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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第一章 長男入学編

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魔族と死神

それは神獣と見紛う程の美しさだった。



混じりっけのない純粋な赤が形作る炎の狐。

火の粉を纏う9本の尻尾が線を描き、真っ直ぐと飛んで来る。


屋根の上に潜んでいた魔族であるサルガタナスが思わず見蕩れてしまったほどだ。


サルガタナスは魔族(デーモン)の中でも悪魔族(ディアボロス)と呼ばれる上位魔族である種族だ。


その魔力は絶大。

単純な戦闘力だけなら吸血鬼(ヴァンパイア)を凌ぐほどである。


彼は今、精緻に描かれた魔法陣の上にいる。


競技場を狙う為の超長距離爆破魔法の為の大事な儀式の最中だ。



「―――ちっ! アイツら正気か!?」


慌てて防御結界を展開し、大時計塔を護る。


この場所を選んだのは王を初めとした貴族達が競技場に移動した為、一時的にここが手薄になっているから。


そして、仮にサルガタナスの事が露見したとしても潜伏先が王城ならば派手な事は出来ないと判断したからだ。


偶然、この時計塔のメンテナンスが行われているのも都合が良かった。


容易にメンテナンス要員に紛れ込み塔内に侵入する事が出来たのだ。


しかし―――。


全てを無に返せるだけの魔力を秘めた九尾の狐がサルガタナスに向かってくる。


「この魔法―――! いるのだな!? ここに! あの忌々しい『黒鍵』どもめっ!!」



それは魔族の戦士に伝わる戦場の御伽噺。


交差する2本の鍵の紋章には近付くな。


奴等はあらゆる戦況をひっくり返す化け物達。

黒輝の死神が率いる赤眼の鬼達の群れ。


奴等に近付く者が待つのはただ死のみ。



サルガタナスは魔族の英雄の1人として、降魔大戦に参加していた。


黒鍵達と接敵した事は何度もある。


しかし、その結果は散々なものだった。


奴等は十重二十重に敷いた隊列を食い荒らし、頑強なはずの城壁を易々と破壊し、おびただしい数の死を振りまく化け物達。


亡くした戦友は数しれず。

サルガタナス自身も何度も死線をさまよった。



「その魔法……。俺は忘れんぞ!」



それは歴戦の勇士たるザルガタナスをして忘れることの出来ない苦い記憶。


魔族達がようやくの思いで奪取した城塞都市オーディス市。


王国との中間点にあるこの都市を橋頭堡として魔族達は戦争を一気に進めるつもりだった。


しかし、たった1発の魔法が全てをその業火で焼き尽くしてしまった。


強固なはずの城壁を、そこを守護していた駐留軍を、そのたった1発の超位魔法が消滅させたのだ。


生き残った魔族はサルガタナスを含めて10名もいなかった。


それはまさに悪夢だった。


大戦が終わって15年。

それだけの年月が経っても、彼の悪夢はまだ晴れない。


サルガタナスはまだあの戦場にいるのだ。



「積年の恨み……ここで晴らすっ!!」



その刹那。


超位魔法『爆炎纏う九尾の狐ナイン・バースト・フォックス』とザルガタナスの執念で練り上げた渾身の結界がぶつかる。



「ぐぅおぉおおおおっ!!!」



結界と九尾の狐が接触した瞬間、轟音と共に巨大な時計塔が揺れ、ビリビリと周辺の建物が震えた。



両者のぶつかり合いの結果は拮抗。


九尾の狐は結界を超えることは出来ず、結界は九尾の狐を完全に消し去ることは出来なかった。


しかし、それは本来触れる全てを灰にする九尾の狐の本懐を考えれば、むしろトニーの敗北と言っても良かった。



「ちぃっ! あの魔族野郎やりやがる!」


己の最強魔法を止められたトニーが思わず舌打ちをする。


自分が心血を注いで習得した超位魔法は間違いなく最強のひとつ。


どんな魔法や技とぶつかり合ってもこうま完璧に止められたのは初めてだった。



「―――だがよぉっ! 九尾の本気はここからだっ!!!」


トニーの声に反応する様に九尾の狐が動く。


ブワッと9本の尻尾が広がり、その炎の輝きがさらに増しその熱量が一気に上がる。



