お父様とかみさん
基本的に私は非常に強い権力を持っている。
何せこの国1番の大貴族。
公爵だからだ。
公爵とは簡単に言うならば王家の親戚であり、何なら王位継承権すら持っている。
王家に次ぐ準王家とすら言える立ち位置だ。
ただの公爵家ですらそれなのに、我が家はさらに特殊である。
なんせ私の生家であるフィンスター公爵家と、ウチのカミさんの生家であるヘレオール公爵家が戦後のどさくさに紛れて引っ付いた、言わば二重公爵家と言う訳の分からない家なのだ。
さらに、そこに私の前世知識によるチートが加えられる。
大陸唯一の銀行業務。
そして紙幣の発行権。
―――まぁ、これについてはまだまだ兌換紙幣の域を出ていないが……。
さらに国中を繋ぐ陸・海の運輸業。
各種インフラの開発、管理、整備。
そして様々な魔導具や魔法の開発とその権利。
ここまで牛耳れば私の権力は軽く王を超える。
何なら好きな時に好きな場所で戦争を起こせるし、気に入らない貴族を私の一声で潰すことすら可能だ。
もうここまでになると、王ですら私に逆らう事が出来ないレベルである。
しかし、そんな貴族として無敵な私にも逆らえない存在がある。
「―――王都での戦闘行為……。しかも、超位魔法を使用? それにその目標が王城の一部である大時計塔? ……正気とは思えないわね?」
《《彼女》》はパサリと机に報告書を投げ捨てる。
形良く整えられた爪先でコツコツと机を叩く。
彼女が悩む時によくする癖だ。
王城にある王家のプライベートエリア。
その応接室に緊張が走る。
彼女はその美しい長い金髪を後ろに跳ね除けてソファに体重を預けて腕を組む。
多分、彼女の中で事態を呑み込み切って結論が出たのだろう。
……実に恐ろしい。
「い、言い訳をする様だが、緊急事態だったのだ。 何せテロリストが大時計塔に潜んで競技場を狙っていて……。」
「その結果、一般人を待避もさせずに超位魔法を叩き込んだって事かしら?」
ギロリと大きなエメラルドグリーンの瞳が、言い訳をする私を睨みつける。
うっ……。怒っているな……。
彼女は善人だ。
それ故に無辜の民が虐げられるのを酷く嫌う。
「あ、あー、うん。ロベルトの肩を持つ訳ではないのだが、事実としてロベルト達のお陰で競技場にいた私達は助かったのだ……。」
見かねたカーライル王が私のフォローに入ってくれる。おぉ!もっと言ってやってくれ!
「失礼ながら王よ。この15年の平和で少し鈍ったのではありませんか?」
その流麗だがまるで真冬の水の様な冷たい声がカーライル王に向けられる。
その口調はまさに貴族然としたものだ。
「我々貴族はこの国の剣にして盾……。
我々が死ぬ時は常に民草よりも先でなくてはなりません。彼等を巻き込まねば助けられぬ貴族に何の価値があるのです?」
彼女は武人だ。
……うん。つまり、無能な王ならば他の貴族諸共死ねば良かったと彼女は言っているのだ。
事実、彼女の生家の貴族達は自領の民を守る為にほぼ全員が戦死した。
彼等があまりにも強過ぎたから魔族達が人身御供すら用意して彼等に呪いをかけたのだ。
もう自分達が長くないと知った彼等は、私に彼女と領地を託して笑って死兵となった。
そんな彼女だからこそ、民を巻き込んだ攻撃を命令した私の判断に苦言を呈しているのだ。
「あー、勿論、君の言う事は理解出来る。
だからこそ時計塔にいた者達に被害が及ばないのを前提に作戦を組んだつもりだ。ちゃんと全員無傷でテロリストを処理できたぞ?」
「ええ、そうでしょうとも。いつも通り全ては貴方の掌の上なのでしょうね? 公爵閣下。」
「やけに突っかかるじゃないか。」
真っ直ぐした物言いを好む彼女にしては珍しく皮肉めいた口調だ。
「……ちょっと悔しいだけ。 文句はいくらでも出て来るのに、具体的な代案が何一つ出てこないから感情的になってるだけよ。」
