お父様は暗躍する
それは、正に名勝負と言える戦いだった。
まだ拙いながらも、己が全てをさらけ出しての尋常の勝負。
そこには己に対する自信も不安も、相手に対する敬意も恐れも見て取れる。
未来に対する無限の可能性しかない2人の戦いはそれを見るもの全てを魅力していた。
「負けるなっ!レオナルド様っ!!」
「北部貴族の意地をみせてやれ!!」
「ゴーゴー!レオナルドさまぁー!!」
「アラーン!!根性みせろ!!」
「平民とか貴族とか関係ねぇ!お前は戦士だ!遠慮なくやっちまえ!」
「「せーの! アランくーん!頑張れー!!」」
最初はただ場に流されて発されていた観客達の声援も試合が進むに連れ、まるで昔から2人を応援していたかのように熱が入る。
私は脳筋と表現しているが、このノリの良さと言うか、分かりやすい熱しやすさはヴァリアント王国の国民性と言えるな。
「電光石火のレオナルド様の手刀がアランさんを襲うっ! 白炎を纏ったアランさんが―――受け止めたぁっ!! それを読んでいたのか!?
レオナルド様の連続蹴り! おおっと! 避ける避ける避けるっ!!」
「格闘戦では騎士としての完成度が高いレオナルド君有利ですが、アラン君の反応速度は素晴らしい! そして、あの子には一瞬の隙をついて相手の喉を噛み切れる牙がある。 黒雷の獅子と白炎の虎の実力は完全に拮抗しておる!」
実況のユーリア君と解説のワイズマン学長の舌が驚く程によく回る。
と言うか、赤眼状態の2人の攻防についていけるとか、どんな実況力と解説力なんだ!?
どうでもいい事に戦慄する私を置いてけぼりにして試合は佳境を迎えようとしていた。
2人とも既にボロボロだ。
服は破れ、身体中のいたる所に打ち身やアザ、火傷を負っている。
しかし、その赤く光る眼に宿る闘志には一切の衰えが見えない。
―――いや、それどころかその闘志の炎は最高潮に達している。
「……そろそろ2人の限界も近い。多分、次の攻防で勝負が決まるな。」
渋い顔で私の隣でカーライル王が呟く。
……何だかハードボイルドな感じで格好付けているけどさ。さっきから試合を見ながら興奮しっぱなしなので、持っているポップコーンがいたる所に飛び散っているんだが?
人知れず小さくため息をついて会場を改めて見渡す。
誰も彼もが熱狂し、あの2人を応援している。
最初のレオナルドの大魔法でリングは砕け、場外と言うルールは消えた。
さっきから放たれた魔法の余波を観客達が受けているが、そんな事誰も気にしていない。
ルールは適当、安全性なんて無視。
だがしかし、人を狂わす熱がここにはある。
ここはどこまでも野蛮な聖域だ。
きっと、どっちが勝っても結果は変わらない。
割れんばかりの万雷の拍手が鳴り響き、勝者も敗者も関係ない程に称えられるのだろう。
多分この試合から少しずつこの国は変わる。
貴族達は平民にも凄い奴がいると気付き、平民達は自分達にも力があると気付くだろう。
その結果、未来がどうなるかは……、この先レオナルド達がどうなるのかは神ならぬ私には分からない。
しかし―――。
私の頭に冷たい声が響く。
(E隊より司令部。目標に感あり。
目標は4人1組の一個小隊。A8通路奥のポイント02にて監視を継続中。)
今この時は私が子ども達を守る。
それが親である私の仕事だ。
―――――――――
――――――
―――
王立学園の競技場。
それは歴史のある建築部だ。
元々は王国騎士団の練兵施設として建てられ、時には名のある貴族派閥の決起集会で使われたりと様々な歴史がある。
歴史があると言うことは、言ってしまえば古い建物であり改築や修繕を重ねたツギハギだ。
しかも、今回の試合をするにあたって学園長は公爵家から援助を受けて大規模な改修工事を行っている。
それは1ヶ月やそこらの突貫工事。
短い工期を成立させる為に大量の人員が雇い入れられている。
そんないかにもザルな管理体制での工事が行われた競技場には、私やカーライル王のせいで国中から貴族が詰め寄せている。
これを見逃すテロリストはいないだろう。
「―――状況は?」
念話魔法で呼び出され競技場の外に張られた天幕、フィンスター騎士団の簡易司令部に入るなり私は短く訊ねた。
「閣下! お待ちしておりました。」
10人ほど作業をしていた騎士達が手を止め、敬礼をする。
のっそりと、まるで山賊の親分の様なスキンヘッドの大男が私に話しかけて来る。
