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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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30/80

お父様と悪役令嬢

私の領地にある城は無駄に広い。

応接室だけでも5個も6個もある。


その中でも比較的落ち着いた雰囲気の第3応接室に私とジュリアは座っていた。


目の前に座るのは、まるでギャグの様なコテコテのケバいメイクの女の子。



ジュリア・フェルーネ・フォン・フィンスター=ヘレオール。


先日発覚した|原作ゲームの乙女ゲー展開《運命のイタズラ》における推定悪役令嬢。


そして私の愛娘だ。



くそ……。私はどうしたらいいんだ……。

とりあえずジュリアと話をせねばならないのは分かる。


しかし、どう話せば正解なのだ。




「……お父様も私の格好がおかしいとお考えでしょうか?」



濃い化粧の奥でジュリアの瞳が揺れる。

キツく結ばれた真っ赤な唇。

人を刺せそうなくらいに長いキラキラしたつけ爪は震えていた。


これは……怖がっている?



そうか。それはそうだ。


オーギュスト以下、ウチの使用人は全て高等教育を受けた者達ばかりだ。


当然、その審美眼も貴族として相応しく鍛え上げられている。


そんな彼等をして、今のジュリアを見れば婉曲的にしろ何にしろ絶対に否定する。


そう言われた子どもはどう反応するか?



あの夜のレオナルドが脳裏に浮かぶ。



子どもは周りの大人達から否定されればされるほど、むしろ頑なになるものだ。


私とて子ども時代はあった。

それも前世と今世の2回もだ。


きっと間違っているのは周りの大人で、自分だけが正しいのだと思い込むだろう。


前世ではロミオアンドジュリエット現象なんて言葉もあったしな。



否定してはいけない。


それは分かる。分かるのだが……。


こんなもんどないせぇっちゅうねん……!



何せよく言えばヅカメイク。

90年代に流行った山姥メイクとかもあったな。


何にせよその手の類いのゴテゴテしいメイクなのだ。


もう私を笑わせにかかっているとしか思えないケバさだ。


手のネイルだって人を刺し殺せるレベルの長さだよ。普通、貴族なんだし手袋をするだろ?

何でゴテゴテ爪をデコってんの?


確かにこの世界は和製ゲームがベースのなんちゃって中世ファンタジー世界。


史実通りの中世とは掛け離れた世界だ。


しかし、このメイクはあまりにも―――。




「……前衛的、いや、これはもう未来的と言っていい。」



「お、お父様……?」



そうだよ。

確かにこの世界はなんちゃってファンタジー。


でも、ここまで現代的な化粧なんか存在するのだろうか?


口元に手を置いてジッとジュリアを観察する。



「一見、白塗りだけをしている様に見えるが、陰影を付けているな? 視覚効果を上手く取り入れて鼻を高く、顔を面長に見せている。


目もそうだ。周りの黒いラインやラメを使って目を大きく見せようとしているのか……。」



「そ、そうなんです! お分かりになりますか!お父様!! う、嬉しい……!」


目を潤ませて喜ぶジュリア。


しかし、私としてはそれよりもこれを考えたのが誰かが気になって仕方がない。


ジュリアがたった1人考えたのだろうか……?

そうであればウチの子は天才メイクアップアーティストという事になるが……。



「うむ。 足元も厚底のピンヒール。 それに合わせて長い爪をつけて手足のバランスを取っているんだろう? 大人っぽく見せようとしているのだな?」


「そうなんです! 私、身長が低い事がコンプレックスでして……。こうすれば大人っぽく見えるってシャルが―――あっ。」



そうか。やはり第三者が絡んでいたのか……!



「シャル……と言うのは誰だ?」


「え、あ、そ、その……。」


「ふふっ。そう固くなるな。多分、ジュリアのお友達なんだろう?」



落ち着け。落ち着くんだ私。


シャル……、シャーロット?シャルル?

