった?」
「この世界の風俗を調べて分かったのよ!
魔力があるこの世界では元々男女共に戦う文化があったから女性でもパンツスタイルや足を出したデザインの服が当たり前だったの。
でも、時代が流れるにつれて上流階級の女性達の中で戦いを前提としない長いスカートが流行り出した。言ってしまえば、女のマウントの取り合いね!」
あー、何となく分かるな。
あーら、奥様? 足なんか出しちゃって領地の防衛を頑張っているのねぇ。 ほんと大変だこと。
私なんか最後に戦ったの何かいつだったか覚えてないわ! おーっほっほっほっ!
―――という感じのやつだ。
「んー、そうなるとやはりスカート丈は長くする方がよくないか?」
私とて人の親。
愛娘にそんな見ず知らずの奴にマウントを取られて悔しい思いはさせたくない。
「なぁに言ってんの!? この最強公爵様がっ!
流行りなんてのは作り出すものよ!?
国内最大の公爵令嬢がこれを着れば誰も馬鹿に何か出来やしないし、私がさせないわっ!!
歴史的背景に基いたこのデザインで日和った貴族社会をぶん殴るの! コンセプトは貴族共よ!戦いを忘れるなかれ!! これよっ!
来てる!来てるわっ!!70年代のパンク魂が私の中に芽生えている!異世界のヴィヴィアン・ウエストウッドに私はなるっ!!」
おおう……。
相変わらずシャル君の熱量が凄い……。
でもパンクって社会や権力への反骨精神が根底にあるんじゃなかった?
公爵である私がスポンサーなんだから、君ってガッツリ権力側の人間なんだけど……?
しかし―――。
「戦いを忘れるなかれ、か。やはり乙女ゲーと言っても戦いはあるんだな?」
「ええ、そうよ。中々イカついのがね。
貴方から聞いた前作、B・Bだったかしら? 展開的にはあれとよく似ているわね。
あの乙女ゲー、C・Cも同じく過去に魔族達と戦争があったの。そして、その魔族達との関係性がストーリーの縦糸だったわ。」
あー、基本はブレイブ・ブレイドの焼き回しなのね。 要はギャルゲーを乙女ゲーに作り直したみたいな感じっぽいな。
まぁ私としてはイタズラに戦いを冗長させる気はないが、戦いに備えると言うのは今の情勢的に必要な事だろう。
うん。そう考えると悪くない。
「君の意図は理解したし、このデザインも問題ないと思うからこのまま作成に入ろう。
―――しかし、このデザイン。割りとファンタジー作品でよく見かける気がするのだが……?」
「…………うっさいわね。私がこーゆう感じのデザインが好きなのよ。……別に良いでしょうが! 絶対これジュリアに似合うからっ!
足を出したデザインの服なんか着た事がないジュリアが照れながらこの服を着る所を想像するだけでご飯が進むこと請け合いよ!」
何やら早口で捲し立てるシャル君。
この子は何かあると本当に早口になるな……。
「しかし、君は本当にジュリア推しだな。
乙女ゲー愛好家何だから好きな男キャラとかいないの? ほら、何なら王子様紹介するよ?」
「んー、勿論男キャラも好きなんだけど、乙女ゲーって結構女の子キャラを攻略も出来たりするのよね。C・Cだと最初のエンドは結局ジュリアとの友情エンドだったわ。」
ふむ。女の子が女の子を推すって言うのもよく聞く話だし、そういう事もあるんだろうな。
「私、ちょっと不器用だけど健気に頑張る黒髪キャラがどストライクでさぁ。ジュリアとかホント好きなんだよねぇ。だから今は王子様とかそーゆうのは別にいいかな。折角強力なパトロンも付いたしね! シャルちゃんは友情と仕事を頑張ります!」
そう言いながらウィンクをするシャル君は見た目よりも、それこそ私なんかよりずっと大人に見えた。
「さぁて、バリバリ働くわよっ!
ジュリアの服のコンセプトは決まったし、次は公爵様ね! あ、ついでに息子ちゃんと勇者ちゃんの服も作る!? ねぇねぇ、早く2人に会わせてよ! 絶対イケメンよね! 特に勇者ちゃん!
ぐふふふっ! 楽しみねぇ!」
うん。駄目だこいつ。
早く何とかしないと……。