まとめて吹っ飛べナイン・ブラストエンド……!」


9本の尻尾の輝きが最高潮に達した瞬間―――、

世界が吹き飛んだ。



最初に感じたのは光。

その後に続く轟音と圧倒的衝撃。

そして全てを燃やすが如くの巨大な熱量。


一気に膨張した空気は上昇気流を生み出してあらゆるものを吹き飛ばす。


9本の尻尾に込められた莫大な魔力を連鎖共鳴し、最大効果範囲である2km圏内を完全に滅却する炎滅昇華魔法。


これこそが城塞都市オーディス市の城壁と、そこを守護していた駐留軍を蒸発させた超位魔法

爆炎纏う九尾の狐ナイン・バースト・フォックス』の本領である。


しかし―――。



「くっ……、くはっ! くはははははははっ!」



狂ったような笑い声が爆煙から木霊する。



「ま、マジか……! 俺の全力を耐えやがったのか……!?」


パキィンと結界がひび割れる音が響き、その中から無傷のサルガタナスが現れる。


「やった! やったぞっ!! 見たか化け物めっ! 遂に俺はあの悪夢を乗り越えたのだっ!!」



大時計塔はボロボロだった。

窓という窓は割れ、綺麗に重ねられていたレンガはいたる所でひび割れている。

その外装に無事な箇所などどこにもない。


しかし、サルガタナスの言葉通り、大時計塔はあの爆発を耐え切っていた。



「くっくっく! もう少しで魔法陣の術式も完成する! 貴様達はそこで王や貴族共が死ぬ様を見ているがいいっ!!」



「―――それは御免こうむるな。」



パァン!


乾いた音と共にサルガタナスの胸を黒の弾丸が貫いた。


彼は何が起こったのか全く理解できないまま崩れ落ちる。


その哀れな戦士を紅の魔力を纏う死神の赤い双眸が見下ろしていた。



「『不壊防壁』のサルガタナス。オディマの4人の最高幹部『死四天』の1人だな。

先の大戦に参加していた魔族の英雄の1人で、大戦の結果に不満があってオディマに参加している―――間違いないな?」


「な……なぜ、それを……」



サルガタナスには全く意味が分からない。


何故自分が倒れているのか。

何故この男は自分の事をこうも正確に知っているのか。


彼が分かるのは2つだけ。



もう幾許もなく自分は死ぬ。


胸には拳大の大穴。

吸血鬼(ヴァンパイア)ならば問題なく再生出来るだろうが、彼は悪魔族ディアボロス


そこまでの再生能力は備わっていない。



「ふむ。やはりな。個々人の情報に限って言うなら原作と現状に違いはそうないな。注意すべきはその人間関係の変化になるか……。」


いきなり現れた男はよく分からない事を言いながらサルガタナスを見下ろす。



やけに輝く赤い瞳。

撫で付けられた漆黒の髪。


身なりのいい格好をしているが、その基調はドス黒いまでの黒。


そして何より上位魔族すら超えるかもしれない異様な赤い魔力。



―――あぁ、やはりそうか。


コイツは死神だ。


あの化け物共の首魁。


黒輝の死神。



「……しかし、思ったよりお前の結界が脆弱だったのには肝を冷やしたぞ。 トニーならお前の結界を何とか出来ると思っていたが、想定より時計塔にもダメージがいってしまったな。」


人的被害がなさそうなのは救いだが……。

などと呟く死神(ロベルト)にサルガタナスはお前らを基準に考えるなと内心毒づく。



「まぁ懸念を多少でも払拭出来た礼だ。

このまま放って置いても君は死ぬが、介錯をしてやろう。」



―――サルガタナスは訳も分からないまま地に倒れ伏した。



炎蛇の情報から原作知識のあるロベルトが時計塔に潜んでいるのは結界魔法に長けたサルガタナスだと確信した事。


『爆炎九尾』と謳われたトニーなら強固なサルガタナスの結界を抜けると判断した事。


そしてトニーが結界を破った隙に『赤眼武神』となってサルガタナスに近づき至近距離から黒の弾丸を撃ち込んだ事。



そんな事は彼には分からない。



彼に分かるのは2つだけ。


自分はもう死ぬのだと言うこと。


そして―――。



やはりそうだ。

コイツは本物の死神だ。



サルガタナスの目の前には彼を見下ろす無機質な紅の双眸だけが見えていた。

本日は二話更新です

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