冷静に、でもどこか子どもっぽく口を尖らせる。
私と同い年のはずのその振る舞いは、何だかもっと幼く見えた。
彼女は私の幼馴染だ。
普段は凛としているのだが、昔から心を許した相手には少し子どもっぽく振る舞う。
「まぁ私とて色々考えた末の蛮行だからな。
王や民を守る為には、私の出来る範囲ではああするしかないと思ったんだ。」
「そういう事にしといたげるわ。」
ふぅと溜息をつき、少し悲しげな瞳で彼女は私を見た。
「……でも、レオナルドを―――、我が子を守る為とは言わないのね。」
彼女は我が子を愛する母親だ。
いつも子ども達の事を気にかけ、我が子の為に出来うる限りの愛を注いできた。
なるほど。
彼女が怒っているのはそれもあるのかもしれないな……。
「言わない……いや、言えないな。
あの子はまだ大人ではないが、もう親に守られるだけの子どもじゃあない。
今回はたまたまあの子も含めて助けたが、今後は私があの子を頼る事もあるだろう。」
それに、男の子だしな……。
いつまでも親に頼りっぱなしなのも嫌がるだろう。男の子にはプライドがあるのだ。
「はぁ……。何だか一端の父親みたいね。
男同士で分かりあってるみたいな感じ……。
その点私はダメね。ろくに母親らしい事も出来ないのに、甘やかす事ばっかりでさ……。」
彼女は口をとがらせてポツリと私にだけ聞こえるように愚痴を言う。
「ろくに親らしい事をしてこなかったのは私も同じだ。それに、甘やかす事も大事だと思う。特に私達の様な男にとってはな。」
「なに?甘やかされたいの? んー、5人目いっちゃう?」
ニッと笑う人懐こい笑顔が私に向けられる。
初めて会った時から変わらない、彼女の素の笑顔だ。
彼女の名はエリザベート・ジュリア・フォン・フィンスター=ヘレオール公爵夫人。
あまりにも苛烈な最後を迎えた武人の一族、
ヘレオール公爵家の生き残り。
レオナルドの母親であり、私の幼馴染であり、―――私のかみさんだ。
「なぁ。5人目でも6人目でも良いが、そう言うのは家でやってくれないか?」
呆れた顔で苦言を呈するカーライル王。
親戚とは言え、他所の夫婦が自分の家で何だかイチャついているのだ。キングからするとさっさと帰って欲しい気持ちでいっぱいだろう。
「ええ、そうですね。私も夫と会うのは数ヶ月ぶりですし、さっさと家に帰りたいのですが、―――問題はこれです。」
そう言ってベスが机に置いたのは1枚の請求書だ。
そこには私達が壊した大時計塔と王城の修繕費が書かれていた。
「夫の証言では、王を含めたこの国の貴族共を守る為の致し方ない処置だったとの事。つまり、この請求をウチが払う謂れはありません。」
「い、いや、しかし、そうは言うが王家には金が―――」
あ、バカキング!
そんな分かりやすい言い訳をしたら―――!
「つまり、王よ。貴方は己の無能を棚に上げ、恥知らずにも他家に無心する事しか出来ないクズだと仰ているのですか?」
彼女の目が朱に染まり、周りの気温が下がる。
もう4月なのに部屋の温度が身震いするほどに冷やされていく。
氷乱の姫騎士。
かつて戦場でそう謳われた鬼女がそこにいた。
「王を諌めるのも臣下の務め。良いでしょう。久しぶりに領地から王都まで出てきたのです。じっくりと鍛えて差し上げましょう。」
「い、いや、ほら夫人もお忙しいでしょう?
余も王としての仕事もあるし……」
「何を他人行儀な……。親戚同士、遠慮は不要ですよ? カールお兄様?」
あぁ、可哀想に……。
こうなったベスに逆らうなど愚か者がする事である。
「……時にあなた? 先日、当家から王家に対して高額の振込をした様なのですが、この説明を聞かせてくれるかしら?」
……え?
「それは当家としても無視出来ないレベルの金額よ。……この国の戦災復興費5年分くらいになるわねぇ?」
ばれてーら。
この後、2人揃ってこってり搾られた(物理)




