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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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お父様と里帰り

この世界、と言うよりこの国の四季や行事は基本的に日本準拠だ。


なので、夏休みやハロウィン、クリスマス、正月も形を変えて存在している。



そして我々官公庁側の動きも日本準拠だ。


つまり、激動の3月決算を迎え、4月の新年度を掻い潜り、やっと一息つけるのが5月なのだ。


日本と同じくゴールデンウィークがあるのは非常にありがたい。


そして大型連休の存在は日本と同じ現象を引き起こす。



つまり、里帰りだ。




「うぉーデケェ! もう普通に城じゃん!

え、レオの家やばくねっ!?」


「―――うるさいぞ、アル。少し静かにしろ!

あぁ、ユーリア。今回はメイドとしてではなく、お母様や弟妹達への顔見せなんだ。荷物は俺が持つから。」


「ふふ。レオナルド様のお荷物ですもの。

未来の妻として持たせて下さいまし。」



玄関ホールに元気な3人の声が響く。

レオナルド達だ。


最後に会ってから1ヶ月くらいしか経っていないが、かなり鍛えられた感じがするな。


特にレオナルドなど、少し前のぽっちゃりさんだった面影なんかまるでない。


少し長めの前髪をセンターパートに分け、学園の制服をきっちり着こなした姿はどこに出しても恥ずかしくない上位貴族の令息だ。



「随分と早い到着だな……。」


何せまだゴールデンウィーク初日の昼前だ。

少し呆れ気味に声を掛ける。


「ええ。 どうせたいした荷物もないですし、

走って来ました。3時間くらいでしたね。」


まぁそうなるな。

馬車の速度と言うのは大した事がない。


時速にして5キロから10キロ。

歩くのと変わらないか少し早い程度だ。


積載量が多いのはメリットだが、速度だけなら赤眼を使える者からすると走った方が圧倒的に早いのだ。



「さて、取り敢えずユーリアとアルに城を案内したら今日の鍛錬を先に済ませてしまいます。

もしお時間があれば、『赤眼武神』のコツを教えて頂けませんか?」



何で数百kmを走り終えた後すぐに鍛錬をしようとしてるの?この子……。


後、気軽に覚えようとしてるけど『赤眼武神』(ソレ)は私の奥の手の1つなんだけど?


いや、教えるのは良いんだけどさ……。



「ま、まぁ久しぶりの本家だ。ゆっくりして行きなさい。 アラン君も遠路はるばるようこそ。

学園でも早速活躍しているそうじゃないか!」


王都屋敷の者から定期的に報告を聞いているが、2人ともよくやっているみたいだ。


トレードマークのツンツン頭の赤髪。

制服はレオナルドと対照的に少し着崩しているが、不思議と彼には良く似合う。



「いやいや、まだまだです。この前の校外学習の時もドラゴンに襲われましたが、レオと2人がかりでも撃退する事しか出来ませんでした。

でも、次は必ず倒してみせます!」


空色の瞳を無邪気に輝かせ力いっぱい無茶な事を宣言する。



……うん。その話は知ってるよ?

だって後処理したのは私だからね?


後からこれが原作ゲームであったイベントだと思い出した時にはいい歳して泣きかけた。



実はこの2人、先月行われた学園の校外学習授業でドラゴンに襲われ、それを撃退すると言う偉業を成し遂げてしまっている。


ちなみに緊急速報で2人の無事を聞いて胸を撫で下ろした私を待っていたのは、事態の後処理と言う苦行だった……。



何せドラゴンだ。


原作ゲームでも上位に位置する魔物で、私ですら独力で倒すのは結構しんどい。


よくよく思い出してみたら原作ゲームにもあったイベントだったから、対策を忘れてた私が悪いんだけどさ?


でも、これ普通に国家でどうにかするレベルの厄災だからね?


間違っても現実で一学生が立ち向かっちゃダメなやつだから。


例えば遠足で動物園に行ったとしてさ?

クマとかライオンが檻から逃げ出したら普通は逃げるじゃん? 何で戦ってんの?


そして、何で笑顔で再戦を希望してるのん?

もうほんと嫌なんですけど、この白炎の勇者。



ぶっちゃけ、学園の警備責任者の首がすげ変わったり、王都警備の関係者が入れ替わったり、なんなら学園長交代まで話が出たレベルだ。


私も王城に緊急招集されたし、国の警備体制の見直しで三徹くらいして会議もした。



ドラゴンに襲われる。



ファンタジー作品ならあるあるのこの一言の重みを身をもって体験した出来事だ。


もう少し冒険者ギルドに予算を回して害獣駆除に力を入れないとな……。


むしろレオナルドとアラン君には監視と護衛を付けるべきか?


