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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第一章 長男入学編

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悪役貴族とお父様の背中

あぁ、クソ! いい加減倒れろよ!

そうしたらこっちも倒れられるのにっ!


恐らくアルも同じ事を考えているのだろう。


さっきからどちらが先に倒れるかの意地の張り合いになって来ている。



俺の渾身のコンビネーションをアルは被弾しつつも致命傷を避け、時折、俺の隙をついた痛烈な反撃を繰り出してくる。


攻防は一進一退。


体力も魔力もお互い限界が見えて来た。


―――いや、正直に言うなら俺の方は限界なんてとうの昔に超えていた。



俺の魔力量はアイツより下。

体力だって俺には数年のブランクがあるのだ。

アルの方が素の身体能力は高い。


昔取った杵柄であるウチの騎士団仕込みの技術で何とか誤魔化してはいたが、俺はこの終盤になって無様に地金をさらけ出している。



よく頑張った。

もう良いじゃないか。

皆認めてくれるさ。


さっきから弱い自分が頭の中で言い訳を繰り返している。



……この数ヶ月、俺は変わったと思う。


尊敬する人と話が出来て、多少でも認めて貰えていたのだと知れた。


命を懸けて好きだと思える人が出来た。


親友と言える友も出来た。



だから、もう良いだろ?


俺は頑張っただろ?


このまま倒れて、流石だと親友(アル)を褒め称えれば良いんだ。


きっと想い人(ユーリア)は優しくしてくれる。


尊敬する人(お父様)だってそんな俺を怒りはしない。



そんな弱い自分の甘言に耳を傾けてしまう。


あぁ、そうかもな……。



そう思った瞬間、競技場が震えた。


ズズンと、まるで巨大な化け物が歩く様な低く不気味な揺れ。


そして同時に異様な魔力が駆け抜けていくのを確かに感じた。



「な、なんだ……この魔力……?」



距離が離れ過ぎていてよく分からない。

いや、離れていても感じれてしまうのが異常なのだ。


それは遠くの火山の噴火の様なもの。


本来なら分かるはずのない距離なのに、それが伝わってしまう程の巨大な魔力だった。



「今の魔力は炎系の魔法……だと思う。

でも規模感が桁違いだ。多分、超位魔法とかそんなレベルじゃないかな……?」



気付けば、アルも動きを止めて俺と同じ方向を向いていた。


アルは炎系の魔法使いだ。

同属性の魔力には俺以上に聡いのだろう。


「炎系の魔法使いでここまでの位階の魔法が使えるとなると……。」


思い付くのはウチの騎士団の隊長格。

『爆炎九尾』トニー・エイブラム辺りか?


2つ名持ち(ネームド)ばかりの公爵家騎士団の中でもやはり各隊の隊長となるとまた別格の実力者揃い。


魔法攻撃を得意とする者達は、習得が困難過ぎる超位魔法や、固有魔法等の唯一無二の使い手ばかりだ。


観客席の人達も外で何か起こっているのを気付いたのか、会場が今までとは別種の騒がしさに包まれていった。



『諸君。静粛にせよ。』



その一言で会場のざわめきが水を打ったように静まり返った。


カーライル王だ。


観客席の中央。

そこには王が静かに立っておられた。


一応、俺の親戚ではあるのだが、流石に話したことはほとんどない。


魔法で増幅してはいるものの、不思議とその声はよく通った。



『今の揺れはフィンスター=ヘレオール公爵達がこの会場を狙う痴れ者達を誅した余波だ。』



お父様達が!?