我がフィンスター公爵家が誇る第三騎士団長、『斬魔戦鬼』ゲラルド・フォン・ガーランド子爵だ。
仲間内では『鬼ハゲ』、『山賊の親分』等と呼ばれているナイスガイである。
「―――状況は要警戒。5分前に魔族と思われる4人1組の集団を発見。現在はE隊が継続して監視中です。」
「例のテロリスト、オディマだと思うか?」
「可能性は高いでしょう。まぁ賊は賊。
相手が誰であれ、我々のやるべき事には違いがありませぬ。」
見た目こそ粗野だが腐っても騎士団長。
その話し方はスマートだ。
話している内容は蛮族気味だが……。
発見場所は地下の要警戒区域の8番通路か……。
そこから数百mほど進めば丁度、観客席の真下にたどり着くな。
競技場は地下に広がっており、メンテナンスなどがしやすい様に造られている。
「……爆弾を設置するには良い場所だな。」
「ですな。我々に取り押さえられても自爆すれば結構な数の王国貴族を巻き込めます。想定していた中でも最悪のポイントです。―――つまり、想定内ですがね。」
「……対策は?」
「競技場地下全域に魔力遮断装置を設置しております。ちなみに、既に内部に潜入した魔族達の調べはついております。」
そう言いながら手際よく私に資料を渡してくる団長。
魔力遮断装置。
私が戦時中に開発した兵器群の一つだ。
みかん箱くらいの大きさの装置で、起動すると半径50mの魔力の動きを阻害する。
魔族達はその名の通り、魔力を操る民族だ。
奴らの戦闘は全て魔力を基本としている。
この装置を使うだけでアイツらの馬鹿みたいな攻撃力をなくすことが出来る素敵装置だ。
「火薬を持ち込まれる可能性は?」
「ありえます。しかし、持ち込める程度の火薬量では問題ないと判断しました。」
確かにそうだな。
この世界では魔法があるせいか科学技術全般が未発達だ。
なので火薬等も一応は存在するが、前世ほどの効果の高いものは存在しない。
「E隊は隊長のヴァーリを中心に非魔力戦闘のスペシャリストで構成されていますし、問題はないと判断しています。」
「―――だな。他の班は周辺地域の警護か?」
「はい。近衛と共同で周囲5kmを探索させておりますが、今の所不審者や不審物は発見されておりません。」
確かゲームだとオディマ達はそこまで大きな組織ではなかったはずだ。
首領の下に四天王的なポジションの奴らがいて現場監督的に暗躍をしていた。
この場にいるのは補足された4人だけ……。
ウィリアム団長から貰った入り込んだ魔族の情報を見る限り、ゲームで見た覚えのある魔族はいない様だが……。
ぬぅ。これはどう判断するべきか……。
侵入してきた4人の魔族は対処する。
これは当然だ。百人斬りで有名な『剣豪』ヴァーリを中心にした接近戦闘のスペシャリストが向かっている。
負ける要素はないと見て問題ない。
―――しかし、何だか腑に落ちない。
「……陽動の可能性をお考えですか?」
「ああ。奴等が動き出した。そして我々も対処に動く。そんな当たり前の事を敵が想定していないのだろうか……?」
単なる勘なのだが、どうも気になる。
ユーリア君の件では外れた私の勘だが、あれも完全に外れと言う訳ではなかったし……。
「―――ふむ。何か気になる事がおありのようですね。……リロイ! いるか!? リロイ!」
私の不安を感じとった団長が叫ぶ。
リロイ? ……リロイか!
そうか! あいつがいたな!
「は、はいぃぃ! お呼びでしょうか!?」
天幕に飛び込んできたのは気弱そうな小柄で小太りの40半ばくらいのオッサンだった。
仲間内の呼び名は『小さきもの』リロイ。
その名の由来は小柄で小太り肝っ玉も小さい。
その上、私は見たことがないが、男性自身としても小さいからだそうだ。
魔力量もかなり少なく、あまりにも不出来な為実家から勘当同然で追い出された何だか切ないエピソードもあるらしい。
これでザマァ展開があれば格好良いかもしれんが、リロイの場合はそうでもない。
いや、ザマァな感じになるかとも思ったのだがそうでもなかったと言うか、残念な感じに終わったと言うか……。
まぁリロイだしな……。
確かに公爵家騎士団で20年は働いてはいるが、別に剣の腕がある訳でもないし魔法も不得意。さりとて頭がいい訳でもない。
しかし、そんなリロイを私は万遍の笑みで歓迎する。
「久しいな! リロイ! 忙しい所すまんが力を貸してもらいたい。」
「こっ、ここ、こ、公爵さまっ!? 」
ニワトリかな?