ウチの騎士団もそう人数に余裕がある訳ではないから悩ましい所だ。



「お義父様! お久しぶりです!」


まるで向日葵のような笑顔でユーリア君が悩む私に挨拶をしてくる。


いつも通りピンクブロンドの髪をおさげの三つ編みにし、今日はメイド服ではなく動きやすそうなドレスを着ている。


来たな……!この鬼嫁めっ……!



「あぁ、ユーリア君……。ホント君には会いたかったよ。」


「あら、嬉しいです!」


「いきなり君のご実家から送られて来た悲痛なまでの謝罪と魔族テロ組織(オディマ)関連の情報をビッシリ記載した報告書……。説明してくれるよね!?」


懐から辞書レベルの分厚いお手紙をユーリア君に突きつける。


「ああ、それですね! 実は私、先日レオナルド様が校外学習中にお暇を貰って実家に帰ってたんです!」



うん。もうこの一言で嫌な予感がガンガンするんだけど……?



―――――――――

――――――

―――



セーデルホルム家の屋敷は締め切られている。


吸血鬼たる当主とその姉妹の為、昼夜問わず全ての鎧戸は下ろされ、室内ともなると明かりを灯さねばまともに歩くことすら出来ない。


使用人は事情を知る数えれる程度の極小数。


当主は貴族としてどころか人としても最低限のコミュニケーションしか取らない異端の麗人。


本来であれば領主としてまともに機能することは出来ないだろう。


しかして、セーデルホルム家は現当主になってからも20年近く領地を経営していた。




「―――おかしいと思っていたんですよね。」


薄暗い応接室のソファに腰かけ、不自然なほどの優しい笑顔でユーリアは笑う。


「ここに住んでいた時からぼんやりと疑問に思っていたのですが、公爵様の所へ行儀見習いに出てからそれは確信に変わったんです。」


メイドとは言え、間近で領主の仕事を見たユーリアは自分の親がまともな領地経営をしていないのだと改めて理解した。



「な、何が言いたいのかしら? ユーリア。」


ユーリアの対面に座る妙齢の女性。


現セーデルホルム当主。

ユーリアの母親である。


その美しい見た目とは裏腹に、酷く何かに怯えており、その指先は先程から震えている。



「まぁ? 御館様曰く、領地経営を代官に丸投げしている領主も少なくないとの事ですし、そこはいいでしょう。 そんな《《人間》》、私は見た事がありませんが、ね?」


優しい笑みのまま、ユーリアはソファから身を起こし、ゆっくりと立ち上がる。



「知らないと言えば、私の父親。 亡くなったんでしたっけ?」


「あ、貴女のお父様は大戦の時に負った傷が原因で貴女が小さい時に亡くなったのよ!?

知っているでしょう!?」



父親の話を振られ、酷く狼狽える母親にユーリアは優しく笑いかける。



ユーリアの父親は彼女がまだ小さい時に確かに亡くなった。


身体の弱い人だったと朧気な記憶があった。



「別にそこは疑ってませんよ? でも、おかしいんですよね。 オディマと言う魔族のテロ組織がウチの領地にやって来た。 確か、数代前にセーデルホルムに魔族の血が入った縁でウチを頼って来たんでしたっけ?」


「え、ええ、そうね。でも、あの人達に協力なんて―――」



サンっ!とあまりにも軽い音と共にユーリアの母親の両足が切断される。


ユーリアの無詠唱の風魔法だ。



「ぎぃああぁああぁああぁぁああっ!!!」


「妙な話です。そんな不確かな状況でわざわざテロリスト達が人間の国の出不精な田舎貴族を訪ねてくるなんて。」


母親の絶叫を無視して優しく微笑みながらユーリアは独白を続ける。



「あ、あぁ! ユーリア、やめて! お願い!」


「妙と言えば、普通の吸血鬼の貴女から真祖の私が生まれるのも変な話じゃないですか?


―――もしかして、私の父親は吸血鬼だったんじゃないですか? 」



ビクリと大きく震えるユーリアの母親。


その震えは足を切断された時よりも深く動揺したものだった。


「そう考える方が自然なんですよねぇ。

……そして、だからテロ組織はウチを頼った。

いいえ、むしろウチを頼る事が前提だった。

何故ならセーデルホルム家の現当主夫妻は魔族である吸血鬼。そしてこの領地を経営しているのは魔族達だから……。」


母親の前に立ち、ゆっくりとその顔を近づけるユーリア。




「お前、国を売ったな?」




母親を見つめるユーリアの瞳は血よりも深い紅に光っていた。


「違う! 違うの! 話を聞いてユーリア!!

