エピローグ
やはりウチのかみさんは強敵だった。
上位魔族やオディマなんて可愛いものだ。
キングと揃って、いい歳した大人が本気で説教されるとかホントに辛い。
ようやく開放された私は公爵家の馬車に乗って王都屋敷に戻っている。
「しかし、貴方達2人は幾つになってもホントに変わらないわねぇ。」
帰りの馬車の中、クスリと笑うベス。
「いつも2人揃って無茶ばっかりして私はその後処理ばかり。ほんと、懐かしいわ……。」
ベスは懐かしそうに目を細めて馬車の窓から外を見る。
多分、戦場での事を思い出しているんだろう。
私達の青春時代は戦場だった。
公爵家の三男坊だった私や王家でも次男だったカール。
ベスは長女であったが兄が二人いた。
大戦がなければ私達はどう足掻いても今の地位にはいなかっただろう。
家を継ぐ事もなく、適当な家に輿入れをするか、自分の家を興す事になっていたはずだ。
まぁそれはそれで良かったかもしれないし、私達の誰もが今の地位を求めていた訳ではないが……。
人生は塞翁が馬。
何が起こるか分からないものだ。
「色々とあったからな……。」
「―――色々といえば、レオナルドの相手はどんな子なの? 確かセーデルホルム伯爵家の次女よね?」
領地から真っ直ぐに王城に来たからベスはまだユーリア君に会っていない。
ユーリア君。
ユーリア君なぁ……。
何と言うか、見た目は深窓の令嬢だが、中身はちょっとはっちゃけた子だ。
ちょっと愛に狂った一族の出で、ちょっと上位魔族の血が流れている吸血鬼の真祖……。
あれ?そうなると公爵家に魔族の血が流れる事になるのか?
……王国貴族的に不味くね?
しかも産まれてきたのが女の子だった場合、セーデルホルム家の狂愛の性質を継ぐ可能性が非常に高い。
前世知識から言わせると、性格は遺伝しないけれどこの世界はファンタジー。
そういう物なのだ。
ま、まぁ多様性の時代だし、最悪側室と言う手もあるよね。
「あー、まぁなんだ。良い娘だと思うぞ?」
「ねぇロベルト。貴方って見た目は無愛想で無表情だけど、それなりに分かりやすいのをいい加減自覚した方がいいわよ?」
どうやら私がたった今色々と呑み込んだのはバレたようだ。
「セーデルホルム家は魔族との繋がりもあるって噂もあるし、1人に入れ込む有名な家だけど、まぁレオナルドと貴方が認めた子だしね。
私も反対するつもりはないわ。」
……うん。どうやら大体バレてるな。
「純血主義も今どき流行らないし、何よりレオナルドの婚姻が決まらないと他の子達の話を進めれないから公爵家としては丁度良いタイミングだったわ。」
ぬ。そうか。
他の子達にも色々と縁談の話が来ているのだ。
今までは長男であるレオナルドに婚約者がいない事を理由に話を止めていたのだが、流石にそろそろ不味い。
次男であるエドワードが13歳、三男のドミニクが12歳、そして長女のジュリアが10歳。
それぞれ婚約者がいないとおかしい年齢だ。
ちなみに、次男のエドワードは原作ゲームだと廃嫡されたレオナルドに代わりフィンスター公爵家を継ぐ事になる。
1作目の終わりに名前が出る程度なので、運命的に大きな問題はないだろう。
どちらかと言うとややこしいのは三男のドミニクである。
ドミニクは2作目で敵役として出てくるのだ。
大戦により取り潰しになったヘレオール公爵家の忘れ形見。
悲劇の女当主エリザベート・ジュリア・フォン・ヘレオールの私生児。
人間に絶望し、魔族を憎む復讐の騎士。
この世の全てを憎む悪鬼。
それがドミニクのゲームでの姿である。
まぁこの世界ではありえない事態だな。
確かにヘレオール公爵家は大戦で痛手どころか致命傷を負ったが、私とベスが結婚することで取り潰しは回避出来た。
そう。ゲームでは私とベスはおそらく結婚していないのだ。
なので当然、フィンスター=ヘレオール公爵家も存在していない。
……はて? そうなるとゲームだと私は誰と結婚したのだろうか?