『公爵からは既に下手人は処理したと報告が入っているので先ずは安心して欲しい。』



やはりそうか……。

よくよく考えれば当たり前の事だ。


ユーリアの1件でもそうだったが、お父様は今回の件で横槍が入ると考えていた。


それこそがオディマと呼ばれる大戦の亡霊達が集まったテロ組織なのだろう。


実際は杞憂に終わったが、ユーリアの家もそのオディマ達に勧誘を受けていたらしい。


そんなお父様は万が一もないくらいの厳重な警備を敷いていたのだろう。



『―――しかし、類まれな若き騎士達の名勝負に水を差してしまったことは、公爵に成り代わり私から皆に謝罪させてもらう。』


カーライル王が俺達の方を見て謝罪を口にする。



「え……あ、いや、その、と、とんでもない……です。」


「滅相もございません。王の寛大なお言葉に感謝致します。」


予想だにしていない王の発言に俺達は慌てて膝まづいて頭を下げる。



『―――ふむ。しかし、さあ今から試合を再開しろと言うのも興に欠けよう。事態の収集で奔走している公爵を無視するのも何だし、ここで一旦休憩を挟もう。』


そうカーライル王は仰って実況席のユーリアを見る。


『カーライル王に公爵家を代表して感謝を。

皆様! これより20分のインターバルを挟ませて頂きます! お手洗いは会場を出て―――』



カーライル王の意図を組んでユーリアがアナウンスを引き継ぐ。


競技場の隅に俺たち用の椅子と水分補給用の水が手早く用意された。


まるで事前に取り決めをされていた様にユーリアはテキパキと周りに指示を出している。



ユーリアは何だかんだと言って優秀だ。


それに比べて自分の体たらくには嫌気がさす。


もしあの時試合が止まらなかったら、きっと俺は試合を投げ出していた……。


今もどうすれば不格好に見えずに試合を終わらせれるかを頭の片隅で考えている。


俺は情けなくも折角用意された椅子に向かおうともせずに崩れたリングの片隅に立ち尽くす。



「……皆、本当に凄いよな。」


ボソリと後ろからアルの声が聞こえた。


「それに比べて、オレは全然だ。」


コイツは何を言っているんだ……?

お前に俺は―――。



「……正直、体力も魔力も限界でさ。

あの時、試合が止まらなければ多分オレは倒れ込んでたと思う。」



―――は?

お前は何を言っているんだ?



情けない話だけどさ、なんて言ってアルは苦笑いをする。


「自信を無くすよ。 絶対勝つんだって必死に努力をして来たつもりだったけど、レオにはいい様にあしらわれるし……。」


「……それはこっちの台詞だ。 俺は10年以上必死にやって来たんだぞ? そりゃあ数年はブランクがあるが、たった2ヶ月やそこらでここまで追い詰められている俺の身になれ。」


「そ、そうは言うけどさ! オレの方が魔力量はあるのに全然引き離せないんだぞ? やっぱり制御力に差があるんだ。 そりゃあ頭の悪いオレだって現実を知って心が折れるだろ?

それに―――。」


「素人同然だった奴に日に日に近付かれるとか、もういっそ恐怖を感じるレベルだぞ?

それに―――。」




「「あの魔法の威力は絶対おかしい」」



異口同音。

同時に先程の揺れの原因となったあの超位魔法の話が口に出た。



「……やっぱりおかしいよな? 確かにオレ達何かまだまだなのかも知れないけどさ。

あの威力はやり過ぎだろ。 しかもあの学長さんがオレたちは英雄クラスとか言ってたじゃん。

あんなの絶対嘘だよ。」


「そうだな。 あんな理不尽な威力の魔法を使える奴と同格とかあの学長の目が腐っているとしか思えん。 俺達にあんなレベルを期待されても困るんだが?」


「ホントそう。ホントそう思う。 大人の理不尽さを感じるよな!」



揃って理不尽な大人達の文句を言い合う俺達。



あぁ、そうか……。

コイツも俺と同じなんだ……。



ふふっと、どちらともなく笑い合う。



「はぁ……。なぁ、アル。勝っても負けても、先は遠そうだな。」


「―――だね。 レオはあの領域を目指してんだろ? 頑張ってね?」


「お前も目指すんだよ。 他人事みたいに言うな。」


「な、なんでさ? オレは平民だし―――」




「でも俺の友達だろ?」




多分、初めて俺はちゃんとアルの事を友達だと口に出して言ったと思う。


それは思っていた以上に自然と口に出た言葉。



お父様の、英雄の背中を追う。



幼い頃からの俺の目標だった。


でも、それは単にお父様に認められたいだけの子どもじみた欲求だった。


そして、そこはそんな欲求だけで目指せるほど甘い領域ではない。


でも、コイツと一緒になら―――。



「どんな理屈だよ……。って言うか、理屈になってないだろ。 屁理屈ですらないよ。」


「煩いな。馬鹿の癖に理屈を捏ねるな。

……お前となら、やれそうな気がしたんだ。」



照れて顔が赤くなるのが自分でも分かる。

そんな俺を見て目を丸くするアル。


「―――は、ははっ! あっははははは!!

何柄にもない事を言ってるんだ? あー苦し。」


涙を流しながら笑うアル。

ちっ。言うんじゃなかった……。



「―――あぁ、……でも、そうだな。

1人じゃ駄目でも、オレたちならやれそうだ。」


アルの目に炎が灯る。



「どうせやるなら頂上を目指すのが男の子だよな?」


「ふん。1位は俺だがな。お前には次席をくれてやる。」


不敵に笑い合い、拳を重ねる。




―――後から思い返すと、多分この時が切っ掛けだった。



『白炎の虎王』アラン。

『黒雷獅子王』レオナルド。



後の世、不遜にも王の名を名乗る事を許された王国最強の二大騎士。


俺達はそう呼ばれる事になる。

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