お願いっ! ちゃんと全部―――!」


サンっ!と再び音が鳴り、屋敷の天井や壁が細切れになる。


「い、嫌っ! やめて! やめてユーリアっ!! お願い!お願いよっ!!」


崩れた天井や壁から陽の光が部屋に差し込む。


ユーリアの母親の絶叫と共に、その白い肌が焼け落ちて行く。


全身が焼け爛れた母親の髪を掴んで陽の光から逃げ出せない様に拘束するユーリア。



「レオナルド様がオディマの糞共に狙われた。 それにセーデルホルムが関係していたのなら、私は誓ってお前を嬲り殺す。」


「痛い痛い痛いっ! じ、じでないっ! そんなごとじでないからっ!! だすげてっ!!!」


焼け爛れたせいで上手く話せない母親が必死に弁明するのを微笑みで返すユーリア。


「ふふ。素直にお話してくれそうで嬉しいわ。

お母様。 《《お姉様には少しやり過ぎたけど》》、まぁそのうち治るでしょう。」



慈愛溢れる笑顔をたたえ、しかして愛する者の為なら他人の臓腑を無慈悲に引き裂く鬼女。


その姿は鬼子母神が如く―――。



―――――――――

――――――

―――



「―――なんて事がありました♪」


「いや、怖いよ!? 完全に謀反じゃん!

何サラッと帰省感覚で実家にクーデター起こしてんの!?君!」


「いえいえ、ちょっとした母娘喧嘩です。

姉は……、まぁもう少し寝たきりですね。」


やってる事は完全に拷問だけどね!?



……国的には謀反を起こしていたのはセーデルホルム家とも言えるが、ユーリア君のやった事はちょっとショッキング過ぎると思う。


しかも、ユーリア君の母君からの報告書によればセーデルホルム家がやった事はそんなに悪くはない。


……まぁそこまで良くもないが。



「お父様……。ユーリアからは俺も話は聞いておりますが、これは……。」


「ああ、うん。まぁこの報告書の裏取りも必要だし、完全に許される訳ではないが、とりあえずセーデルホルムは何とかなりそうだ。」


心配そうな顔をしたレオナルドに一応のフォローは入れておく。



手紙によると、そもそもセーデルホルム当主であるユーリア君の母親と亡くなった旦那さんは2人とも吸血鬼なのだが、当時から熱心な戦争反対派だったらしい。


人間や魔族でも家族になれるのだから、種族の違いで争うのはおかしいと言った感じだな。



セーデルホルム家は大戦の中期くらいから、傷痍軍人を助けたり、敵前逃亡した軍人、逃亡した捕虜を匿ったり逃がしたりしていたのだ。


それも人間も魔族も分け隔てなくだ。


戦場と言うのは何千何万人もが入り乱れて戦う為、怪我をして取り残されたり、部隊からはぐれたり逃げたりと数百人単位で迷子が出る。


自国内なら何とかなったりもするが、敵国で迷子になると悲惨だ。


そもそも帰る所がないやつも結構多い。


そんな迷子達をセーデルホルム家は保護し、国元にこっそり返したり、帰る所がない者に仕事や住む所を与えていたようだ。


国家への背信と言えばそうなのだが、これを完全に否定するのも人道的にどうよ?って感じ。



しかし、現在も結構な数の魔族がセーデルホルム領内にいるらしく、オディマの活動の温床になっている可能性は否定出来ない。


直接的な協力はしていなくとも、金銭的な援助はしている奴もいるかもしれない。


これは早急にセーデルホルム領を調査をする必要があるだろうな……。



「確認した所、領内の魔族を管理指導している魔族の長がいるようです。事実上の代官ですね。その人はかなり嫌戦家らしく、もしテロリストの調査や炙り出しをするなら協力させて欲しいと言質は取ってきました。」


「うん。何と言うか基本的に君は有能だよね。ユーリア君。……やる事は過激だけど。」


「いやですわ。初手から殺しにかかるお義父様には敵いませんよ♪」


……くっ。この義娘、勘違いして殺そうとした事をまだ根に持っているのか……!


あの後何度も謝ったのに……!



「……なぁレオ。貴族の家族同士の喧嘩って皆こんなに血生臭いもんなの? それとも公爵家の関係者だけ?」


「アル。それどっちの場合でも俺が血みどろの殺し合いに巻き込まれる事にならない?」



残念ながらレオナルドの何だか切ない疑問に私は答える事が出来なかった―――。

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