私の記憶では、ゲームでは私は出ていない。
何ならベスもチョイ役。
ドミニクの回想で家が取り潰しにあって苦労したくらいのシーンで出てくる程度だ。
―――まぁともあれ、ドミニクも世界を恨んで手当り次第に破壊と殺戮を振りまくこともしないだろう。
ふふふ。どうやらまた知らない内に原作を潰していたようだな。
偉いぞ昔の私。
「一番の問題はジュリアなのよね……。」
溜息混じりにベスが呟く。
ぬ? そうなのか?
……あー、でもそうかもしれないな。
ジュリアはおひい様と言うか、少し甘やかし過ぎたように思う。
簡単に言えば、ワガママ娘に育ってしまった。
「この前、社交界デビューした時に王太子殿下を見掛けてね? あの子、一目惚れしちゃったらしいのよ……。」
…………ん?
ワガママ娘。王太子。一目惚れ。
何だか聞き覚えのあるフレーズだな……。
いやいやいや、たまたまだ。
たまたまに決まっている。
「王太子って、カール兄の息子のウィリアム君だろ?」
「そうなの。久しぶりに会ってカッコよくなってて驚いたんだって……。」
んー、しかし公爵家としては……あれ?
案外悪くないのか?
あの子が今10歳。
卒業後に結婚するとしてまだ8年ある。
8年あれば、フィンスター家とヘレオール家を分ける事も出来るだろう。
ジュリアがフィンスター家を名乗るかヘレオール家を名乗るかは未定だが、どちらの家と王家が結び付いてもまぁ問題はない。
しかも、今ひとつ金のない王家である。
おそらくカーライル王も問題なく2人の婚約を認めるだろう。
……金持ち公爵家と王家の愛のない政略結婚。
いやいや、落ち着け私。
こんな話よくある話さ。
原作ゲームのブレイブ・ブレイドは乙女ゲームじゃあないんだ。
まだせいぜいワンアウト。
試合はここからだ。
「い、家同士の問題はないとしてだ、当人同士はどうなんだ? ウィリアム君は何と?」
「それは分からないけど、反対はしないんじゃない? ほら、あの子は典型的な良い子って言うか、王太子として自分を殺しているって言うと辛辣だけどね。 家同士の話ならNoとは言わないと思うわ。」
「それあれか? 王立学園に入学して出会った平民の女の子に、身分とか関係なく、ありのままの貴方が好きとか言われるとコロッと落とされやすいと言う事か?」
「ま、まぁありえる……かな? って言うか、やけに具体的ね?」
……ヤバいぞ。ツーアウトだ。
困惑するベスを他所に、思考の海に落ちる。
あのゲームを作った会社が私の知らない所で乙女ゲーを作っていたと言う可能性はないか?
はっきり言って、あの会社のシナリオライターは凡百のストーリーしか作れない。
むしろ王道こそ至高とか言ってそうな人種だ。
ブレイブ・ブレイドの世界観を使って手垢のついた陳腐な乙女ゲーを作った可能性は充分有り得るだろう。
「あー、……でもジュリアの世代はなかなか面白いのよ?」
悩み出した私を慮ってくれたのか、ベスが話題を変えようと声を掛けてくれる。
「ウィリアム君以外にも、宮廷魔法師団の団長の息子とか、近衛騎士団の団長の息子とか、宰相の息子とかいるの! こんな偶然なかなかないわよね!」
す、スリーアウト……。
いや、もう絶対そうじゃん!
これ乙女ゲー展開じゃん!
個性豊かな高貴なイケメン達と過ごすドキドキファンタジー学園ライフじゃん!
―――諦めろ。試合終了だ。
私の頭の中で再び白髪小太りな偽恩師が試合終了を告げる。
うるさい。安西先生はそんな事言わねえよ!
頭を抱えつつ、私の内心ではふつふつと反逆心が湧いてくる。
いいさ。やってやる……。
それが運命だとしてもぶち壊してやる。
なんて言ったって私は―――。
悪役貴族のお父様だからなっ!
こちらで第一章完結となります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
明日からは第二章が始まります。
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