男か女かは知らんが、かなりジュリアと親しそうだ。


そして、未来の化粧技術を持っている。


先日ベスから聞いた乙女ゲー展開。


そう。これは間違いなくシャルとやらは現世からの転生者だ!


恐らくその子はゲームで言う所のヒロイン枠!


ネット小説なんかであるあるの例のあれだ。

私は詳しいんだ。



転生者がいることに不思議はない。

少なくとも私がそうだからな。



問題はそいつが私やこの子の敵かどうかだ。



味方である必要はない。

そいつにもそいつの人生がある。


別に好きなだけ現代知識チートで好きに現世を謳歌すれば良い。


好きに生きて来た私に、それを批判する権利はない。



しかし、そのチートを持って敵になるのであれば話は別だ。


そうなるのであれば、私は私の力も地位も全てを利用してそいつを叩き潰す。


これが私の公爵として、父親としての絶対に引けないラインなのだ。



「私が思うに、その化粧技術は素晴らしいと思う。今までにない技術だ。」



―――これはその通りだ。

なんちゃってとは言えここは中世世界。


現代の専門知識はそれだけで価値がある。

特に服飾や美容関係など私にはない知識だ。


もしそれが手に入るならば、非常に得難いものなのは間違いない。



「もしジュリアのお友達がそんな特別な知識や技術を持っているのなら、ぜひ私にも紹介して欲しいんだ。」


「う、うん。それは多分、シャルも喜ぶ……と思うの。で、でもね?」



何か言い難そうなジュリア。

何だろう? まるで捨て猫を拾って来た子どもの様な反応だ。


口調も先程までと違って敬語ではなく年相応な話し方になっている。



「あ、あの怒らないで聞いて欲しいんだけど、シャルは―――。」


ギュッと目をつぶって言葉を吐き出すジュリア。



「へ、平民なの……。」




「………………ん?」



……次の言葉を待つが一向にジュリアからは続きが出て来ない。


……え? それだけ?



「あー、それだけか? 異様な魔力を持つ戦災孤児だったり、実は魔族の血が流れていて吸血鬼の真祖だったりとかしないのか?」


「……え、う、ううん。シャルは普通のパン屋の女の子だよ? ……それにそんな訳の分からない人なんていないよ? お父様。」


キョトンとした顔で否定するジュリア。


うん。君の兄の親友と義理の姉だよ。



「そ、そうか……。あー、まぁ私自身としては平民や貴族の立場の違いはあれど、その能力に差はないと思っている。だから、産まれで差別する必要はないと思うぞ。」


「そ、そうなのかな? でも社交界で知り合ったお友達は平民は使えないとか駄目だって言うから……。わ、私もそうしなきゃって……。でも、本当はシャルは良い子だしそんな事ないと思うんだけど……。」


スっとジュリアと目線を合わせ、努めて優しく笑いかける。


「そうだね。ジュリアが言うように、シャルという子は良い子なのだろう。


そして、貴族であれ平民であれ得意不得意はあるものだ。産まれで差別するのではなく、お互い得意な事で助け合えたならそれは素晴らしい事だとお父様は思うよ。」



「―――うん。うん! 私もそう思う!」



満面の笑みを浮かべるジュリア。


……これで素顔だったら素敵なシーンなのだが、如何せんウチの愛娘の顔面は山姥仕様だ。


シャルという平民がどんな考えでこんな事をしたのかは分からんが、これは真面目にお話をする必要がありそうだ……。



「シャルとはどこで知り合ったんだい?」


「シャルの家はウチに出入りしているパン屋さんでね? シャルは私と同い年なのにお家の手伝いでウチに毎日パンを配達してくれてるの!」


そうかウチの出入り業者の娘か……。


「その時にシャルと知り合ったのかい?」


「ええ、そうよ! いつもお昼過ぎに来るから多分そろそろ配達に来るんじゃないかしら?」



よし。とりあえずその子を確保しよう。

先ずはそこからだ。



そう心に決めてオーギュストを呼び出した。

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